01 光と影
これはノベルバとノベルアッププラスで連載してる物です。一応最新話までは連続であげて行きますけど、一日三話くらい? それで追いついたら、最新話を同時に掲載していきますね。
輝きがそこにはある。激しい光の中で踊る女性たちは、その汗を散らし声を枯らして歌ってる。その姿は魅力的で、会場に集ってる者達を魅了してる。それは自分も例には漏れない。ここは会場のVIP室。個室だから会場の熱気とは一線を画してるんだが……それでもこちらにもその勢いは伝わってくる。体の奥から熱い何かがこみあげてくるのがわかるんだ。
「どうですか先生?」
隣でそういってサイリウムを振ってるのは出版社の人だ。うん、そこまでやるんなら一般席に移った方がいいのでは? と思うが、この人はなかなかに偉いのである。
「そうですね。普段あまり外に出ないので楽しいですよ」
「そうでしょうそうでしょう」
ほくほく顔でそういう彼。まあ悪い人ではない。ただ自分に正直なだけだ。それに実際楽しんでるしね。このVIP室には他にも今回の企画で関わったお偉いさんがいる。流石に他に踊ってる人はいないが、それなりに楽しんではいるようだ。普段はきっと会社で会議とかばっかりだからこういうのも息抜きなのだろう。まあそれでもちゃんと仕事は忘れてはいないようで、色々と交渉とかもしてる。
「先生、二期の件ですが――」
気が早いことで。だが同じスタッフでなら心配もないだろう。
「ええ、前向きに検討しましょう」
そんな言葉を紡いでおく。仕事の話なんて後からでも出来る。自分はなるべく仕事とそうでない時は分けたい性分なんだ。今は仕事ではない。そう自分は思ってる。招待された側だからちゃんとした応対はするけどね。そんな折、舞台にアニメの映像が映し出された。そしてそんなキャラ紹介と共に、ステージで踊ってた女性たちが自己紹介へと移る。
「先生?」
「ああ、いや見とれてただけだよ」
「ですよね!! いやーほんと今の声優さん達は可愛い子達ばかりですよね! そんな声優さん達と知り合いになれるんですから役得ですよ!!」
ほんと欲望を隠さない人ですね。けど今やこの人の言う通り、声優達は見目がいい人がいっぱいだ。アイドル声優――そんな言葉も今や一般化して久しい。アニメとかを製作する時はイベントまで考慮して企画するのは当たり前。そうなると、人前に出る訳で……ならもちろん見た目がいい方が絶対にいい。勿論見た目は良い方がいいに決まってる。だが……
(自分が考えたキャラが最高なんだよな)
自分自身はそう思ってる。それこそ一片の曇りなく――だ。そんなキャラに命を吹き込んでくれる声優は好きだ。尊敬してる。だが……彼女とキャラは別だ、同じになんて思えない。だからあたかもキャラがその声優と同一体みたいなのは納得できない。別々な物だと思えれば問題ないんだが……というか、普段はそう思ってる。けどこういうイベントではそうはいかない。そもそもがコンテンツと連動したイベントだ。わかってはいたけど……こうやってキャラと声優が=で結ばれるのは納得できない。
単体同士で見れば問題なんてないだが……けとここで嫌な顔なんて出来ない。
(もう、あの子達は旅だったんだ。そう思おう)
自分は心の中でそう結論付ける。メディアミックスすると言う事は、自分の手の中から巣立っていく事だ。これはしょうがない事なんだ。ステージ上の彼女達は間違いなく眩しい。けど自分は思うんだ。
(いつか、本当にキャラをこの世界に……)
それは出来ない事ではない。技術は日々進歩してるのだから。
「それでは先生、また後日」
「ええ、またよろしくお願いします」
そういって静かにハイヤーは進みだす。窓の外を見ると、夜の街の明かりが流れてく。そんな時、スマホが振動した。相手を確認して行き先を変えてもらう。ハイヤーはタクシーではないから目的地までは責任持ってくれるわけだが、こっちの都合でいつまでも仕事が終わらないというのは良くない。なのでチップと共に目的地を変えてもらった。辿り着いたのは近所の居酒屋だ。
「うーー、なんで声優がダンスとかしてんだよ!」
中身がなくなったジョッキをテーブルに叩きつけながら自分はそんな不満を漏らす。そんな自分を向かいの男はつまみをつまみながら笑い飛ばす。
