157 大きな子供の、大きな夢 14
あれからなんと、僕はヨーロッパ、具体的にはフランスにいた。何がなんだかわからないが、彼女ミーシャ・デッドエンドさんに連れられてアメリカを飛び出した。まさか初の海外がこんな形になるとは……今、自分は随分小綺麗な格好をしてる。髭を剃られ、髪もきられた。勿論、風呂にも入らされて、更に上品そうなスーツまで用意されてた。
はっきりいってつい十数時間前とは環境が変わりすぎてて状況がよくわからない。
「シャキッとしなさい!」
そういって両頬を強く同時に叩かれた。ヒリヒリする。そしてそのまま頬をムギュッと押さえつけられる。目の前のプラムさんは、スーツ姿だ。けど、最初のとは違う、ちょっとエレガントさが加わった様なスーツを着てる。この場所自体もなにかとても趣があるホテルだし、ヨーロッパの重厚感のある空気を感じる場所だ。
柱や、天井一つみても、とても繊細な細工がなされてる。調度品もなんか高そうな物ばかりだし、ついさっきまで、泥水をすすってた様な自分には分不相応な場所なのは間違いない。
「アナタはここで生を買うんです」
「それってどういう……」
「アナタの真価を魅せなさいと言うことです。がっかりさせないでよ」
そう言って彼女に連れられてきたのは、この場所にある舞台だった。ニューヨークでは悪評が広まって舞台なんて立てなくなった自分だが、ここの人たちには快く……なのかはどうかわからないが、受け入れられた。どうやらミーシャさんは顔が広いようだ。そこまで自分と歳も変わらなさそうなのに、凄い。
でもこれでもどういうことなのかはわからない。だからその説明を求めようとするが……既にミーシャさんは居なかった。そしてここで舞台をやる劇団の人たちは既に慌ただしくしてる。
「あの嬢ちゃんがどこから拾ってきたか知らんが、そんな表情で大丈夫か? 使えないのなら、直ぐに下ろすぞ。リハは一回だけだ。三十分後、どうにかして覚えろ」
頭おかしい……とは思ったが、それよりも舞台に再び上がれる期待の方が大きかった。どうやら僕は元々予定になかった背後のダンスメンバーらしい。ミュージカルなんだろう。でもだからって急遽、そんなの入れられるわけない。
だってダンスは他のメンバーとの息の合った動きが大切だ。それにフォーメーション。それは一人が加わるととたんに変わる。それをこの劇団の人たちはこなせるというのか? でも出来るんだろう。なにせ舞台の本場というか、発祥はこっちだろう。そこの人たちなんだ。
自分はそこまで積極的なほうじゃない。けどそれは舞台以外では……だ。それにきっとこれは何かを見られてる。それに迷惑をかける訳にもいかない。僕は直ぐに自分のパートの人たちの練習を見始める。そして声もかける。でもそれは見て覚えろと言うことと、フランス語でほぼ言語での意思疎通は無理だった。そして三十分後。
「ダメだ! これじゃあ全然使えねーぞ!!」
といってると思われる、怒声がとどろいてた。あの人は英語も喋れるんだろうが、全体に伝える時に英語なんて使ってないから、僕にはわからないが彼が怒ってるのはわかる。やっちまった……と思った。




