111 誰も知らない玉の行方
「やっぱり、ここはマネージャーがやったほうが……」
私はそう言ってマネージャーを見る。これは最後の投球だ。残ってるのは二本。ピンが二本並んで立ってる。ようはあれを倒せれば、この勝負私たちの勝ちである。でも最後の順番が私なんて……私はこれまで一本もピンを倒してない。
実質このボーリング勝負はマネージャーと愛西さんの対決だったと言っていい。私は何の戦力にもなってなかったしね。なのに……だ。なのにこの場面で来る? アニメなら、ここで何にも出来なかった奴がピンを倒して盛り上がるって言う展開が予想できる。
でもここは現実だ。そんな奇跡はそうそう起きないし、私はそんな持ってる奴じゃない。もしも……だ。もしもこれが私ではなく、静川秋華だったら……
(きっと倒すんだろうな)
そう思ってしまう。なにせあの女、ヒロイン力から生まれてきたかの様な存在だ。宮ちゃんもヒロイン力を持ってるし、倒せそうだね。でも私は違う。そういう力が完璧に欠如してるってしってる。なのに……
「俺は所詮はマネージャーだ。声優なら、自分の仕事は自分で掴め」
「そうだぞ。思いっきり投げてみろ! 案外あたるかもだぞ」
愛西さんは適当言ってるだけだが、マネージャーは何か熱い事を言ってる。何か今日のマネージャーはちょっとうっとうしいな。もっといつもは合理的に判断してるじゃん。乗ってきてるだろうから、実際このピンの位置なら、マネージャーが投げれば倒せると思う。
なのに……それなのに私に任せる? 本当はプレッシャーに弱いだけとかじゃないよね? 私があのピンを倒せる確率……一体どのくらいだろう? いや考えても仕方ないか。今までは床に置いてまっすぐに転がる様に押し出していた。
けどそれでは一本も倒れなかった。一応ガーターじゃなくレーンを転がっていった事もあるから、ピンが十分にあったら倒れてた奴もあったとおもう。今回の勝負は愛西さんが残したピンを倒すってやつだから、もっと正確なコントロールが必要だったって事。
けど、はっきり言ってこれ以上のコントロールなんて私にはできない。最後に残ったピン二つは右側に寄ってる。下手に端っこから転がしたら、すぐにガーターになる可能性がある。なら斜めに転がす?
でもそれもリスクが高い。いままでも何回かそれやったけど、私は距離感を掴むのが苦手で、それは人と人の距離感だけじゃなく、実測の距離感もらしいと今日気付いた。
斜めに転がすとどうしても全くかすりもしない。ならやっぱりまっすぐに転がすのが一番確実だ。
(でも……)
私はチラリと愛西さんを見る。彼は少しだけは私に、そしてアニメに興味を示してくれてる……と思う。ならここは今までの慎重な私ではなく、もっと別の私を見せて見るのもいいかもしれない。確かにピンを倒せるのが一番だけど、どのみち確率的には同じなら、最後まで興味を引き続けるべきでは?
(よし!)
私は覚悟を決めて、振り返って愛西さんに言うよ。
「私、思いっきりなげま……そして、ピンを倒して……愛西さんにラジオに関わって貰いますから!!」
「…………やってみろ」
私は再びレーンに向き合う。そして今まではとてとて歩いてレーンの手前までいってたけど、今回は違う。私は助走をつける。
(えっ? あれ? タイミングが、てかボール重!?)
予想外の事にパニックなりながらも、私は腕をふりきった。その玉は――
次回は明日あげますね。




