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声の神に顔はいらない  作者: 上松
221/403

221 恐れるよりも、ぶつかってみる

『それで、どうする?』

『ちょっと待ってください』


 私は打ち合わせ終わり、この古民家風ラジオハウスで寛いでた。外は寒いからね。そしてここはスタジオなのに、スタジオっぽくない。本当にただの民家がスタジオになってる感じだからだ。最初はこんな所で大丈夫か? と思った物だけど、今では実家のような安心感さえあると言える。私は基本引きこもりというか、インドア派だ。外にいたら早く部屋に帰りたいって思う。それがここではなくなってきてる気がする。


「せんぱーい、いつまでダラダラしてるんですかぁ?」

『そういうあんたもだらだらしてるでしょうが』


 私はiPadにそう書き込んで返す。二人でキッチンのテーブルに突っ伏してる私達。文句を言われる筋合いはない。なかなかに年季が入ってそうな家なんだけど、音を出す様な物は極力排除してあるのか、この家を暖めるのはエアコンでもストーブでもない。オイルヒーター……が更に改良されてるそこそこ高い奴だ。温風を出して暖めるタイプの物じゃないから、静かで喉にも良いよね。実際私も欲しいが、そこそこするから買えないんだよね。


「私はぁ、ちょっと休憩してるだけですー。次の仕事時間待ちなんですー」


 うぐぐ……浅野芽衣の奴は私よりも仕事多い。なにせ事務所の推しだからね。けど推されるだけで仕事がもらえるわけじゃない。結局、声優の仕事はオーディションが多い。だから……分かってる。実際、浅野芽衣はその力で仕事を増やしてるんだ。もっと大手って言われる事務所なら、それこそごり押しとか出来るのかも知れないが、私達の事務所にはそんな力は無い。だから今の仕事の差は私と浅野芽衣の……いや、実力が劣ってるとは思わない……けど、そうだね、時代である。私はこの時代に合って無くて、浅野芽衣はこの時代に合わせてる。その違い。今の時代、声優に求められる物は多い。けど私には声しかない。


 私は自身の声が百パーセント……とは言わないまでも、九十パーセントのクオリティがあるとは思ってる。そこで浅野芽衣に負けてる気は無い。でも、特化型よりも世渡り上手なのは、万能型なのだ。私は前者で浅野芽衣は後者。


「さっきから何悩んでるんですか? あっ、ありがとうございます。私モンブランが良いです」


 暖かい紅茶と共に、ケーキが勧められる。まあここに居ちゃう理由ってぶっちゃけこれである。美味しいお茶とお菓子が堪能できるのである。まああと、外は寒い。だからついつい長居しちゃう。仕事があるとそうも言ってられないが、わたしはまだまだそんな忙しいって方じゃない。浅野芽衣は比較的忙しい方だろうけど……一応まだ余裕はあるみたい。なら、静川秋華はどうなるのか……超売れっ子の大人気声優。その仕事量は実際私には想像できない。けど……昨日あんなことがあったんだよね。


 その内きっと噂になるだろう。それがどんな噂になるか……ちょっと怖い。


「せんぱーい聞いてます?」


 モンブランをぱくつきながらそんなことを言ってくる浅野芽衣。私達にケーキやお茶を運んでくださったここの人は別の作業に行ったしいいか。


『オーディションの仕事があって』

「良かったじゃないですか」

『でも、この喉だし、オーディションの仕事で喉を使って今ある仕事に影響が出たらって思うと……』


 決断できない。仕事は取れるときにとっとくべきだ。何回だってオーディオを回してもらえるわけじゃない。マネージャーだって今は私を売り出すときだから、私に回してきてくれてるんだ。それなのに断るなんてって思う。けど、今の喉の状況でオーディションの練習とかしたら、今の仕事に影響が出ちゃうかも……


「まあ、なんとかなるんじゃないですか?」

『てきとー、あんたは軽いのよ』

「先輩、それだと口悪いですよ」


 なんか変なところ指摘された。まあ実際悪口なんて面と向かって言いづらいからね。別のキャラにならないと口が回らないし。けどやっぱり浅野芽衣の奴は軽い。他人事だからって思ってるでしょ? 実際そうだけど! まともな相談相手が欲しい。


「別に軽いのは否定しないですよ。でも失敗したって良いじゃないですか。新しい仕事も、今ある仕事も全部取る。取れなくてもその時はその時ですよ~」

『なにそれ……』


 軽い……浅野芽衣は軽い。けど……その言葉はなんか含蓄あった。

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