プロローグ・夜の下町にて
よろしくお願いします。
夜の下町というのは実に珍妙な光景に溢れているものだ。
普段はフナとシマドジョウぐらいしかいない小さな水路
・・・に突如誰かが逃がしたであろうアリゲーターガーが出没!!!
この緊急事態なのにも関わらず、泳ぐガーを見つけた若いヤンキーと年老いたホームレスがまるでシンクロしているかってぐらい息ピッタリに、
『『コレは俺の晩飯だああ!!!』』
と意味不明なことを言い出していきなり取っ組み合いを始める。
それはどんどんヒートアップしていき、ついには高架下へ仲良くダーイブ!!!
と、より緊急具合が増した展開に。
すると通りすがりの腹踊りをしながら歩いていた酔っ払いのサラリーマンのおっさんが、状況を見て酔いが醒めたのか大慌てで通報。
通報したおじさんも含めた3人が警察のお世話になっている。
さすがにツッコミどころ多すぎるだろ・・・
そしてその騒ぎを物陰で苦笑している俺もまた珍妙な光景の一部なのかもしれない。
当の俺は自動販売機の横にあった電柱にもたれ掛かりながら力無く缶コーヒーを啜っていた。
「く~、仕事終わりにはこれが沁みるんだよなぁ」
冗談で言う場合を除いて仮にも高校3年生、17歳の年齢の男子が果たしてこんな年甲斐もない発言をするのであろうか。
まあブラック企業やブラックバイトが町中に横行する現代だ。これもそれほど珍しくもない光景なのかも知れないが。
俺の名前は加藤タイチ、身長はやや標準より上、連日の過労のせいか髪色は銀一色。
え、過労だけで17歳が銀髪になるのかって?
俺は元から若白髪・・・ゲフンゲフン。
失敬、若銀髪だったからな!
アニメを見すぎたせいだろうか、原因が何であれども然生成されたこの銀髪自体は個人的に悪くはないと思っている。
この時点でもう俺が普通の高校生ではないことぐらいはお気づきだろう。
俺は2年前にとある事情で高校を退学してからずっと日夜アルバイトに明け暮れる生活を送っていた。
俺の1週間の総労働時間は両親二人を足した倍近くある。
違法なブラックアルバイトに敢えて就いて、毎日14時間働いているのだ。
そして土日の早朝には円滑なバイト業務を執り行う為のゴミ拾いボランティアにも参加している。
そりゃあこんなにも老け込むわな!
遠くから見たら70歳超えの老人と見間違えられて「認知症で帰り道を忘れましたか?」と純粋な目の女子小学生に尋ねられた日には本気で泣いた。
だが今まで過酷すぎる労働を続けてきた俺の総資産は1000万にも上る。
もしかすると中小企業の社長の年収とかよりも多いのではなかろうか。
それはさておき気になるはずだろう、俺がこんなに大金を貯めてまで何をしたいのかが。
俺には夢があった・・・・・・
思い返せば2年前の夏休み、
昔から他人の為に尽くすことが好きだった俺は高校入学と同時に解禁されたアルバイトをその他の学生生活全てを捨てて掛け持ちしていた。
飲食店でのスマイル接客、品出しでの力仕事、工場でのちょっと科学的な作業、
その全てに異なる楽しさがあった。
異常なまでの労働欲を持っていた俺は1つじゃなしに様々な仕事を楽しみたい・・・なんてトチ狂ったことを思うようになってきたのだ。
そう、ゲームで言う所の『何でも屋』を現実で開こうと本気で考えてしまったのだ。
勿論両親には猛反対された。
いくら夢の為とは言えそれなりにお金のかかっている高校を俺の労働欲なんかを理由に退学されてたまるかと。
勉強して企業に入社した方が結婚もしやすいだの老後が安定するなどと嫌と言うほど説かれた。
だが俺は諦めなかった。
両親に怒鳴られたその日から来る日も来る日も経験の大切さを説き返し続けた。
それは鶏が毎朝甲高い声で鳴く様に。
この半日ブラックバイト生活も元は体力を見せつけるために始めたことだった。
それを始めて1か月が経とうとしていた頃だったろうか。
ついに両親が折れた。
それ以来一切金を使うようなことをせずにひたすらアルバイトに明け暮れた学生の末路が今朝駅前で老人ホームの勧誘を受けた俺である。
だが人は見かけによらないとはよく言ったもので。
バイト開始前は全身ひょろひょろだった俺でさえも、
今では大量の段ボールをまとめて運べる70キロ近くの握力も持ち、食事をまともに取らず極限まで絞られた腹筋は満を持して8パック、配達の速さはあの陸上選手の次ぐらいに速かったりもする。
事務作業を何度も経験している俺の計算に狂いはなかった。
俺の異様な働きぶりを見たバイト先の不動産屋が手頃な物件を探してくれて住居を確保。
そしていつも1人で大量の品出しありがとうねと商店街では食品を多く負けてもらえる。
さらには衣服も町の人のお古を譲ってもらったりして事足りている。
俺に死角なんぞ存在しない。あとは独り暮らしが可能になる年になれば・・・
そんなことを考えながら未来のマイカンパニーを目指して走っていると
何故だろう、足に力が入らなくなってきた。
ここに来て過労が応えたのだろうか。
身体中に走る激痛に悶絶する・・・
体の内側を掻き毟られる様な・・・
ダメだ、耐えきれねえ・・・
俺はゼエゼエ言いながら、固く冷たいアスファルトの道路にばたりと倒れ込んだ。
高校生の枠を超えて身体を鍛え過ぎた歪み・・・
段々と手足の感覚が無くなり、目の前一面が真っ白な光景に包まれた。
かろうじて残っていた聴覚には聞きなれたバイト先の運送トラックの騒音。
突っ伏している間にもその音は大きくなってきて・・・
「あれ・・・もしかしてヤバ・・・イ・・・」
今の俺には見えてはいないがこの道には街灯がない。雲に隠れて月明かりすら遮断された漆黒の空間。
まさか人が倒れているなんて思うはずない運転手が、運転席の高さからは見えない俺の存在に気付くはずもなく・・・
鈍い音だった、聞いていると気味が悪くなる様な・・・
トラックの重量に耐えることはできず・・・
俺は息絶えた。
「はは、雨の日も風の日も働いてやっと夢つかんだっていうのに・・・あっけねえなあ・・・」
俺の、アルバイトに青春を燃やし尽くした17歳の最後の言葉だった。
虚無・・・
俺の身体にはただひたすらに虚無が続く・・・
「・・・お」
・・・声?
「・・・きて」
何故だ・・・俺は死んだはずじゃないのか・・・
「ねえ・・・てば」
いや、確かに聴こえる
「ねえいい加減起きなさいってば!」
目を開けるとそこは神秘的な空間。
前には天使と思しき格好の女性が。
そして彼女は俺にこう問いかける。
『貴方、異世界転生してみない?』
ここまで読んで頂きありがとうございました。
語彙力皆無なのはご容赦くださいませ。
(できるだけ勉強していきます)
近いうちに(保険)一話目投稿できるように頑張ります。
(ネタは考えてあるので今週中には・・・)
初心者丸出しですがよろしくお願いします。