303 作品は一人だけじゃ成長しない
PVを流し終わったパソコンをみつめる。何やら酒井武夫はウズウズしてるようだけど、自分はまだ余韻に浸ってる。そして自然と……
「よかったです」
……と出てきた。それを聞いた酒井武夫は「よし!」と言ってた。もうこれで彼の作りたい『異世界行き拒否家族』は見えたのかもしれない。作画も気になる物はなかった。だけど、PVとアニメシリーズは違う。でもそれは此花さんの厳しい審査をクリアしてる訳だし、そこは信頼しよう。
だから後は彼の監督としての資質だった訳だけど、それも今ので不安はなくなった。けど、やっぱり今のはまだ彼の、酒井武夫の解釈だけの異世界行き拒否家族だと思う。それでも良いとは思う。自分とは違う人の解釈が入った作品が生まれるのも、メディアミックスの醍醐味だ。
でもただそれを受け入れるだけじゃなく、もっと意見をぶつけた方が良い物にはなるはずだと自分は思ってる。だから色々と口を挟む訳だ。勿論こっちは原作者って事はその要望は通りやすい。でもそういうことじゃない。ただ自分の思うような作品を作って欲しい訳じゃない。
でもそこら辺は酒井武夫は大丈夫だとは思ってる。だってこいつバッシュ・バレルのタイプだし。あそこまでの才能が有るかはわからないが、ただ言われた事をやるような奴ではない。だから色々と窮地に立ってる訳だし。ある意味で本当にそこは信頼できる。
「もう一度、見て良いですか?」
「も、勿論!」
そういうわけで、自分はもう一度再生をする。二度目も通してみて、ちょっとしたデザートを注文。更にもう一度見てみる。
「やっぱり動いてるといいですね。てかこのキャラデザって誰ですか? まさか予定してる人に前払いとか?」
そんな余裕があったとは驚きだけど……
「いえ、そんな持ち合わせは……社内だけで済ましてますよ。いや、もう止めた奴らにも頼み込んでるんですけどね」
「それは……凄いですね」
まさかほぼ社内だけでこのPVを作ったとは驚きだ。でもまあ、酒井武夫にはそれしか無かったんじゃないだろうか? だって社外の人達を使うにはお金が必要だ。それがない以上、社内で作るしかない。社外の人も、元は社員だった人らしいし、めっちゃ頭を下げたんだろう。それだけ本気って事だろう。
「えっとイメージはどうですかね? 俺のイメージを伝えて、社員の奴らの意見も取り入れてデザインしたんですが……」
「違和感はそんなに無いですよ。でもそうですね……」
自分と酒井武夫はPVを見ながら、それぞれの意見を言い合う。ここは良いとか悪いとか、こっちの方が良いとか、どんな意図があるのかとか……たった一分三十秒……でもその時間の映像だけでも語ることは尽きることがない。
挿絵は一日一枚あげたいです。まあ既に一日サボったですけど。でも四つの作品のどれかになるので、必ずこの作品になるかはわからないです。




