260 これが大手のやり方か!
「そう言う事か……」
事務所でマネージャーのところに行くと、突如社長室まで連れて行かれた。そして社長と共に三人で離す事になった。ウイングイメージは中堅だ。しかも下の方の……だから社長とはそこそこ近いとは思う。思うけど、別段普段から離すほどに距離が近いかっていうとそうでもない。まあでも事務所でちょくちょく見るくらいには近いけどね。
けど腐っても社長だ。やっぱり緊張する。ぼそぼそと喋って私は大室社長が裏で手を回して事を離した。
「くそ!」
そう言って社長が机に拳を打ち付ける。その音で私はビクッとなった。そういうのは止めて欲しい。怖い……普段の社長は全く怖くないんだけどね。社長はまだ三十代くらいのそこそこイケメンな人だ。威厳の為に髭を伸ばし始めたとかいうちょっとお茶目な部分もある。
私のマネージャーとは先輩後輩の仲らしく、結構仲よさげだ。
「落ち着いてください社長。まだこちらの分までクアンテッドが干渉してるという証拠はありませんよ」
「あっても、何も出来ないから悔しいんだ! すまない匙川君!!」
社長はそういって私に頭を下げてきた。この人、基本的にいい人だからね。いい人だから、中堅にはなったけど、大手にはきっとなれない。でもその人の良さはウイングイメージに所属してる声優を見ればわかるだろう。みんな伸び伸びやってるし、私だって……実際他の事務所だったら、私はとうに声優を止めてたと思う。そもそもがどこも拾ってくれなかった私を拾ってくれたのがここだった。この人だった。だからこの人にこんなことされるとね……
「社長のせいじゃありません」
そういうしかないじゃん。実際社長のせいじゃないし……私は責めに来たわけではない。まあ事務所にはちょっと期待はしてたけど……でもやっぱりクアンテッドにたてつくなんて出来ないか。それに証拠があるわけじゃない。大室社長の電話を録音してれば……とっさのことでそんなことは出来なかった。悔やまれる。証拠さえあれば、幾らこっちの立場が悪くても、やりようはあっただろう。
「そう言ってくれるとありがたい……」
「だがどうする? 向こうの狙いは多分こいつだぞ」
「そうだな……」
「えっとどういう?」
なんだか私が思ってる以上に、社長とマネージャーは深刻そうな顔をしてる。もしかして、二人は大室社長が何を狙ってるのかそこまでわかってるの?
「どうやら大室社長はかなり君を気に入ってるらしい。静川秋華の裏として……ね」
「任せられる仕事が増えてるのはわかってるよな?」
「それはまあ……」
確かに最近は静川秋華の分の仕事を任せられるのが増えてる。いや、一時期減ってそろそろ復帰かな? とか思ってたら、静川秋華自体の仕事が増えて、それが私にも回ってきてる。勿論顔出ししない奴だけど……
「匙川君はここに所属してるが、どうやら大室社長は君をほしがってるみたいだ」
「いや、事務所を移る気は……」
「それば嬉しいが、全てが静川秋華の変わり身で、そしてオーデションにも受からないとなると……ここに所属し続けるのは難しい」
「まさか……私を首にさせてその後二私に声を掛ける気とか?」
「そうかもしれない……というだけだけどね」
それを聞いた時、私はふつふつと怒りが湧いてきた。これが……これが大手のやり方かぁぁぁ!!




