eqisode5 捜索
窓から朝日が入ってくる中、一人と一匹が起きていた。一匹の方は無論タツゴン、一人の方は起きているのはリクではなく、ヤグカの方だった。ヤグカは彼が寝ているの気づいた最初の方は大目に見ていたが中々起きないことににイライラし始めた。ついに彼女は行動に出た。
「起きなさい!」
彼女は声を荒げながら言い、それを十回ほど繰り返した。しかしながら彼女の声は彼に届くことはなかった。
--あれ?さっきからうるさいなぁ〜でもまだ寝てても大丈夫だろう。
彼はそう考えていた。
--「起きなさい!」って言っているのにまだ起きない!
彼女のイライラがリクを起こすための次の段階へ移行した。ヤグカはリクに被さっているシーツを思いっ切り引っ張った。
ウッ…という声こそ出したがまだちゃんと起き切っていない。彼女は最終手段を使うことにした。
「タツゴン、リクに頭突きをして彼を起こしなさい!」
「分かった!」
陽気な言い方で返答し、彼は空中で一回転した後、リクの頭に勢いよくぶつけた。
イタタ…という声と共にやっと彼は目を覚ました。
「痛いよ!もっとマシな起こし方はないのかよ。」
彼の疑問に対し彼女は
「最初は優しくしてたんだけどなぁ〜中々起きないからつい強めにしちゃったわ。リク、朝よ起きなさい。」
と切り返す。
「自分がいた方と異世界との時差に苦しんでるんだよ。キツすぎるってぇ〜」
「あらこういうことわざ知らない、"早起きは三グランの徳"ってね。早起きすると良いことあるっていうじゃない〜」
--あれ?それをいうなら"早起きは三文の徳"じゃないか?でも通貨も違うしこっちの方ではこれで通るのだろう。
「男だろ、男なら文句を言うな。」
タツゴンが割って入ってきた。
「分かった分かった、起きるからそれで文句ないだろ。」
「起こすのにドンだけ時間が掛かったと思ってんのよ〜大体起こすのに半ダンくらい掛かってるのよ。あ〜ダンっていうのは日が昇っている時間帯を六つに分けた単位のことよ。」
--彼女の発言から日が昇っている時間帯を十二時間と仮定すると要するに一時間も俺の為に無駄にしていたことになる。
「ゴメン、わざわざ俺を起こすために時間を使ってくれて…」
「分かれば良いのよ、今は何時かしら?」
彼女は雑嚢の中から素焼き製の道具を取り出した。真ん中に取っ手が付いており、下の方は真横から見ると美しい曲線に見えるような土台であった。彼は一瞬何に使うのか分からなかったが、その疑問は刹那の間に消し飛んだ。
彼女は窓から入ってくる朝日にその道具を置いた。
--多分、日時計みたいなものだろう。影の部分で時間を見ているんだ。
「マズイわ、半ダンどころか四分の三ダンも掛かっているわ。急いで食事をして判子を探さないと…」
「食事!?探すことが最優先じゃないの?」
「こういう格言知らない?"戦が出来るなら腹は減ってない"ってね」
--"腹が減っては戦は出来ぬ"の対偶みたいなやつか〜でも確かにおばあちゃんもこんなこと言ってたっけ、「人生に大事なことは三つ!食べること、体を動かすこと、寝ること」って。
「じゃあ食べに行くかぁ〜」
「そうね、市場に行きましょう。」
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二人と一匹は市場に行った。あらゆる所から声が聞こえ、大分活気に溢れているようである。屋台では、色とりどりの野菜や花、赤身の多い塊肉が売られていた。
「ねぇ、リクどこで食べる?」
ヤグカがいきなり聞いてきた。
「俺、この街の情報何も知らないんだぜ。答えるにしても勘で選ぶことしか出来ないな。」
「まぁ、いいわ。私が決めることにするわ。」
そう言った次の瞬間、
彼女の視線はハルジオン色の天幕を張った屋台に向いてしまっていた。
「リク、ここにしない?ここ良さそうよ!」
今まで冷静な大人びた少女から活発な年相応の少女に変貌した。
--ヤグカって常に落ち着いている感じだったけど、やっぱりそういう辺りは年頃の少女なんだなぁ〜
彼はそう感じた。
気づいた頃には、彼女は勝手に買ってきていた。
食べ終わるや否や、ヤグカは口を開いた。
「判子探しのことだけど、実際ある少女が奪っていったのよね。こんな高価な服着てるし、目を付けられて摺られても仕方ないわ。つまり、取り返すためには最初にあの子を捕まえる必要があるのよ。」
多分こんなやつよ、と言いながら西部劇で見そうなお尋ね者の手配書を見せた。残念なことに文字の意味は分からなかった。読み書きを一から覚えなければならないのかと心の中で溜息を吐いた。しかし内容を理解することは十分可能だった。
その手配書には茶髪の髪の少女が描かれていた。
--この顔どっかで見たことあるような…
その疑問は一瞬で解消された。あの時の娘か!
