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声の神に顔はいらない  作者: 上松
273/403

273 一度振られたくらいでは

『おう、どうだ? 元気にしてるか?』

「ああ、まあもう大丈夫だよ」


 電話の主はバッシュ・バレルだ。ハリウッドで自分の映画の準備で忙しい筈だが、結構連絡をくれる。まあバッシュ・バレルは自分がプラムさんから振られた事をしってるからね。そのことで気にかけてくれてるのだろう。まあだけど、その日の晩にそう言う店に行こうとさせるのはありがた迷惑だったけどね。


 そんな簡単に切り替えられる訳ないじゃないか。そもそも自分から告白したのなんて、あれが初めてだったんだ。それなのに直ぐに次の女……というか軽い女にちょっと逃げて忘れるなんてのは自分には出来ない事だった。だからさっさと日本に帰ってきたわけだ。


 はっきりと言えば、あの日のプラムさんの唇の感触がいまでも忘れられないし、目を閉じると思い出す。今までキスは何度かしたことあったけど、そのどれよりも緊張したし、そして一番甘かったと思う。そして切なかった。電話越しでは大丈夫だとかいってるが、寝るとまだあの日の夢を見る。勿論夢は都合が良くて、あの時の返事が


『うん、よろしく』


 とかになる。時たま、『うん、大好き』とかになる。でも決まってその直後に夢から覚めてむなしくなる。既に数ヶ月が経とうとしてるのに実際は全然吹っ切れてない。けどあまり心配かける訳にもいかない。ちゃんと仕事はしてるし、もう大丈夫と思われてもおかしくないと思ってるが。体裁は整えてるしな。


 周囲はきっと何も代わらずに振る舞えてるはずだ。


『そうか? 確かに日本人は生真面目だけど、お前は更に超生真面目だからな。しかも振られた後は更にそうなってたし、ポンポン仕事あげられたら俺が困る。遊ぶ時間がなくなるじゃねーか』


 電話と言ってもパソコンでの画面越し、相手の表情も仕草もよくわかる。だからか、こっちの顔色とかもわかってるだろう。ちなみにバッシュ・バレルの言葉は同時に翻訳して理解してる。数ヶ月は海外に居たが、それで自分の英語力が上がった訳じゃない。なにせ自動翻訳機に頼りっぱなしだったからな。


「ちゃんと仕事はしてくれないと困る。それにダメなら修正案を送り変えてくれていいぞ。自分は映像に落とし込むの慣れてる訳じゃないし、世界に受けるってのもわからないしな」


 ハリウッドへと挑戦するのは初めてだし、色々と日本のドラマやアニメとは方程式が違うろう。そっちの感覚に強いバッシュ・バレルだから指摘できる事もあると思う。


『それも仕事なんだよ』


 心底うんざりした感じにバッシュ・バレルは言う。こいつ的にはバンバンと撮り始めたいんだろうけど、なにせめっちゃお金が動くのがハリウッド映画だ。そんな簡単に行動は出来ない。完璧とも呼べるスケジュールが必要だし、準備を整える準備とかが必要で、裏方は今頃大変だろう。下手するとバッシュ・バレルよりも動いてるぞ。まだ自分たちはどうしたら良い映画になるかを考えるだけでいいから楽だ。かくプロダクションのマネージャーとかか、大量のマンパワーを動かしてるだろうからね。


 でもだからこそ、これまでにないプレッシャーがある。なにせ規模が違う。資金が違う。こける訳にはいかない。でも……こうやって現場から遠ざかると、感覚が乖離していってる気もする。熱さが続かないっていうがね。なにせハリウッドの仕事だけしてる訳でもないし。

 そこら辺はバッシュ・バレルの鋭い感覚とかが頼りだ。


「あの……さ。プラムさんはどうしてる?」

『お前、全然吹っ切れてねーじゃねーか!』


 そう言って画面越しに呆れられた。

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