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声の神に顔はいらない  作者: 上松
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151 大きな子供の、大きな夢 9

「なんで……」


 僕がそう呟くのも無理はない。何故なら、この劇場は知る人ぞ知るみたいな所だ。簡単に見つけれる様な所じゃないし、たまたま今日ここに来るなんて事もわからないだろう。それなのに、僕たちは出会った。「なんで?」とも言いたくなる。


「ああ……偶然ですね」


 どうやらプラムに僕の呟きは聞こえなかったようだ。偶然……彼女はそう言ったが、本当に偶然なのか? と思う。けど、わざわざ自分を探してここに来た……と言うのも、そこまでの関係か謎だ。なんか自惚れてる様に思えるし……ここは突っ込むのは止めておいた。


「偶然……だな」

「はい」


 とりあえず扉を挟んで僕も壁に寄りかかって座る。こんな所に座ってたら、入る人も入りづらいだろうが、大丈夫だろう。人通りなんかない。だが隠れてるわけでもないから、中から出てくる人に見つかるとヤバいかもしれない。プラムは美少女だからある意味で人寄せになったりして言いかもだが、まあこんな場所に座ってる時点で危ないが……僕の場合は小汚さもあって絶対にいい顔はされないだろう。


 キュポッとポケットからとりだした酒の蓋を開ける。そして飲もうとした。安酒だが、これさもなけなしの金で買った奴だ。酒を買う位なら、食い物買えと自分でも言いたいが……自然と手が伸びるのは酒で、なけなしの金は全ていつの間にか酒に消えている。


 だが、その酒を今日はあおる事はしなかった。横に女の子がいるとなると、なんか酒をあおる事がためらわれたからだ。今日もプラムは空を見てる。何が一体楽しいのか……中の音に耳を澄ましてると、隣の方から何かが聞こえる。それは直ぐにわかった。

 どうやらプラムは、中でやってる劇の台詞を口に出してるみたいだ。


(芝居に、興味があるのか?)


 最初に会ったときは、演技をする意味なんて……とか言ってた様な? なにか心変わりするような事が? そう思ってると、僕は違和感に気付く。


(ん? おい、ちょっと待て)


 それはプラムが紡いでる台詞だ。プラムの紡いでる台詞は確かに中の劇の物で間違いない。間違いないが……その台詞がプラムの方が一テンポ早い。つまりは、プラムは台詞を先読みしてる。


(どういうことだ?)


 考えられる事は一つ。こいつは何回もここに来て、既にこの劇の台詞を覚えてるって事だ。でもここは何種類かの演目を日替わりにやるはず。大きな劇団なら、同じ演目を数ヶ月はやり続けるものだが、こういう小さな劇場は小回り優先だ。ここはそれこそ、食事や飲みながら劇を楽しむ……みたいな所だから、一日ごとに演目を回してる。そして数ヶ月に一度新作をやってルーティーンが入れ替わる感じだ。


 だから大きな劇場よりも、台詞とかを覚えるのは大変な筈。僕だって最初は苦労した。けど……この少女は、どれだけ通い詰めてるのか知らないが、どうやら完璧に台詞を覚えてるようだった。すると、不意に台詞が止まる。全部の台詞を紡いでた台詞が止まって、こっちにちょっと視線を向けてる。

 だからなのか何故なのか、自分の中にまだ残ってこの演目の台詞が自分の口から出てきた。きっと酒を飲んでなかったから、口が寂しかったんだろう。そうに違いない。


 そうやって、その日は二人で小さな劇を紡いだ。

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