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声の神に顔はいらない  作者: 上松
216/403

216 手にした金が落ちる時

 私はただ破れた小切手を見つめてた。


「一千万……」


 つぶやく声は今にも消えそうで、私の心は砕け散っていた。確かに貰ったときはどうしようとか、こんな額貰えないとか色々と私の良心の部分が訴えてたよ。けど無くなった瞬間にそれらは全て喪失感へと変わりました。

 だって一千万だよ!! 一千万をなくしたやつの気持ちがどれだけの人に共感されることだろうか?


 きっと殆どの人には共感なんてされないだろう。そういう奴らは言うんだ。。それはあぶく銭だった。どうせ貰った金じゃないか――って。

 確かにこの一千万は降って湧いたような金だった。色々とあったけど、私の怪我はたん瘤だけだ。


 治療費なんて微々たるものだろう。なら別にマイナスになったわけでもない。


(なったわけでも……から何だって言うのよ!! 一千万よ一千万!!)


 ああー、私は頭を搔きむしる。私は自分をそんなにお金に頓着しない方だと思ってたし、今でもそうだとは思ってる。けど一千万は人を変える金額としては十分ではないだろうか?


 もう私の頭の中は一千万で埋め尽くされてる。もういくら願っても一千万は返ってこない……それを思うと発狂しそうだよ。

 これはあれかな? ネットでたまに見るFXで全財産溶かしたとき――の、心境だよ! なるほど、これはあんな溶けたような顔にもなるってもんだよ。


 喪失感がやばいもん。


「まあ気を落とすな。破ったのは誰でもないおまえ自身なんだ」

「鬼ですか……」


 確かに破いたのは100パーセント私のせいだ。それは誰にも言い訳なんて出来ない。けどそれを今言う!? それって傷口に塩塗ってるような物だからね。


「とりあえずそれは俺が預かっておこう。一応知り合いに尋ねてみるさ。これでもどうにか出来ないか……」

「はい」


 私は破れた小切手をマネージャーに渡した。喪失感もあって、何も考えずに渡したよ。それにちぎれた小切手を見てるの辛かったしね。なんか一瞬、マネージャーが悪い目をした気がするけど……そんなの気にしてるメンタルじゃなかった。


「それで……私はどうしたら……」

「とりあえず家に帰ってゆっくり休むんだな。それが一番だ。静川秋華は……流石に会うの躊躇うけど……先生は大丈夫なんですか?」

「それは……まあ挨拶くらいはしておいた方が良いだろうな」


 とりあえずお医者さんに確認して、私は帰宅の準備を始めた。たんこぶくらいでは入院なんてしない。けど静川秋華はどうだろうか? 一応入院とかしそうだよね。挨拶していくのが礼儀だろうけど……


「今は先生だけでいい」

「……はい」


 マネージャーは私の気持ちを汲んでくれたみたいだ。というか、静川秋華は寝てるらしい。まあ異常だったしね。寝てるというか、眠らされてるんでは? とりあえず私達は診察室から出て、廊下を歩いて、ちょっとした休憩スペースみたいな所に来た。そこで先生は何やら大変疲れたような姿で椅子に座ってた。傍らには缶コーヒーが開けられてる。うう……なんか申し訳なくなってきた。

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