220 私を待ってくれてる優しさを知った。
「このラジオは君頼りだからね」
『本当にすみません』
私はささっとiPadに文字を書いてそう告げる。すると何故か皆さん私の顔を見てちょっと固まってる。何? 怖いんですけど? それとも今更私の顔がヤバい事に気付いたとか? 確かに体調悪いせいでいつもよりも血色悪いとは思うけど……それにしてもいつも私顔色どちらかというと悪いし、そんな皆が一斉に気付くような変化でも無いと思うけど……
狭いキッチンの食事用のテーブルに皆で座って顔をつきあわせるのが、ここの流儀というか、やり方なんだけど……最初はそんなやり方に苦手意識があった。それはそうだ。だって私は自他共に認めるコミュ障なんだ。顔をつきあわせて喋るなんて……ね。出来る事ならやりたくない。
けどやりたくないから、やりませんなんてのが許される立場ではない。そんなことをやってるとたちまち干されるに決まってる。それこそ静川秋華位の地位にいるなら、そのくらいのわがまま許されるのかも知れないけど、私は許されない。だからこの打ち合わせにも必死に出て、ようやく慣れ始めてるのに……なんかそんな異常な物を見る目で見られるとちょっと泣きたくなる。
『何か?』
「いや、収録までは治してくれれば問題ないさ。ねえ愛西さん」
「ふん、治せなかったらプロ失格だぞ。お前が俺を引っ張ってきたんだからな。俺が上に行くか、プロボウラーになるかまで休むことなんか許されねえぞ!」
ダンッとテーブルを叩いて身を乗り出してくる愛西さん。それをこのラジオ局のディレクターさんがまあまあといってなだめてくれてる。けど、愛西さんのその目はまっすぐに私を見てる。この人も欲望に忠実だ。けどそれは私も一緒。私も声の仕事で成功したい。その思いは負けてないし、プロ意識だってこの業界に入ったときからあるのだ。私はとりあえず目をそらしてiPadに書き込む。
『治してみせます! そしてこのラジオをもっともっと沢山の人に聞いて欲しいです!!』
バッと私は急いでそう書いてiPadを顔の前に持って行ってみせた。すると愛西さんがプハッと吹き出したのが分かった。汚い。おっさんの唾を私のiPadに飛ばさないで欲しい。そう思ってると愛西さんはこう言ってきた。
「お前、そっちの方が喋れるな」
ん? どういう事?
「先輩って口頭で喋るより、筆談の方がレスポンス良いですよね! 私も思ってました! 今日は先輩待ちしなくて良さそうですね。これからもそれで会話した方が良いんじゃないですかぁ~?」
『どういう事よ!?』
「ほらー早い~ウケる~」
それに会わせて皆さん頷く。ちょっと待って、私待ちって何? そんな試練を皆さんに与えてたわけ? てか優しさに申し訳なさがこみ上げてくる。ごめんなさいコミュ障で! でもそんなポンポン喋れ無いんだもん。でも、私は荒れでも結構頑張ってるんです。だからこっちが良いなんて言わないで。私のガラスのハートが壊れちゃう。
『私は……負けません。喋りますよ』
「おう、良い事だ。楽な方に逃げないのは良い事だ。ポーリングも無闇に回転つければ良いってもんじゃない」
何言ってるのこの人? ちょっと愛西さんの発言の意味は分からないが、励ましてくれてるのは分かった。ここの人たは優しいし、なんか仲間とか家族とかそんな感じみたいな物だ。なら、私待ちでもなんでも申し訳ないけど使って成長していこう。それがきっとここのスタッフに返す物になるはずだから。




