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あの女が憎い  作者: 此道一歩
8/11

堕ちて行く屑女


 しかしその3日後、亜美は久しぶりに会った元クラスメートの久美とお茶をしているときに

「この前さあ、公園で、秀人と話してたけど、何かあったの? あいつ、彩と結婚するんでしょ、なんで2人で話してたの?」

 不思議そうに久美が尋ねると


「うーん、ちょっとねぇ、口説かれちゃって困ったの……」

 つい、亜美の口からこんな言葉がでてしまった。


「えっー、もうすぐ結婚するんでしょっ、なんて男なの!」


「だからね、私も言ったのよ、彩さんを大事にしなさいって……」


「それでどうなったの?」


「うーん、わかってくれなかったからそのまま帰って来ちゃった」

 彼女も意識していたわけではなかったが、それでもプライドが許さず、嘘をついてしまった。

 しかし、嘘を言葉に載せてしまった以上、彼女は、この噂が広がればいいのにと思っていたが、思惑通り、徐々にそのことが噂となって、当然、彩の耳にも入ってしまった。


 しかし、彩は全く動じなかった。

 学生時代、彼女は何人かの男性から告白され、二人きりでお茶をしたり、食事に行ったこともある、深夜までカラオケで歌いまくったこともあった。

 どの男性もいい人ばかりで、しっかりと人生を歩んでいこうとしているのがよくわかったし、優しくて、誠意のある人達だった。

 しかし、男性を前にすると彩は何かしてあげたくなる女性だった。その何かは、決して尽くすための何かではなくて、助けてあげたい、導いてあげたい、そんな思いだったから、そうした人達と歯車がかみ合うはずがなかった。

 そうした自立した人達といると、彼女は気持ちの張りがなくなり、心がなえてしまうのだった。

 彼女にはそれが耐えられなかった。彩が求める男性は、自分を包み込んでくれる人ではなくて、秀人のように自分が包み込んであげないと駄目な人…… 母性本能といえばそこまでなのだが、幼い頃から秀人に関わってきた彼女は、その中で自らの男性像を創り上げてしまっていた。言葉を変えれば、秀人のような人でなければ、彼女の心に入り込むことはできなかったのである。

 彩には、こんな明確な思いがあったわけではないが、無意識の内に秀人のような男性を求めていた。


 彩に取って、秀人の唯一の欠点は、優柔不断なところだったが、一方でそこが秀人に魅かれるところでもあって、何とも複雑な女心であった。

 そんな思いの中で、ここにたどり着いた彩だったから、絶対に秀人を手離すつもりはなかったし、亜美が言い寄ったのであればいざ知らず、結婚が決まったこの局面であの秀人が亜美に言い寄ること等、天地がひっくり返ってもあり得ない、彼女は絶対的な自信をもっていた。


 ただ噂が流れた以上、何かが起きたのだろうが、そこに至るまでの経緯や、状況を想像してみてもきりがなく、考えるのが馬鹿らしくなった彩は、そんなことはもうどうでもいい、そう思って気にも留めていなかった。

 しかし、それを耳にした雄一は、秀人からもう一度詳しい話を聞き、断られたことに腹を立てた亜美の仕業だということを確信した。



 彼は翌週、ミニ同窓会に出席し、チャンスを待っていた。

 取り巻き連中から秀人の話が出て

「私も困ったのよー」と彼女が言った瞬間、彼は立ち上がって


「それは違うだろ! 俺は垣根の裏で仕事してて、その話を聞いていたけど、よりを戻そうとして言い寄ったのはお前じゃないか。秀人は彩と生きて行くから、関わらないでくれって、はっきり断ったじゃないか。どこで話が逆転したんだよ!」一気にまくしたてた。


 会場内がざわつき始め、20人近くいた同級生は、次々と会場を後にした。


 最後に残った雄一は、

「お前が何をどうしようが俺には関係ない。でも俺にとってその大事な2人が結婚して幸せになろうとしている。これを邪魔する奴は絶対に許さない。お前は昔から人が羨むような奴のそばにいて自分が輝きたかっただけだ。だけど彩ちゃんは自分が輝いているんだよ。どんなに逆立ちしてもお前は彩ちゃんにはかなわないよ、生まれもった星が違うんだよ」


「あんたに何がわかるのよ」


「わかるさ! お前は秀人と付き合っていても彩ちゃんのことが頭から離れなかった。 秀人が彩ちゃんに見せるような笑顔を、お前には見せてくれなかった。いつか秀人が彩ちゃんの所へ行くんじゃないかと思って心配だったんだろう。そんなことぐらいわかるよ!」


「わかったようなこと言わないでよ!」


「今回だって相手が彩ちゃんだから許せなかったんだろう。彩ちゃんじゃなかったらこんなことはしていないだろう。だけどお前はもう秀人とは別れたんだ、その秀人が幸せになろうとしているのにそれを喜んでやることができないのか! 哀れな女だな……」


「あんただって哀れよ! 好きな女を友達に持っていかれて何ともないの? きれいごとばかり言わないでよ!」


「お前には人の心がないのか! よく考えてみろ、彩ちゃんは小さな植木に水をやって大事に大事にそれを育ててきたんだよ、やっと花が咲いたらお前はその花だけ切り取って『きれいな花』って言って喜んでいたんだよ…… それは彩ちゃんが育てて咲かせた花なんだよ」


「……」


「彩ちゃんがあいつのためにどれだけのことをしてきたのか知らないだろう。お前は秀人のために何をしたんだよ…… あいつを苦しめただけじゃないか!」


「そんなことは……」


「そんな女に絶対に邪魔はさせない。もうあの2人には関わるな! もし今度何かあったら俺は絶対に許さない!」


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