295 失敗を取り返すのは自分しか出来ない
「あった……この野郎……」
紙の山からスマホを救出することは出来た。だがその画面に表示されてる名前を見て、俺は渋い顔をする。表示されてる名前は昨日一緒にいた奴の名だ。なんか嫌な予感がする。なかなかに手が進まないが、こいつなら何があったのか知ってる筈だ。俺は恐る恐る通話を会話する。
「もしもし……」
『おう、昨日は有意義だったな。まあお前は憶えてないだろうが』
ここで憶えてない……と言ってしまっていいのか? 同意したらこの野郎の思いのままでは?
「はは……何言ってんだ。アレだろアレ」
曖昧な言い回しで、何か情報を引き出そうと試みる。このまま失態だけを積み重ねる訳にはいかないからな。だが……
『ああそうだアレだよ。アレ。このまま進めてしまってもいいだろう?』
(え……この野郎……)
俺の知ったかぶりを逆手に取ってきやがったな。このまま知ったからぶりを為たままだと、何もわからないままに、何かが進んでいってしまう。それは……流石にダメだ。アレが何か……知っとかないと、この会社が終わるかもしれない。
この部屋に散らばってる資料を見るに、こいつが俺達が先生の作品を狙ってる事を知ってるのは明白だ。そしてそれを見逃す程に良い奴ではこいつはない。どっちかという狡猾な奴だ。俺は覚悟を決める。このままじゃダメなんだ……俺が酔って犯した失敗だ。その尻拭いは自分で為ないといけない。
「アレって……なんだっけ?」
『ん? なんだぁ? すまないちょっと電波が悪くてな』
この野郎! 絶対に聞こえてるだろう。電波めっちゃいいわ!! めっちゃ明瞭に声聞こえてるからな。ただもう一度、ちゃんと言わせたいだけだろう。でもそう言われたら、こっちはもう一度いうしかない。なにせ向こうの電波の状態はわからないからな。絶対に聞こえただろうが、俺にはその選択肢しかない。
「あ、アレってなんだ? 本当は昨日のことは全然憶えてない」
『はははははは! 知ってたよ。まあだが、お前を成長したじゃないか。前のお前なら認めもせずに、取り返しの付かない事になってただろうかな』
「取り返しの付かない事だと?」
このやろう、やっぱり俺達から仕事を奪う気!? あの時の様に!!
『ああ、こっちも先生の仕事は欲しいからな。それが目の前に転がってるなら、動かないわけ無いだろう? それに交渉材料は既にある』
「俺のせいか……」
『そうなるかはお前次第だな』
なんだそれはどういう事だ? こいつなら、とっとと俺から全てを奪って仕事かっさらうだろうに……まだ……まだ取り返す事が出来るのか? 俺は今までにない位に頭を回転させる。二日酔いで痛いが、そんな事を言ってる場合ではない。




