episode1 召喚
ーーガチで大変なことになった。
1文無しで途方に暮れながら、彼はこの町中をぶらぶらとうろついていた。
1文無しというのは厳密には違う。財布は、彼のバッグの中に入っているし、彼の財布の中身は小銭がやや多く、紙幣は少ない点を除けば彼が今使える全財産である。
学校から1番近いコンビニによって週刊誌と十分な晩飯を買える懐具合であった。が、1文無しと表現することしか出来ない。
なぜなら、
「どういう訳か日本円が使えないんだよなぁ……」
手に握りしめいている守礼門--日本国内ではほとんど流通してない2000円札を見て、リクは長い溜息をこぼした。
大して特徴のない少年である。短い黒髪に、平均身長より少し高い身長、体格は青のブレザーの制服に隠れててよく分からないが部活で鍛えてることもあって筋肉質である。
キラキラした感じの瞳をしているが、予想外の出来事により、キラキラしていない。
彼が住んでいた町だったら、一瞬で見失いそうな普通の容姿であるがこの町の住民は、珍しいものを見るような目でこちらを眺めていた。
考えれば当たり前の話ではあるが、彼を見るものは一人として、"黒髪"の者も"ブレザーの制服姿"の者もいない。
よく見るとこの町の住民は、
髪の色が、赤だったり、青だったり色々であった。彼が見るに髪を染めている訳ではなく、地毛のようである。
また帰ってるときは夕方なのに、昼に反転している。
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佐久間凛空という人生を語るには彼が生きてきた17年間分の時間を要するが、なるべく簡略化して説明すると、「比較的模範的で成績優秀な高校生」ということになる。補足しておくと、彼は天賦の才を与えられた訳ではなく、何処にでもいるただの凡才の人間なので、持っていない物は努力して手に入れたということである。無論彼は知っていた、どんなに努力しても手に入らなかったものもあるということを…
話を戻すが、彼は彼に起こった異変からある1つのことを推測した。
--まさか、俺異世界に来てしまったのか?
よく考えると、日本円の1つの2000円札が使えなかったり、髪の色が彼が知っている色と違っていた。
彼が今いる場所が異世界だと気付いた瞬間から抜け出すことを考えたが、考えるだけ無駄だった。
そこで彼は今持っているものを確認した。スマホ(充電が50%しかないし、絶対圏外だから情報を集めることは出来ない),空の弁当箱(昼休みの時間に食べてしまった),古典、数学、化学、歴史などの教科書(当分役に立たない),竹刀(正当防衛のときに使えそう)、電車の定期券(使えない)、体操服(授業の時間帯雨が降っていたので着てない)である。
確認し終えた後、この世界の情報を集めることにした。
見た感じだと、馬がいるし、石畳が舗装されていた。クリーム色の壁にオレンジ色の屋根の家が見えるし、石造りの教会が堂々とそびえていた。よく見ると立派な城も見える。目に見える情報から推測すると、どうやら俺はヨーロッパ風の規模の大きい都市に召喚されたらしい。
次に彼は、この異世界の住民とコンタクトを取ることにした、テキトーな市場で果物を売っている店で話をした。結果は大成功だった。日本語が通じた、さらに詳しく話を聞くとこの周辺国の公用語らしい。また召喚された場所は王都らしい。これでコミュニケーションに問題ないことが分かった。もっと質問すると
「いまこの国の西暦は何年だ?」という質問の答えは
「リモンド歴八一〇年九月十四日でっせ、伝承によれば例のあの怪物がそろそろ復活しそうな年だか、悪しき怪物を打ち倒しこのオルスト国を建国した英雄、サーアー・コミトの魂が見守ってくれることでしょう。それより、何か買いますか?新鮮なリンゴがありまっせ〜」それに対するリクの返答は、
「まだこの国のお金と両替できてないので、また今度。」と言い立ち去った。
彼は色々な情報が手に入った。何れ何処かでお金が出来たら、買いに行くとしよう…
しかし、二千二十四年九月十四日ではなくリモンド歴八一〇年九月十四日だとは…色々と興味深いなぁ
リクはこれからこの世界でどうやって生きていこうから考えていたときだった、「キャー!」という女性の悲鳴が路地裏から聞こえた。彼は路地裏に入っていった。