139 世の中に完璧な人間なんていない。だって人間だもの
今回のPVのテーマは不思議の国のアリスである。まあまんまで、はっきり言って世に溢れてるテーマだといっていい。最初バッシュ・バレルがそれを提示したときは、違和感しかなかった。だってバッシュ・バレルは世に溢れてる定番というか、そういう物を馬鹿馬鹿しいとか言ってる奴じゃん。
『俺が示してるのが、すげーんだ!!』
と、豪語してるというか、そういう主張を作品に入れ込んでる奴だ。なのにありきたりなテーマと言うのはね……というのはあった。実際ミーシャ・デッドエンドさんもそういう物は求めてなかった感じだったしね。実は大層な事を言ってるのに、金出してくれる奴の前では日和る奴だったのか? と思った。
けどそれは違ったというのが、結局の結論だ。確かにテーマ的にはアリスを舞台にしてるのは変わらない。でもちゃんと挑戦的な事をバッシュ・バレルはしようとしてる。
今回、プラム・コデッチさんは常に走ってる姿を撮られる事になる。基本、カメラは彼女を追う形だ。彼女こそがこのPVのアリスだからそういう風になる。
そしてそのアリスに関わる役、全てをジュエル・ライハルトがやる。PVだから何か台詞があるわけじゃない。本当ならいくつもの物語を端的に見せていく……みたいなPVだってあったと思う。劇団の多様性とかを魅せるにはそれが良かったかもしれない。
けど、最終的にはこの形に落ち着いた。どうやらバッシュ・バレルの意見を劇団の皆さん、そしてミーシャ・デッドエンドさんも受け入れたからだ。『劇団なんだから、この小さな尺の中でも魅せろ』って言葉にやられたみたいだ。
まあそんな事を言われたら、役者としてのプライドがある者達は黙っては居られないだろう。普段から人に食ってかかって煽ってるバッシュ・バレルだからね。そこら辺は得意らしい。
音楽と共に走り出したプラム・コデッチさんはとても可愛く走ってる。女の子走りと言う奴だ。実際、彼女は運動神経抜群だし、足だって速いらしい。まあ劇団に居るからね。運動神経悪いわけないよね。この劇団ダンスとかだってやってるし……
けど今はアリスを演じてるからあんな走り方なんだろう。はっきり言って可愛い。いつもの彼女神秘的な美しさは今は薄れてる筈なのに、目を奪われる。今回ずっとプラム・コデッチさんは走る描写が続くが、別にずっと走って居ないといけないわけじゃない。カット事に走れば良いだけだ。まあけど、合算すれば、結構な距離になるかもだが、プラム・コデッチさんだって鍛えてる……筈だ。
めっちゃ細くて、筋肉なんて見えないしなやかな腕と脚なんだけど……鍛えてないはずがない。その周りでは劇団員達が、色々な衣装に身を包んで動き出してる。その動きに乱れはない。皆が同じ動きをしてて、別のカメラではプラム・コデッチさんを撮らないように彼等を撮ってる。
実はこれを何往復かする。その度に違う動きをするのはジュエル・ライハルトだけだ。なら残りの人たちは最初のカットの素材を使えば良いのでは? とか思うが、色々な思惑とか、関係とかで全て個別に撮る予定だ。そこらへん、バッシュ・バレルに妥協はない。
そしてプラム・コデッチさん演じるアリスの前に、ジュエル・ライハルトが演じるウサギがあらわれる。ウサギはアリスを不思議の国へと誘う存在。それを表現するようにジュエル・ライハルトが踊る様に動き……
(ん?)
なんか、舞台上で見たキレがなかった。それに存在感ってやつもだ。自分の見間違いじゃないのなら、これではプラム・コデッチさんと対にはなって……ない。
「カットカット!!」
そして案の定、バッシュ・バレルの声が響いた。




