288 大きな繋がり、小さな繋がり
「誰?」
私はスマホを手に取ってメッセージを確認する。グループを見ると、今やってるアニメで作ってたグループからだ。私は今日は入ったんだけどね。確か既に半年くらい存在してた筈だけど……私は今日入った。うん、いや誰が悪いなんておもって無い。
強いて言えば私が悪い。私が誰とも交流を持たなかったから、こんな時期になってしまったわけだ。私がもっと早く、皆と打ち解けていれば……ちなみに静川秋華はちゃっかり入ってた。一応ね。
グループの一人からのLINEだけど、でもこれはどうやら個人的な方にダイレクトにきてるみたい? グループのタイムラインには流れてない。
『お疲れ様です匙川さん。とても刺激的な一日でした』
「お疲れ様です」
アイコンだとなんか誰かわからないな。とりあえず誰か確認する。アンコウみたいなアイコン使ってるその人は私なんかよりも全然売れてる、とういうか普通に人気声優の一人だ。この程度の言葉なら、別に普通にタイムラインに流していいと思うんだけど……わざわざ私にダイレクトに送ってきたのは何かあるんだろうか? 私よりも使い方に慣れてない……なんて事は無いだろうしね。
『えっと、こんな事をいきなり言うのはぶしつけかも知れ無いですけど、いいでしょうか?』
「なんでしょう?」
なんだろうか? お食事の誘いとかだったらどうしよう。私は彼女達みたいなリア充の空間にいるだけでダメージが入るんだけど……でも年齢では私が上とは言え、人気では向こうが上だ。底辺声優な私は人気者に逆らうなんて事は出来ない。
多分キャリア的には私か上だとは思うし、こういう世界、キャリアが物を言ったりする物だけど……私はキャリアだけで、誇れる訳でもないからね。それで威張り散らせる程に、私は人間的に図太くなんて無い。
『実は匙川さんにお仕事の依頼をしたくて』
「お仕事ですか?」
声優から仕事の話しってなに? 普通はマネージャーとかを通してされる物ではないだろうか? なんか胡散臭いなって真っ先に思った。私を騙そうとする奴っていっぱい居たからね。
(でもこの人が私を騙すメリットってなんだろう?)
彼女はわたしよりも全然売れてる声優だ。私を何かする意味なんて……ない。そんな事を想ってると、更にメッセージが届く。
『はい、個人のラジオやってるんですけど、匙川さん、ラジオは大丈夫ですよね? やってらっしゃるし』
「ラジオは顔出しないですから……」
私は絶対に顔出しNGな声優だ。それは私がブサイクだから、私が顔を出しても誰も幸せにならないとわかってるからだ。だからラジオは私が数少ない出演OKな仕事ではある。
『そうですよね。えっとどうでしょうか?』
「冗談とかじゃないんですよね?」
こういうので、私は苦い経験がある。高校の時、クラスメイトが遊ぶ約束をしてるとき、たまたま居合わせて、私もなんか誘われた。でもその場所に行ってみると誰も居なくて、実は皆別の場所に集まってて、私は最初から踊らされてただけって奴だ。
その日のために私は人生で一番緊張して、一番オシャレして向かった……でもそれは全て無駄だった。私はただの道化だった。だから警戒してしまう。あんまり知らない……いや、半年くらいは付き合いあるからそんな嫌な人ではないと知ってるが、私には理由がわからない。なんで私を? って感じ。
『勿論です!』
「どうして……私……なんですか?」
『それは私がもっと匙川さんとお話ししたいからです。本当はプライベートの方がいいかもだけど、匙川さんは逆にお仕事の方がまずは良いのかなって思って。迷惑でしたか?』
確かに私は行き成りプライベートで話すよりも、仕事で相対してそこで掛け合う方が自然に出来るかもしれない。なにせ仕事だからだ。それからの方が確かに私にはハードル的に低いのかも。それに……今、私に仕事は来にくい状況。
でも、こうやって個人間での出演依頼なら、妨害なんて入る余地はない。私は意を決してこう帰す。
「よろしくお願いします!」
すると彼女は可愛らしいスタンプで歓喜を表現してた。