「はは、それは時代だよ。しょうがない。実際イベント込みで採算は組まれてるんだよ」
「んなのわかってるよ! それに日の目を見なかった声優が注目されるようになったのも業界的にいいとかわかるしな」
「そうだな。声優は今やアイドルみたいなものだからな」
「けどなぁ~! けどぉ!!」
自分は管を巻いて続きを言う。
「おれぇのキャラたちを汚さないで欲しいんだ! 声優たちとキャラは違うーーー! そうだろ!?」
「けど声優は中の人っていうよな?」
「ちげーよ。キャラに声優が乗っかってるんだよ!?」
自分は真顔でそういう。とりあえずビールを追加注文した。中の人なのは否定しないよ。けど、実際は俺は同一視はしてない。キャラはキャラはなんだ。
「さぁいきんはぁ~、キャラ=声優ってなり過ぎなんらぁよ。こっちは声優ありきで書いてないっての!」
「最近の視聴者は直ぐにキャラと声優を結びつけるしな。コメントとかでも有名な声優ならキャラの名前よりもそっちで呼ばれたりするし」
「それ! だよそぉれ!! 声優はキャラかもしれないが、キャラは声優じゃないんらよ!」
中の人言われてるから、声優はキャラなのかもしれない。だが、キャラは声優ではないのは絶対だ。そう俺の中では。
「お前のところだって、どうぅせ見た目いい奴ばっか採用してんだろ? 声優なら声で選べ! 声で!」
「そうは言ってもなぁ。やっぱり見た目良い方がチャンスが広いんだよ。勿論声でもちゃんと選んでるさ。最近は声優の専門学校も人気だから基礎はしっかりしてるんだぞ」
「そいつらはアイドル声優になりたい奴らだろぉ?」
「はは」
さわやかな笑顔を浮かべるこいつは『桐生 直孝』声優事務所のそれなりに偉い立場だ。三十くらいで上級役員的な立場。だがそれもおかしくはない。何せこいつの親の会社だからだ。こいつはいつか社長になる事が決まってるのだ。人生イージーモードとはこいつの為にある言葉と思ってる。まあ境遇は気に食わない事この上ないが、案外こいつとは気が合う。そもそも仕事以前の知り合いであるしな。それに仕事にも境遇の割には真面目だ。
お飾りになってもおかしくないし、それこそ威張り散らしてたっておかしくないのに、こいつはそんな事はない。きちんとしっかりと会社の事を思って働いてる。だからこそこんな事を言ってしまうのも気が引けるが、酒のせいに今は出来る。良い声優というのは今や昔とは違う。声だけでは、仕事が絞られてしまうらしい。会社として欲しいのは使える声優なのだ。そして売れて使える声優ならなおよい。今や、声優を売り込むにも顔が必要な時代というわけだ。
声優とは何だと言いたい。だが……これが時代だ。わかってる。わかってるが……俺には文句を言う権利くらいあるだろう。
「家の事務所でも人気の先生様がんな事思ってるなんて、皆がっかりするだろうな」
「ふん、そんなのわかる訳ないだろ。俺は大人だからな。外面は完璧だぁ!」
そう、今は一応大人気の売れっ子作家として俺は通ってる。けど、そんなのがいつまでも続くなんて思ってるわけではない。そこまで頭ゆるくないからな。だから天狗になんてならないように常に周りに気を使ってる。なるべく良い印象を与えるようにな。それは今の所、上手く行ってると思う。
「そういえば……お前の所の……」
「ん? なんだ?」
「いや、やっぱりいい」
そういう俺のスマホがさっきから何回も振動してる。出てはないが、それが誰かはわかってる。この相手がどんな顔してるのか、見なくてもわかる。俺は静かにビールの入ったジョッキを置く。
「もういいのか?」
「ああ、仕事あるしな」
「そうだな。先生様には頑張って貰わないと。出来るなら新作か、新しいキャラでも出してくれると、家としてはありがたい」
「キャラは声優の為に出来るものじゃぁーなぁい!」
「わかってるよ。面白い物を生み出してくれればそれでいい。それが仕事になるんだから」
そういってここの飲み代は奢ってくれた。飲み屋の前で分かれて俺は徒歩で近くのマンションへと還る。エントランスに入ってエレベーターを上がり、自分の部屋の扉までくると、そこには何かが蹲ってた。膝を立ててそこに頭をつけてなるべく体を小さくしてる。ミニスカートなら際どい部分でもみえそうだが、残念な事に彼女はロングスカートで膝を立ててもふともものちょっとしかみえない。彼女の傍にはコンビニの袋と共に、缶ビールが何本かみえる。
