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声の神に顔はいらない  作者: 上松
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298 焼き肉は心の会話

 今度は焼き肉屋で会うことになった。一部屋一部屋区切ってあってその個室も少ない高級店だ。こだわりの国産肉が食えるらしい。今度は酒井武夫は一人で来た。サポート的な野村さんはいないらしい。あの人がこの人の抑え役……みたいな感じがしたけど……


「今日は一人なんですね」


 ここに入る前にそう聞くと――


「あいつは今、とても忙しいんです。すみません」

「いえいえ、ただちょっと気になっただけですから」


 ――そんな軽い言葉を交わして、二人で中へ入って個室に通して貰った。勿論、自分が奥の方に座る。上座だからね。危うく先に酒井武夫が行くような事も無かったし、そこら辺は多分良く言い聞かせられたみたいだ。注文された肉が運ばれてくる。どれも綺麗な色をしてる。酒井武夫がゴクリと喉を鳴らしてる。けど、言葉は発しない。変な緊張感がある。


 まずはその緊張感を取りのぞくためにも、肉を勧めた。


「どうぞ、まずは焼きましょう」


 そう言って自分から肉を取って網……というか石みたいな物の上にのせる。半球状になってるそれは肉の脂を適度に落としてくれる構造になってるみたい。これはどれも良い肉だ。そんなに焼きすぎなくても良いだろう。軽く焼いて、まずは塩で食べる。


「うん、美味い」


 口の中に入れた瞬間にとろける様な肉だった。油も適度に落ちててくどくはない。高い肉ほどに、油ばっかりあるが、それだと量が食べられないからな。丁度良い感じだ。まあ勿論、焼き肉だし、赤い部分が多い奴もある。


「ふぐ! あぐ! おおお!!」


 なんかめっちゃ肉をむさぼってる奴が目の前に……焼けた肉を凄い勢いでかっ込んでる。大丈夫? 自分の目の前ってわかってるか? 接待とかなら、失格だよ? まあそうはおもって無いけど。ただ腹を割って話したいだけだ。これで緊張が解けるなら安い物だ。自分はマイペースに肉を焼いていく。酒井武夫が肉をただ消費して行くだけなのに対して、自分は最高の肉を育ててるのだ。

 ジュージューと鳴ってる肉の焼ける音にも耳を澄ます。これは肉が知らせているんだ。今、美味しくなってますよ……と。


 「今だ!」なんて肉の声が聞こえたら、箸を伸ばす。すると沢山焼いてる自分の肉と間違えたのか酒井武夫が自分が育ててた肉を持って行った。プッチーンだ。


「おいちょっと待ってください。いや待て、それは自分の肉だ」


 なんとか丁寧な言葉で言おうと心がけた。けど所々崩壊してる。でも制止は遅くて自分の育てた肉は酒井武夫の口の中に放り込まれてた。


「えーと、これ焼けてるか!」


 そういって箸で指さす肉は焼けすぎて縮んでるぞ。


「美味しい、けど美味しくない」


 自分が育ててた肉ではない。確かに肉としては美味いが、それは肉のただのポテンシャルだ。自分達はホモサピエンスだぞ? 焼くことによって料理をしてるんだ。更に美味しく頂く義務がある。


「いや、充分美味しいとおもうが……確かにさっき食った肉はもっと美味かったが……」

「焼くだけなら猿にだって出来る。美味しく食ってやる義務があるんですよ!」

「充分美味しいじゃ――です! 俺は一気に良い肉を浚って食うのがすきなんですよ……」


 はあ、酒井武夫はとにかく量が食べられればいい人のようだ。まあ食事に対する姿勢はそれぞれだろう。否定はしない。けど、美味しく食べたいと思うのは人類皆共通ではないだろうか?


「どうせなら、美味しく食べたい……とか思わないですか?」

「充分美味しいですよ。あっ、いえ、是非に!」


 なんか思い出したのかゴマ擦ってきた。てかこれが大切な交渉の場とやっと思い出したのかも。まあとりあえず、まずは肉のこだわりを自分は疲労して酒井武夫の焼き肉に対する革命を起こそうと思った。

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