175 皆が持ってると思ってる
『君が、君のすべてが欲しいんだ』
『お前はなんで……そんなに……俺様の心を持ってくんだ! お前なら……お前とならって……俺様も……』
『しょうが無いですね。本当に貴女はズルい人だ』
『イエーイ! 俺っちがもちろん一番だよね』
『私は……貴女と共に……』
画面には花びらが舞い散りながらそんな事を言ってくるイケメン達。それはこのゲームのヒーロー達だ。私は適切な選択肢を選びながら、そして皆の台詞を声に出して演じてた。そのせいで……
「せんぱぁい……それぇ……ズルいですよ……」
なんと浅野芽衣がグズグズである。グズグズというのは泣いてるって事だ。あの浅野芽衣が……である。こんな風に自分の演技の結果を目の前でみれると、ちょっと自信がつく。てかこいつ、こんなに情緒豊かなやつだったかな? それだけ私の演技が胸に響いたのだろうか?
「どう? ちょっとは見直し……た?」
「ゲーム部分では引きましたよぉ……」
あれ? おかしい、じゃあなんでそんなに泣いてるのよ。強がりでしょ。いつの間にか大量に溢れてるこたつの上の様子。お菓子もそうだけど、アイスとかも何個食べる気なのやら。浅野芽衣の奴は人の目に敏感だから、夜は甘い物は食べませーん……とかいう媚びたキャラのはずだけど。私の前だからだろうか? そんなことを思いながらエンディングの映像を見つつ浅野芽衣もチラチラみる。まあこのエンディングも何回もみた。なにせ少しずつ声の感じとか変えながらやって、自分的には一番しっくりとくるヒーロー達の声を出してたからね。どうやら、それは浅野芽衣にもはまったらしい。最初はなんでわざわざ台詞の音をオフにしてやるのか……元の声優の声のイメージと重複して雑音になるとか、文句垂れまくりだったが、進めてくうちに静かになってた。
「でも……なんでそんなに沢山の声だして、全員の特徴を掴んでるんですかぁ! 声優として私、顔だけしか勝ってないじゃないですかぁ!?」
「そっち……」
てか顔だけって……まあ私の顔は人様に勝るような物じゃないって自覚はしてる。でもそう核心的に自分が上だって……本当によく言う奴。いっとくけど、浅野芽衣は普通だからね。普通にクラスに居たら平均的って位置。特徴がそこまでない子である。化粧したら化けるよね……ってタイプでまあ浅野芽衣は九割化粧でごまかしてる。今日はナチュラルにしてるから平凡顔が出てるけど、いつもはこんな物じゃないからね。
「はあ……私も武器が欲しいですよぉせんぱぁい!」
「酔ってる?」
なんか浅野芽衣がうざったい。お酒は……あった。浅野芽衣が持ち込んでる。どうやら酔ってるのは確からしい。
「私って何にもないんですよねぇ。先輩は顔無くても、声があっていいですねえ」
「顔はあるんだけど?」
そろそろ一発殴っても許されると思う。いやマジで。




