215 大きすぎる額に震える
クアンテッド社長『大室かなえ』社長が私に対して土下座をしてる。いい大人でも土下座なんてするんだぁ……けどされた方はたまったものじゃないよ。何せこの人は何百? 何千……は流石にいいすぎか? けど業界最大手の事務所の社長である。宮ちゃんの所の社長さんもかなりの大物だけど、この人と比べると一段劣る……そのくらいの人である。内の社長? あれは……ね。いい人ですよ。優しいし。怖くないし。
「えっと……そういうことは……困ります」
「そうね。こういうことじゃないわよね」
そう言って大室社長は何やらポーチから取り出して書き出した。そしてビリッと破ってこっちに差し出してくる。
「事務所の方にはこれからだけど、これは私から貴女への迷惑料と思って頂戴」
「これって……」
私はその紙を見てわなわなと震えた。いや、正確に言うとその紙に書かれた金額だ。ゼロが一、二、三、四、五、六、七……
「五百万……」
思わずつばを飲み込んでしまう金額だった。イヤだって五百万だよ? 見たことない金額で一瞬、子供銀行券なんでしょ? とか思った。
「本物?」
「足りないかしら? それならもう一枚」
ピッと大室社長はもう一枚同じ金額を書いて渡してくれた。五百万と五百万で一千万である。生涯年収かな? 私ならこのくらいだと思う。紙だからはっきり言って実感がないんだけど……でもこれはきっと本物……だよね。
「なかなか良い読経してるじゃない。そのくらいの気概は必要よ。この業界で生きて行く気ならね」
「はあ……」
「それじゃあ、これで今回の件は解決って事で」
そう言って大室社長は颯爽と出て行った。私はその背中を見送ってたけど……ハッとして握ってた紙を上に掲げてこういった。
「ああえっと、これは? これ……は?」
どうしたら良いの?
「えっと……どうしましょう? てか、小切手ってどうしたら良いんですか?」
「銀行に持って行けば良いんじゃないか?」
「なる……ほど……っていやいやいやいや! 一千万ですよ! 一千ます!!」
「噛んでるぞ。珍しい」
いや、噛みもしますよ! なにせ一千万だよ!? ヤバい……なんか変な汗が出てきた。急に実感が……
「一千万あったら仕事取ってこれますかね?」
「絶対に止めとけ。そもそも君にそんな交渉できないだろう。一千万巻き上げられるだけだぞ」
「じゃあどうしたら良いんですかこれ!?」
一千万の使い方よりも持ち方が分からないよ! 不安で仕方ない。私は二枚の紙がくしゃっと成ってる事に気付いた。とりあえず一生懸命伸ばしたら二枚とも真ん中から破けた。私の心もなんか破けた気がする。
「これ……使えますか?」
私は涙声でマネージャーにそう聞く。するとマネージャーはいたたまれない声で「さあ、わからん」といった。




