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声の神に顔はいらない  作者: 上松
222/403

222 欲張りになっても良いじゃない

『私やります。やらせて下さい!』


 私は浅野芽衣が仕事に行った後にそうラインで流した。確かに浅野芽衣のいい方は軽かった。あれを参考にするのはどうかと思ったんだけど、失敗ばかり恐れてても仕方ないのは事実だとおもったんだ。


 今までの私はどんな失敗でも恐れてた。失敗は即、声優として終わり――くらいにだ。けどそれは間違い……でもあるけど実際正しくもあると思う。何せ声優にはチャンスが少ないと思うんだ。


 確かにアニメはいつだって沢山作られてるけど、今が限界近いところあると思う。毎クール、40から50本のアニメが放映されてるわけで、それが今あるアニメ会社で作れる数の限界だから、そこら辺の数を行ったり来たりしてるんじゃないのかなと?


 けど声優は今や人気職業な訳で、あぶれるほどに毎年毎年やってくる。人気も仕事もない声優なんてのは業界から押し出されていくのだ。声優業界の崖で私は踏ん張ってる。私には人気なんてものはない。何せ顔出しやってないからね。


 顔出ししてれば多少なりとも人気ってものが見えるのかも知れないけど、私の人気はキャラの人気だ。私にはファンはつかずに役を演じたキャラにつく。

 けどそれで良いって思ってる。私に付くくらいならファンはキャラに付いた方が良い。だってキャラだって私だ。

 なり得ない私……そう思ってやってるし、キャラにファンが付くことが誇りでさえある。


(浅野芽衣とかはそれじゃあ満足出来なさそうだけど)


 あれはね――承認欲求強そうだからね。キャラよりも自分が自分がってタイプである。今はそれでいいんだよね。キャラだけでも、声優だけでも売れない時代。けど、私はキャラのために私があるって思ってやっていくって決めてる。整形でもしないと、この顔は変わらない。そして整形なんてする金はない。私は……ここで、この業界でしか生きれないって思う。この仕事が天職だって思ってる。


 まあ私がそう思ってるだけかも知れない。もしかしたら意外な職種が合ってる……なんてことは往々にしてあることかも。でも、今の私にはこれしか……声優しかない。だから私はしがみつく。そうしがみつく為にも……チャンスを逃す訳にはいかない。絶対に仕事に悪影響は出さない。そしてオーディションの仕事だって勝ち取る。それくらい出来ないと、私の様な奴がこの業界で生き残る事なんてできないんだ。


 不本意だけど……浅野芽衣は本質を突いてる。なんたって浅野芽衣は生き汚いからね。でも颯爽と引くなんて……私だって出来ないよ。もっと生き汚くやっていくべき何だ。どっちかしか選ぶのが、大人としての選択なのかも知れない。賢いのかも知れない。でも賢く生きたって私はじり貧なんだ。勝ち取らないと声優の仕事は増える事は無くて、チャンスをつかめるタイミングはとても短い。進まないと、その舞台にも上がれない。一つでも多くオーディションを受けないと、仕事になんか繋がらないのだ。それだけ声優は厳しい。


 私は出されてた喉に良いって言うハーブティーを飲み干す。そしてそれを洗面台に持って行った。最初は洗った方が良いのかとか迷ってたけど、ここのルール的には水につけてたら良いらしい。私は皆さんにお疲れ様と書いたiPadを掲げつつ、玄関に。するとここのスタッフの人がなんか大量にマフラーを巻き付けてくれた。そしてグッとサムズアップする。きっと心配してくれてるんだろう。なかなか喋らない人なんだけど、だからこそ私も接しやすいところがある。


『ありがとうございます』


 そう書いて、私はスタジオを後にした。

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