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声の神に顔はいらない  作者: 上松
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246 私の声優生命がヤバい

「ほらほら、いつまでもそんな所にいたって始まらないよ」

「あっはい」


 とりあえず私も彼女達に合流することにする。あんまり気負わないように深呼吸をして自己紹介をする。


「ウイングイメージ所属の匙川ととのです。よろしくお願いします」


 練習したから、人前でもしどろもどろせずに言えた。心で小さくガッツポーズする。これならオーディションでも大丈夫だろう。いや、今までもだってそこまで大きく失敗してないよ。けど、やっぱり普通とはちょっと違ってた。ちょっとだけ緊張が伝わる声から抜け出せなかったのだ。特に人前になるとね。マイクの前に立つとそういうの一気に無くなるんだけど、人前では逆だ。色々と余計な感情が湧いてきて、渦になって訳がわからなくなる。

 でもいつまでもそんな調子ではダメだろう。なにせオーディションは挨拶の時から始まってるっていうし。まあ流石にここから始まってる訳はない。彼女達は同じグループになっただけであって、別段仲間とかじゃないよね? ライバルの筈。でもグループを作る意味って奴はあるのだろうか?


「私は『音天堂』所属の『馬渡 佳子』だよ。よろしく」

「私は私は『ドリームプロ』所属、『東山 未来』よろしくです」

「私は『シップ』所属の『田中 一』だ。よろしく」

「私は……あれ? 先輩ですか?」


 なんか最後の子の言葉にビクッとした。え? どういう事? そんなにおばさんに見える? いや、私野暮ったい服着てるし、髪は無闇に長いし、片目しか見えてないけど……そんな年上に見えるだろうか? 


「いえ、私も『ウイングイメージ所属』なんですよ。同じ事務所の人が来るなんて聞いてなかったなぁって」

(ちょお!?)


 私は彼女の肩をガッと掴んだ。でも……これからどうする? どうしたらいい? はっきり言って私と彼女は同じ事務所と言っても、多分面識……ない? わからないや。もしかしたら挨拶くらいはしてるかも知れないが、私も前は他の声優なんて意識なんてして無かったし、多分向こうは私の様なギリギリ声優やってるみたいな先輩に関心なんか無かったんだろう。だからお互いにしらない。憶えてない。

 でも同じ事務所なら、彼女よりも私は先輩。でも先輩風ってどういう風に吹かせればいいの? 『黙れよ』――なんていえるわけない。


「どうしたんですか? 匙川先輩……でいいですか?」


 とりあえず彼女の肩を掴んだままぶんぶん縦に頭を振るう。ヤバいよ。この子がウイングイメージ所属って事は、もしかしたらウイングイメージの枠はこの子だけだったのかも知れない。だから他に誰も来てない筈ってこの子は知ってる。いや、流石にマネージャーが枠の事までを言うとは思えない。多分、曖昧な表現な筈……なら……まだなんとか誤魔化せる筈だ。なにせここで私が事務所の枠もないはずなのにオーディションを受けるなんて他の人達に知られると、それはきっと皆さん良い思いなんて抱かないだろう。


 声優にとってオーディションと言うのは戦場だ。上も下もなく正々堂々とぶつかりあう……戦場。そこに私はズルを……いや、一応ちゃんと対価として斡旋して貰ってるわけで、ズルなのかは微妙だけど、そんな事を言えるわけ無いから、結局他の人達は疑念を抱くわけで……そうなると肩身がヤバい。それに下手にそんな事を拡散されでもしたら……他の声優達からも後ろ指指されることになるだろう。

 唸れ私の脳細胞! そして初対面のこの子に対してちゃんとした言い訳を言うんだ! そうしないと私の声優生命がヤバい!!

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