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声の神に顔はいらない  作者: 上松
226/403

226 止まる事だけはしない覚悟

「うーん」

「だめですか?」

「イヤ、だめじゃないけど、なんかこう――さ」


 何やらな切れが悪い言い方だ。いやそれって納得出来てないって事じゃん。今はレコーディングの最中だ。一人一人ブースに入って、自分の歌うパートを収録してる。まずはカナンがやってその後私だ。里奈は最後。


 私達は自分の時じゃないときは、隣の……なんて言うの? スタッフさん達がいるところにお邪魔してる。そこには作曲家なのか編曲家なのかしら無いけど、私達の曲のイメージを明確に持ってる人がいるからね。

 自分じゃない時も、その人の指示を聞いて色々と擦り合わせをするんだ。私は人に合わせるのが得意だ。そして人に取り入るのもね。特技と言っていい。処世術でもある。私には突出した何かなんて無い。でも大抵はそんな人ばかりだ。皆が皆美人じゃないし、可愛くない。誰もが魅力的な声を元々持ってる訳じゃない。それで諦めたら、誰も何者にも成れない。実際、ナニモノにも成れない人達がこの世界には沢山いる。だから実際、それでも問題なんて無いんだろう。

 けど……私はダメだ。私はこんな成りでも、承認欲求が強い。褒められたいし、チヤホヤされたい。直接アイドルや、女優になれるほどの容姿がないことは知ってる。でも可愛い言われたいから、なかなか自信があった声と、そしてそこそこハードル低くてもチヤホヤされる声優になった。それは間違いではなかったと思う。何せ結構チヤホヤされる。でも……そうなると、もっともっと……となるのが人の性って奴だ。


 私は今の自分の位置に満足なんてして無い。だからこそ、上を目指さないといけない。こんなこんな所で躓いてる場合じゃない。もしかしたら、このまま静川秋華画転がっていくかも知れない。そうなったら、女性声優界、戦国時代の幕開けである。今、隔絶した容姿と、そして絶対的な人気で頂点に君臨してる静川秋華。その下となると、後はほぼ横ばいである。人気の多少の差、容姿の多少の差はあれど……静川秋華と比べると声優にしては可愛い――そういう枕詞がつくくらいである。


 なら誰がそこを飛び越えて玉座に着いたっておかしくない。私は……ギリギリ届く範囲にいると思ってる。まあこのまま静川秋華が君臨し続けるかも知れないが、今回の事で絶対に敵に、ちょっとはその玉座が揺らぐだろう。私はその波に乗って、さらなる高みへと行くのだ。その為にも、この曲は大切だ。歌を出すってのも昔からの夢だったし、単純に自分の声を知ってもらえる。イベントだって出やすくなるし、呼ばれやすくなる。しかも最近は、声優のユニットの曲がそこそこオリコンに乗る。つまりテレビに出れる。


 今更デレビに価値なんてあんまり無いけど、それでもその宣伝効果はやっぱり凄い。歌――は自分を宣伝するのにとても効果的な手段なのだ。だからこれに妥協なんて出来ない。めっちゃ練習してきた。なのに曖昧な部分で煮え切らないのは止めて欲しい。こう、ズバッと悪いところをいってくれば、直す努力が出来る。でも、そうじゃないから色々と注文を受けて、自分に出来る限りのことをやって歌ってるわけだけど……何やらしっくりこないらしい。そしてしまいに……


「彼女はこの曲のイメージに合わないかも知れないな」


 終いにはそんなことを言い出した。何? 私は口パクでもしとけって事? ふざけるな!! って言いたいが流石にここで切れたりは出来ない。私は、ギュッと拳を握ってこう言うよ。


「もう一回やらせてください!!」


 私は諦めない。私は、止まる事だけはしないって決めてるから。

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