252 どんな作品にもいる特徴的なキャラ専売じゃない
呼ばれてしまった。私達グループの番だ。ヤバい! 台詞一つもわかってない。私はとりあえず、台本から自分がやる事になったキャラの台詞を紙に、速攻で起こしていく。でもそれも全部は無理だった。半分くらい。これで大丈夫なのか……多分、台本のページを全部使う事なんかない。私は前の方から書き出したから、前の方だけ要求されれば……どうにかなる! 多分。
スタジオに入ると、マイクが五本あった。そして別ブースに監督さんや、お偉い人達がいる。透明な壁で仕切られた私達はここで見定められるのだ。
(速効で台本無いのバレるな……)
わかってたけどね。でも流石にこのブースにいるお偉い人達は私の事情もわかってるのではないだろうか? なら……許される? でも演技とはきっと別だよね。とりあえず私は一番端のマイクについた。普通のアニメの収録では声優一人一つマイクがあるなんて無いが、オーデションで全員五人組だから用意してるんだろう。
『それでは右端から自己紹介をお願いします』
そんな声が聞こえてきたから私達は順に挨拶をしていく。私の反対側のマイクには馬渡佳子さんが陣取った。真ん中の方のマイクは、なんか三人でとりあってた。真ん中だからね。一番目立てるって思いがあるんだろう。とりあえず真ん中をとったのは緑山朝日ちゃんだった。あの子……要領良いね。
『それではそうですね、まずは一ページ目の台詞からおねがいします』
ここは予想通りだった。多分共通してやらせる項目は前の方に、それこそ最初にあると思ってた。私達はそれぞれ、視線を交錯させる。そしてまずは緑山朝日ちゃんからしゃべりだしり。
「うわぁー! すごーい!」
そんなサリフから始まったオーデション。緑山朝日ちゃんは元気で綺麗な声をしてる。まあ皆声優を目指すしてここまで来たわけだから、ほぼ汚い声の人なんていない。特徴がある声……ならあるが、汚い声ってのはない。それからそれぞれの台詞を読んでいく。
この台本って見た感じ、設定とかは何も書いてない。ただ文字だけでキャラをわかれと言わんばかりの物だ。絵もないしね。普通はキャラの絵くらいは教えてくれてもいいだろうって思う。だから今、皆が演じてるこの声のトーンとかは、きっと皆がこう言う物だろうって想像でやってるんだろう。もしかしたら他のページには別の台詞とかあって、それで予想してるのかもしれない。
でも私はそもそも台本を読み込むこともできてない。純粋に台詞からキャラを推測するしかないんだけど……最初に書いたメモの台詞を見て私は頭を抱える。勿論リアルに頭は抱えない……けど、それだけの衝撃があった。だってこのキャラの台詞……
『うん……うん……ううん……うん……んっ……うん』
しかない! どういうキャラよ!! 確かにこれは誰も選ばない。実際「うん」だけは他のキャラの合間にもあるから台詞としては少なくない。けど……これは最初から難易度がヤバい。既に何回かの「うん」は外してしまってる。タイミングも悪かった。このままでは不味い。
(考えろ、考えるんだ私! このキャラを表現できるその声を! 大丈夫、私なら出来る!!)
私は一回落ち着きを取り戻すために音に乗らない程度に胸を手のひらで優しくたたいた。
(よし!!)




