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声の神に顔はいらない  作者: 上松
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29 天啓3

「それじゃああんまり根詰めないでくださいよ先生」

「ああ、わかってるよ。その……」


 なんだか今日はとてもいい女であった静川秋華はまさにいい女のまま帰ろうとしてる。今日一日は彼女にとても世話になってしまった。だから帰り際にそのお礼を……と思ったんだが、なかなかその言葉を言おうと思うと恥ずかしくなる物だ。


 いや社交辞令ではよく言ってる。とりあえず口から出る言葉といってもいい。なのに……だ。本心から告げるとなると、途端に口が動かなくなるんだから心って奴は複雑怪奇だ。そしてそんな自分に静川秋華は近づいてきて、自分のしどろもどろになってる口にその白くて細い指をあててきた。


 なにすんのこいつ? めっちゃドキドキするんだけど!?


「せんせっ、今日の事は貸しですよ。すっごいお礼、期待してます」

「――っ!?」


 そういってほほ笑む静川秋華。今まで何回も笑顔とか見てた。けど今のは……ね。去っていった静川秋華から目が離せなかった。実際最後のセリフはとても今までの静川秋華ぽい物だった。自分が知ってるなんか世間が思ってるのとは違うちょっと残念で間抜けで小悪魔的な……けどその微笑みの意味ぐらい自分にもわかる。


 きっとあいつはいつもの自分を見せて気を使わせない様にしたんだろう。


「これは……まいったな」


 自分はそういって静川秋華が触れた唇に自分で触れた。まるでその感触を求める様に。触れ合ったことを確かめる様に……


「よし!」


 自分は再び書斎に向かった。この一週間、根詰めて作り上げた一つの世界の物語りを破棄するためだ。捨てるなんてもったいない? 確かにそういう思いもある。けど、大丈夫だ。再び作り直すから。そしてそれはきっと今のよりもずっと良くなるって確信が持てる。


 自分はパソコンと向き合って数十万文字を消し去る。こう言うのは躊躇ったらダメなんだ。これで自分の一週間は無駄になったのかもしれない。


(いや、そうじゃない)


 自分は新たなインスピレーションを得れた。それはこの根を詰めた一週間がなかったら訪れなかった事だ。だから意味がなかった事なんてない。椅子に再び座り、キーボードを打つ音だけがしばらく響く。だが……


「ううーん」


 調子よく動いてたのはものの五分くらいだった。インスピレーションもあって元の話も頭にはある。けどまだ何か足りない気がする。そもそもが新たな主役級のキャラが出る事によって大きく流れが変わるんだ。そして今、自分はどっちが正しいのか? 

 いや正しい正しくないじゃないが、だからこそ迷ってる。自分の中で。静川秋華と匙川ととの……真の意味での声優とは一体どちらなのか。

次回は17時に上げます。

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