どこで宴会開いてるんだよこいつ……と内心思う。このまま放っておいて部屋に入るか? と思ったが、どうやら足音で気づいたようだ。もぞもぞと体が動き、膝に埋まってた顔が持ち上がりこちらに向く。薄く塗られたメイクも膝に顔当ててたからか、なんかこすれた様になってしまって少しおかしくみえる。なのに気持ち悪いとは思わないのは元の顔が整ってるからだろう。成人を迎えてる筈だが、その顔はまだまだ幼くてあどけなさが見える。
「うぅーあぁーしぇんしぇえーだぁー」
呂律が既に回ってない。さっき居酒屋で飲んでた俺よりも酔ってるってどういうことだ。一人でよくここまで酔えるな。しかもこんな場所で……仮にも、こいつは人気声優のはずなんだが……SNSとかにアップされてないよな? 不安だ。それにこんな所を見られてたりすると最悪だ。まあ周りに人はいないが……どこで誰が見てるのかわからないのが今の世の中、とりあえずの呂律の回ってない人気声優をこのままにしておくのは不味いだろう。
それなりに高級なマンションだからアニメとかに興味ない人が多いのか、まだ大丈夫の様だが、このまま放っておいたら薄い本の展開になるかもしれない。こいつ美人だしな。
「しぇんしぇえーおそーいぃ! しぃーを待たせるなんてぇ~しぇんしぇえーくらいらよ~」
そういってこっちに千鳥足で向かってきては抱き着く彼女。吐き出す息はとても酒臭い。俺は肩を握って距離を開けつつこういうよ。
「人気声優様は明日も忙しいでしょう。早く帰ってちゃんとしたベッドで寝た方がいいですよ」
自分以上の酔っぱらいを見ると急激に酔いが覚める。酔いに任せて気持ち良く寝ようと思ってたのに、どうやらそうはいかないようだ。しかもこの酔っぱらい、飛んでもない事言い出した。
「だいひょうぶ~! だってここで寝るもーん!」
「もーん――じゃねえ。誰が許可した、誰が?」
「うい~、私でぇーす!」
そういって手を頭の部分まで持ってくる彼女。ダメだこれ。完全に寝てく気だ。こいつを下の階までおろしてタクシーに押し込んで……というのも面倒だ。しょうがない。
「よし、分かった。ベッドは貸してやる」
「ひゃった~! しぇんしぇえーわかってる~」
そういって喜ぶ彼女。とりあえずカギをスマホで開け、中に彼女を入れる。そして俺はドアの向こうからこういうよ。
「それじゃあ、俺は近くのホテルにでも行くから。あんまり汚すなよ」
「なぁんでよぉぉ~! いっひょに寝るのぉぉぉ!」
そういって扉を閉めようとする俺の腕を彼女は掴む。
「ベッドは貸すとは言ったが一緒に寝るとは言ってない」
「むぅぅぅぅ、じゃあしぃーもホテル行く~!」
厄介な事を言い出す奴である。ホテルに一緒に行くのと、自宅に一緒にいるのは実際どっちがやらしいのだろうか? まずいのはどっちか考える。結論は簡単だった。
(うん、どっちも不味いな)
だからこそ、部屋にはこいつを置いて自分は別の場所で寝ようとしたんだ。なのにこいつはついてくるという。それでは意味がない。これは自分の為でもあるが、彼女のためでもある。彼女はブレイク声優だ。その容姿と……まあとくに容姿で人気が爆発した。後は事務所の力とかだ。でもそれだけじゃない。押される声優なんてそれこそ沢山いる。けどその波を掴めるかは本人の努力と才能。そしてまあ……運だ。
そしてこいつはそれを掴んだ。今や売れっ子アイドル声優だ。だけどまだまだ成長の余地がある。事務所だってそれをわかってるんだろう。いい仕事ばっかりこいつは受けてる。そんな時に、人気アイドル声優が男の家にお泊り? はたまたはホテルに男と居るところを激写!? とかになったらたちまちその人気の波は引いて行くだろう。
いや、引くだけならまだしも、激しいアンチとかに反転する可能性は高い。別段アイドル声優が男を作ってはいけないとかのルールがある訳ではない。けどアイドルとついてる部分がそう思わせるのか、暗黙の了解みたいなのがファンの間にあるのもまた事実だ。だからこういうのは絶対に不味い。そう酸っぱく言われてる筈だが……
