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声の神に顔はいらない  作者: 上松
281/403

281 あくまでも手綱を握ってるのはこちら側

 此花さんは忙しいのにレスポンスは驚く程に早い。巷では編集者は作家が連絡をしても何日も放置する輩もいるらしいが、優秀な此花さんはそんな事はない。あ――といったら、うん――と帰ってくる程にレスポンスは完璧だ。


 まあ時々数十分かかる時もあるが、一文字くらい送ってきてくれる。忙しいと言う事はしってるからこっちも悪いと思ってるが、返信を待ってそわそわしなくていいのはいい。本当にね。時々作家の知り合いと飲むときなんか、大体編集者の愚痴だ。


 けど自分はそんなのない。此花さんだからね。あの人に不満があったら、逆に罰当たり的な? それ他の作家に言われるし。まあそんな優秀な此花さんだけど、だからこそ彼女の言葉は重い。


『これではプロジェクトとして進めることは出来ません』


 と言うのが彼女の返信だった。酒井武雄や野村さんの印象や、野村さんから受け取った計画書みたいなのを送った訳だけど……それに目を通しての返信がこれだった。まあなんとなく思ってたけどね。それに続いてこうあった。


『それに先生は彼等に自分の作品を預けてもいいと思いましたか?』


 それね。そこらへん、此花さんはとても重要視してくれてる。自分が作品を大切にしてることを彼女は誰よりもわかってるし、それに彼女は自分の一番のファンを自称してる。だからこそ、下手な所にメディアミックスをふって自分の作品がボロボロに消費されるのを嫌ってる。


 なにせ自分で言うのも何だが、自分の作品は金のなる木……みたいなものだ。どこだって手が出るほど、映像化とかメディアミックスの権利をほしがってる。だからこその厳正なる審査とかをしてる訳で……こんな裏技的なやり方では本当は話だってしたくないんじゃないかな? 此花さんが自分の作品のクオリティーを保つために、色々と奔走してああいう形になった訳だしね。


 確かにあの場では二人の熱意という物にちょっと当てられてた感は実はある。家に帰ってきて此花さんへと送る文章を書いてて少しずつ熱が逃げていくのを感じてた。文章書きながら落ちついていくってのはなんとも自分は作家だなって思った。


 そして自分のさっきの此花さんの文を読んで考える。冷静になった今なら……そうだね。


『このままじゃ、確かに作品を預けてもいいとは思えない……かな?』

『それが答えでは?』


 返信は一秒もかからなかった。早い。確かにこのままではダメだ。曖昧だし……実際どこまでクオリティーを担保できるのか、実際には全然わからない。やっぱり此花さんが……と言いたいが、彼女はハリウッドの方で忙しいからね。これ以上仕事を振って倒れられても困る。


『先生は優しいですからね。だからこういう事は私を通して欲しかったです』


 それはつまり、自分が酒井武雄とかに同情してるって事を多分此花さんは言ってる。彼等の会社は潰れる寸前だ。起死回生に自分の作品を狙ってる。自分がこの話を蹴ったらどうなるか……それを考えて甘い考えをしてるんでは……と此花さんは言ってる。


 確かにそれがないとは……いえないかもしれない。知ってしまったからには……さ。自分に懇願してる他者の手を振り払うことが出来るのか……そしてそれをやらないといけないのか……自分はまだ決めかねてるのは事実だと思う。

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