233 自分だけが進む道なんてない
「うーん、収穫はなかったね」
「いや有ったわよ?」
「別に何も聴き出せなかったけど?」
カナンの奴は自分が引き出したスクープに気付いてないらしい。こいつは……いや、カナンがこんな奴だからこそ、静川秋華も思わず本音を漏らしたのかも知れない。もしも、私とかが話しかけてたら、やっぱりどこか心の奥でボロを出させようと会話をくみ上げていく。だってしょうが無い。上にいる奴らはもれなく滑り落ちないかなって思ってるもん。それかさっさと結婚でもして引退してくれて結構だ。
実際声優なら、結婚したって続けられるけどさ、まあ落ちるよね。大なり小なりさ。上手く小で住む人もいれば、大になってそのままフェードアウトって人もいる。それには多分色んな要因があるんだと思う。まあけど人気が落ちるのは確かではある。やっぱりファンは人の物よりも自分が手にできるかも知れない……そんな夢を見れる声優を応援したいらしい。それがイヤなら、アイドル売りを止めるしかない。それこそ先輩みたいにね。
でもあれでトップにいけるなんて思わないし、思えない。先輩の思考は十年位前だよね。時代ではないのだ。まあ今のこんな時代だから、静川秋華が圧倒的に強いって感じなんだけどね。それこそ、そこらの女優やモデルとかよりも全然顔良いからね。今回の騒動でその顔に傷でもついてれば……とか思うのは流石にイヤな奴過ぎるか。とりあえずカナンのおかげで静川秋華関連で更にネタが投下できたわけだ。
それだけでもよしとしよう。
「十分よ。良い仕事したわよ」
「うわ、芽依悪い顔してるわよ」
「おっと」
私は自分の顔をグニグニと手のひらでもみほぐす。そして顔の筋肉がほぐれたら、私はニコッと笑った。
「どう完璧?」
「完璧すぎて逆に怖いわ」
何その失礼な言い方は。私は作り笑顔を作り笑顔と悟られないようにする努力をめっちゃやったんだぞ。私は自分がそこそこの顔だと分かってる。整形しても静川秋華には成れない。なら後は愛嬌だ。やり過ぎた整形って逆に不自然だし、そもそもそこまで出せる持ち合わせなんて無い。貯金もない。でも愛嬌にはお金は掛からないのである。それに愛嬌は研究と観察、そして練習でなんとか成る。
可愛いは正義……それは顔だけを指してるわけじゃない。女の子の可愛さは顔だけじゃない――と信じてる。そんな会話をしてると、カナンを呼ぶ声がする。
「ごめんなさい芽依。私、これから仕事だから」
「ええ、まあほどほどにしときなさい」
私が追いつけなくなるほどに人気が出たら困るからね。カナンだって私が抜く対象だ。私は常に上を目指してるが、正統派な事だけやってたら大変だ。だから上にいる奴ら、手を抜きまくってくれれば良いんだけど……上にいる奴ら程、やっぱり頑張ってるんだよね。
「芽依も頑張りなさい! 負けないけどね!」
そう言ってカナンはさっさと仕事へと行った。私はこの日のオーディションに手応えを感じつつ、映える写真を撮るために、色々なショップ巡りしてフォロワー数をせっせと稼いでた。地道なことも大切だから!