「しぃーはぁ、脱いだらしゅごいだぞぉー!」
人の気も知らずにそんな事をのたまう人気声優様。服を意図的にはだけさせて意図的に鎖骨を見せてくる。確かにエロい鎖骨してるが、俺は野獣ではない。理性を持ち合わせたホモサピエンスである。女は大好きだが、俺はちゃんと立場とかを考えられる。声優と付き合うとか、確かにデビュー前は憧れてたが、今はもう別にって感じだ。それにただ顔がいいだけの女に靡く年齢でもない。色々と総合的な評価ができる程の経験をしてきたつもりだ。
まあその結果が、未だに独身な訳だが……とりあえず彼女には今は恋愛感情はない。ビジネスパートナーではあるがね。
「いいから早く寝ろ。俺は別の所で寝るから」
「やぁ~! しぇんしぇえーと寝る~!」
こんな発言を彼女のファンが聞いたら確実にビッチ認定確定だな。ヤリマンとネットでは飛び交う事間違いなし。
「どこから情報なんて洩れるかわからないんだぞ。声優生命終わるぞ」
「ひぃよ~! そしてたらしぇんしぇえーのお嫁さんにしてもらうもーん!」
誰がそれを受け入れたと言いたい。てかそんな事になったら今度は俺が狙われる。そんなのはごめんだ。後ろから刺されるとか経験したくないから。ファンとは頼もしくもあるが、怖くもある。そういう物だ。そのくらいこいつだって知ってる筈だろうに。まあ今の若い子はこんなものか……と思わなくもないが。楽天的というか、楽観的というか。人生舐めてるというか……まあこの軽さが魅力的な所なんだろう。こいつの場合ね。
だからって俺的には厄介この上ないが。
「しぇんしぇえーしゅき~!」
そういって抱き着いてる彼女はズルズルと落ちていく。こいつ……もう寝落ちしそうじゃねーか。しょうがないから、ベッドに連れてくしかない。そこで寝かしつけて出ていけばいいだろう。そう考えた。とりあえず彼女を背負う――としたが、なんか色々と当たっておちつかない。となると、後は前で持ち上げるしかない。それはつまり俗にいうお姫様抱っこという奴だ。
(う、腕がプルプルする)
運動不足の弊害か、かなりきつい。背負う方ならそこまででもないんだが、やっぱり腕だけで支えるとなると負担が半端ない。それでも何とか彼女をベッドまで運ぶ。寝ぼけながらも首に手を回してキスしようとしてきたりと大変だった。
「よし、さっさと出るか。自分の家なのにな」
そう考えるとなんか悔しいが、変な事になる可能性は極力下げたい。彼女は気にしなくてもこっちは気にするのだ。とりあえず彼女を見ると少しはそそる。可愛いし。スカートから覗く生足とか、浅い呼吸を繰り返す口元とかけっこうエロい。
(うん、不味いな。間違いを犯す前にさっさと出ないと)
ここで襲ったら、それこそこいつの思うつぼだ。今でこそちょくちょく勝手に来るのに、やってしまったら絶対に彼女面するに違いない。そうなると厄介だ。とりあえず劣情を押し殺して彼女に布団をかける。そして出ていこうとしたが――
「おいおい」
――寝てる癖に人の服の裾をがっちりと握ってるぞこいつ。ズボンが引っ張られる引っ張られる。無理矢理なら動けるが、そうするとこいつがベッドから落ちてしまうだろう。勝手に押しかけてきて、ベッドまで占拠されてこっちはホテルに行かなくてはというのに、更にこっちが気遣うというのもおかしな話……とは思うが、こいつが体調を崩すと色んな人に迷惑がかかる。こんなでも売れっ子アイドル声優なのだ。とりあえず、掴まれてる部分を離してもらう為に彼女の手に触れた。
綺麗で小さい手だ。なんか力を込めると折れてしまいそうで怖くなる。なので一本一本丁寧に指を離す。中指まで外すと流石にズボンは解放された。けど今度は手を掴まれた。
「うへへ~」
とか変な声を出してがっちりと俺の手を握ってる。
「勘弁しろよ」
こっちだってそれなりに疲れてる。さっきは両手で出来たからあっさりだったが、片手でやるとなると億劫だ。とりあえず俺は腰を折ってベッドの傍に座り込む。あんまりこっちに手を伸ばして落ちてきてしまっても困るから出来るだけベッドに寄り添って指を離す作業を始めた。けどやっぱり片手じゃやり辛い。そうこうしてる内にこっちもうとうととしてくる。そして――――