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声の神に顔はいらない  作者: 上松
308/403

308 思い出さえも美化されない

「わたひは……ずっと虐められてきました」


 うっ……行き成りのその発言に私の心が抉られる。向かいの右端に居る彼女にはどうして声優になろうと思ったのか、それを聞いてみたんだけど……そこからなんだって思った。隣の二人のパリピは復活して「えー酷ーい」とか宣ってるが、多分この子を虐めてた人種ってお前等と同じ奴だよ。


「そっかそっかーそれはきっと辛かったよね。声優になってその人達を見返そうとか思ったのかな?」

「違うんです……見返すとか……そうじゃない……ただ、私は何やっても……本当にダメダメで……小学校も……中学校も成績下から数えた方が早くて……高校は農業高校で、土いじりばっかりやってました。動物は怖いから……」


 ヤバいな……私でも入られない領域の話ししだしたぞこの子。強者か? 実は弱者に見せかけた強者なのか? 能ある鷹は爪を隠すのか? いや、どう考えても鷹じゃなく雀だけど。本当にこの子はどうしてここにいるの? わからない。一体何が起きたら、こんな田舎娘が大都会に来る決意をしたのか……私も田舎から飛び出してきた口だ。

 だって田舎では声優にはなれない。それは悲しいかな……現実だ。今はアイドルとかなら、田舎でも慣れるみたいだけど、声優はそんな訳はない。ローカルアイドル……ロコドルとか言われたりするのがいるけど、ローカル声優なんてのはいないのだ。


「農業高校なんてあるんだ……」

「おもしろーい」


 とか残り二人が言ってる。ちなみに二人は結構有名な高校を出てるみたいだ。案外頭良いのか……こんな頭パリパリしてそうなのに……二人は輝かしい……とまでは言わないが普通の学校生活を送ってたらしい。高校でも仲の良い友達とつるんで放課後は遊んだり、時には彼氏をつくったりして、高校生活を楽しんだと言ってる。


「あーあの頃に戻りたい」

「本当本当……お仕事って辛いよね~」


 二人ともまだ仕事らしい仕事なんてして無いと思うけど……


「わたひも……帰りたい……田舎に……」

「ど、どうして東京に出てきたのかな?」

「ばっちゃんが一度は都会にでも顔出せってい、言ったんです。それで、アルバイトだけするために……ちょっとだけ……」

「うん? アルバイトだけってどういう事?」

「だから……東京の方のアルバイト……一日中、座って交通量数えるのの為に出てきました。数え間違いが多くて、クビになりましたけど……」


 ヤバいなこの子。ある意味でヤバい。キャラというか……この子の場合は作ってないんだよね。てかアルバイトの為だけに東京に出てくる子を初めて見た。普通はアルバイトはおまけでは? 大学や、専門とか……それこそ就職とかでしょ……


「えっと、本当にアルバイトだけ? 実は大学や、専門学校とかに行ってたり……」

「わたひに大学なんてそんな……専門学校も別にやりたいことないし……出来る事もないし……でも生きる為にはお金稼がないと、だから……これです」


 これ――と言うのは声優だろう。でもそれは声優がこの子には簡単に見えたのかな? 確かに声優は絵に声を当てるだけの簡単なお仕事……なんて物じゃないよ! その発言にはちょっとカチンとくるよ。なにせ私はこの職に人生賭けてる。勿論それを声に乗せないし、表情にも出さないけどね。

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