「それで何て書いてあるの?」
「えっと、通りすがりの女盗賊パリスを捕まえたら100ゴルドあげます。オルスト警察本部よりって。」
「100ゴルドって安すぎないか?」
「ゴルドっていうの金貨の単位よ。一般庶民は銀貨止まりなの。銀貨はズィル、銅貨はクファーっていうから覚えた方がいいわ。本題に戻りましょ。」
「でもどうやって捜すんだ?」
「そう来ると思ったわ。少なくとも彼女の服装からすると一般市民でも貴族でもなさそうだから、貧民街にいると考えるべきね。」
そう言いながら彼女は雑嚢の中から地図を取り出す。
「リク、あなたはここの担当ね。」
彼女は俺の担当する区域を人差し指で丸を描いて囲んだ。どうやら地図で見る限り北の方である。
「タツゴンはここ、そして私はここ。」
同様に丸を描いた。
「俺の担当区域、少なくない?」
--どう見ても、二人の丸の面積は俺のより多かった。
「リク、あなたが真面目で熱心な働き者っていうのは分かるけど、王都来たばっかりで何も知らないでしょ、だからあえて小さめにしたのよ。」
そう言いながら彼女は王都の地図を手渡した。
「私たちは何度も来てるから分かるけど、リクは初めてだから貸すわ。ちゃんと返してね。」
俺は彼女の思いやりにただ
「ありがとう」
と言うことしかできなかった。
「昼頃になったらこの噴水の広場に集合しましょ。」
「分かった!」
二人と一匹は三つの方向に分かれて捜索を開始した。
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リクはヤグカに頼まれた場所に着いた。正直言ってしまえば今までいたところより遥かにみすぼらしかった。
彼はしばらく下に向きながら歩いていた。
「よーし、頑張るぞ!」
彼は独り言を呟いた。成果が出るか分からない頼み事に関して自信がなかったからである。
呟いたその時だった。
「何を頑張るんですかな。」
彼が上に向くと、藍色の髪で太陽をイメージして描いたようなエムブレムを銀の糸で刺繍しておりその周りを唐紅色に染めた服を着ており、リクより身長の高い男が目の前に立っていた。髪は闇を染めたかのような群青色、顔は逞しくいかにも武人っぽかった。
彼は口を開き、こう言った。
「逮捕します。来なさい。ダース教について尋問する!」と。
その言葉を聞いた時、彼は一瞬耳を疑った。当然のことながら身に覚えがなかったからである。心当たりがせいぜいチンピラ三人衆を殴った程度であるが正当防衛に近いものであるのですぐ冤罪として釈放される。しかし、ダース教とやらには聞き覚えはない。
「ダース教について何も知らないんだ。早く解放してく…ヴェッ」
最後に言い終わる前に謎の男に殴られてしまった。
「この辺りでは見ない服装が証拠だ、これ以上殴られたくなかったなら素直に連行されるんだな。後ろを見て見ろ。お前は既に包囲されている。」
--この警察は服装で怪しい人物か判断するのか!まぁ、確かにこんな服装してる奴俺以外しかいないわけだが…
そして彼が後ろを振り返ると、ちゃんと警棒っぽい兵が四、五人程囲んでいた。一見服装からして警察と思えないが、中に防具を着込んでる可能性は十分ある。
--そしてお前、それ悪者が言う台詞だろ!俺にはそう聞こえたぞ!
と言いたかったが面倒なことになるので言わなかった。
「分かった、協力する。」
「分かれば良いのです。来なさい。」
--そしてコイツ上から目線だ。マジ腹立つー
これも当然ながら言わなかったが、協力しなかったらどうなっていたのか…考えたくもなかった。彼は警察と思われし人物の拠点に連行されることになったのだった。