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声の神に顔はいらない  作者: 上松
163/403

163 大きな子供の、大きな夢 20

「ジュエルは今の自分の立場をどう理解していますか?」


 ぷるぷると震える透明な容器に入ったゼリーをスプーンで掬って口に運ぶミーシャさん。スプーンからゼリーが吸われて口の中に消えていくその動作……なんかエロいな。


「ジュエル?」

「はっ」


 思わず見とれてしまった。なにせ彼女は今日、いつものスーツじゃなくてなかなか攻めたドレスを着てくれてる。胸元と背中が大胆に開いたやつだ。彼女むき出しの鎖骨や肩の骨、もちろん胸の谷間にだって注意が向く。背中を向けば肩甲骨が気になる。いつものスーツならここまでドギマギとする必要なんて無かったんだが……でもありがたくもある。

 だけど、ずっと見蕩れてる訳にはいかない。なにせ今は真面目な話をしてるんだ。


「えっと、そうですね。僕の立場は……ミーシャさんに買われた奴隷?」

「プッ!?」


 僕がそんな事を言うと彼女はそう言ってちょっとゼリーをふきだした。けど直ぐにハンカチで口元を覆って何事もなかったかの様に取り繕う。突っ込んでも良かったが、レディが必死に体裁を整えてるのにそこを突っ込むのは紳士としていかがな物か。

 なので僕はじっとしてる事にした。


「面白い事を言いますね。現代に奴隷制度はないですよ」

「でも、同じような事ならいくらでも有りますよね?」

「まあ……そうですね」


 そう言って残ったゼリーの表面をスプーンでペンペンしてるミーシャさん。きっとゼリーの弾力でも確かめてるんだろう。


「僕はミーシャさんに助けられました。それに舞台にも立たせて貰ってる。奴隷だっていい……と思ってます」

「なら、こんな話の場なんて必要なかったんでは? 奴隷に考える頭なんて不要じゃない」

「そうですね」

「まあ不安なのもわかりますけどね。私的にはジュエルにはそういうことを意識せずに舞台に立って欲しかったんですけど、流石にそういうわけにはいきませんよね。額が額でしたし」


 僕の心を読むようにそういってくるミーシャさん。僕はコクコクと頷いておいた。なかなかにデザートを気に入っておいでの様なので、僕は自分の席にある手をつけてないデザートを差し出しておいた。


「そんな、いいですよ?」

「いえ、日頃の感謝の気持ちの席なんで。本当に僕を救ってくれてありがとうございます」

「まあ実は、ジュエルを救ったのは私ではないんですけどね」

「ええ!?」


 衝撃の事実。ミーシャさんが僕を助けてくれたんじゃない? 


「私の事、金持ちの娘とかなんとか思ってますか? 金持ちの道楽だったとでも?」

「えっと……凄く有名な大学を出たりして凄い人だとはおもってます」

「別に大学は学力があれば入って出れますからね」


 ある程度のお金は必要だと思う。まあけどそこが焦点じゃない。


「私は別に金持ちの娘でも、何かの天才でもありません。寧ろ、天才はそっちです」

「僕は……」

「思ってるでしょう? 自分は演技の、舞台の天才だと?」

「ええっと……それは……」

「私はそう思ってます」


 まっすぐに見つめてきてそういうミーシャさん。顔が熱い。いや、全身が沸騰するようだ。心臓が早く動きすぎて、次の瞬間止まるんじゃないかと思うくらい。彼女は今この場を支配してる。僕が舞台を支配するのと同じように。今の僕は彼女しか見えてない。


「私は天才の手助けがしたいんです。そしてその価値があると思いました。だから私は伝手を使って色んな人に投資話を持ちかけました。そしてお金をかき集めてジュエルを買ったんです」

「その投資話ってのは?」

「全くの嘘ですね」

「ええ――ふぐ!?」


 思わず立ち上がって叫びそうになった僕の口をミーシャさんが押さえる。でも……今の話が本当ならミーシャさんは犯罪者になりそうだが……


「落ち着いてください。ここはレストランですよ」

「けど……大丈夫なんですか?」

「まだなんとかなってます。やはり私の目に狂いはなかったですからね」


 なんとかなってる。投資の話は嘘でも、返す手段はもとからあったのかもしれない。そこら辺、僕を騙した奴とミーシャさんは違う。そもそも借金をしたのが他の誰でもない、僕の為だ。あれ……なにそれ? なんかめっちゃときめく。


「でも、いつまでも借りた猫の立場では限界があります。ですからそうですね。そろそろ次のステップにいきましょう。今日は丁度タイミングも良かったですしね」


 そう言って彼女はとりあえずスプーンを置いて僕の目を見てくる。


「ジュエル、アナタ中心の劇団を作りましょう。これで利益総取りです」


 めっちゃ良い笑顔でなかなか黒い事をいうミーシャさん。けど、それを断る理由なんてなかった。だって……それが僕の夢だったから。僕はミーシャさんをパートナーに選んで、本当の自分の劇団作りを始める事になった。

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