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竜系人型  作者: 根尾栗鼠
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第8話 旅立ち

 「……居合千瞬」




 刹那、強風がフロウを通り抜ける。



 いつの間にかフロウの背後数メートル先にシグロが刀に軽く右手を添え直立している。



「……はっ! 何だ? ただのコケ脅しか」

「……動かないほうが良いよ」

「何を言って……っ!」




 フロウが振り向いた瞬間、周囲に鎌鼬が起きたかの様に何かが身体を斬り刻む。




「がっはぁ……! な、何が……!?」

「……まぁ、見ての通りだよ」




 居合千瞬。刀剣スキル"居合"系の絶技ぜつぎで、余りに疾い斬撃のせいか対象者に遅れて斬撃が襲いかかるように見えるが、実際には交錯した時既に千度斬られている。




「……っつぅ! ……身体が追いつかなくて斬った僕の手もズタズタになるんだけどね」




 以前にも説明した通りだが、スキルは鍛錬を重ね発現するものである。シグロの場合はかなり特殊な例で、受け継がれたスキルを継承しているため齢5歳の子供でも絶技の使用が可能なのだ。



 だがそもそも鍛錬を重ね、その頂に登り詰めたからこそ発現した絶技である。発動が可能なだけで身体に副作用が出るのは至極当然の結果であった。



 刀剣や槍棍スキルといった武具スキルには幾らかの段階があり、下から順に初華しょか昇精しょうじょう武極ぶきょく、絶技となっている。因みにフロウの使っていた覇撃・烈は刀剣スキル"剛剣ごうけん"系の昇精である。



 魔法に関しては想像力に重きを置かれているので、魔法を発動する時ある程度想像しやすいように呪文も統一されているが、かなり鍛錬された実力者であれば自身特有の呪文で魔法を使うようになる。



 人の一生涯で1つのスキルを武極まで磨けば天才と言われているこの世界で、5歳の子供が絶技を扱っている今の異様な状況にも関わらずフロウは笑みを溢す。



「……はっ。やっぱ子供だな。俺が諜報暗殺部隊だって知ってんだろ? ならしっかり殺しとかねぇと……なぁっ!」

「……見え見えだから。雷鳥・飛燕」




 フロウが情報を祖国に届けようと鳥型の魔法具で伝書を飛ばすが、直ぐ様シグロの雷魔法で撃墜される。




「なっ! ……上級より上……特級魔法じゃねぇか……」

「……僕のこと子供がどうとか言ってたけど、殺さないとは言ってないからね?」

「はっ! 覚悟の上でこんな事やってんだよ。今更脅しにもならねぇな」




 事実、シグロに全く躊躇いはなかった。フロウが何か手を打ってくるのを見越して様子見していたのである。



 もしかしたら周辺に仲間の隊員がいるかもしれない、救援に来るかもしれない。刀を握る力も殆ど残っていない状況でそれは避けたかった。

 伝書を破壊するときも、フロウが放った伝書だからこそ油断なく強力な魔法で破壊した。お陰で魔力切れ寸前である。

 万が一伝書が他国に渡ってしまった場合、自分の実力を調べられた状況で争う、非常に不利な戦いになってしまうのだから。




「伝書を壊し……たところで……狙われる立……場には変わらねえ……よ。なんなら……軍が動く……かもな」 




 大量な出血でフロウの意識も朧になってきている。シグロがとどめを刺さずとも既に事切れる寸前だが、ボロボロになりながら話を続ける。




「軍が動けば……普通に……生活し……てりゃ、……すぐ見つかる……。禄に……寝れ……もしなく……なるぞ」

「……返り討ちにするよ。全て」

「……は。……だか……ら……ガキ……だってんだ」




 何が言いたいのかいまいち要領を得ないフロウ。血も流しているので話すのも精一杯なのだろう。



「……冒険……者の……登録……したんだろう?」

「……それがどうした」

「……まだ……カオメレンから……出て……いないだろうから……国内で……登録名……イジっとけ」

「……?」

「……それだけ……で……随分……探しにくく……なる。……お前は孤児……だからな……」

「……なんで?」




 フロウは自分を殺すために近付いてきた、人間の暗殺部隊長だ。なのに今になって自分を助けようとしているフロウに、疑問と同時にちょっとした嬉しい感情が表れる。



 シグロが初めて心を開いたのはフロウだった。ジョーに拾われてから、食事をし眠り食事をし……その繰り返しだった。そんな時、剣術でもやるかと気さくに声を掛けてくれたのがフロウだったのだ。

 何度も何度も打ちのめされ、しかしその間は何も考えずにいられた。シグロにとっては何よりも優先される時間だった。今となってはもう叶わないが……。




「……礼は言わないよ」

「……は。……せめてもの……罪……ほろ……ぼし……だ」



 大量の血溜まりの中で息絶えたフロウ。シグロは最後までこの男が味方か敵か判断できないでいた。幼心には衝撃の強すぎた激動の一週間だったーーー





 カオメレンより海を超えた遥か東の島国サイゾウ。サイゾウの主要なメンバーがある会議室に揃う。



「緊急事態であったため皆に集まってもらった。結論だけ言うが、部隊長フロウが殺られた」

「……なっ!? 今なんと!?」

「あの"三羽烏"の一人、剛剣のフロウが……」

「す、直ぐに他の部隊を向かわせねば!!」

「静かにっ!!」



 議長のような立場の男が場を整える。騒いでいた者達は議長へと視線を向け、次の言葉を待つ。




「フロウを殺ったのは竜の末裔だ」

「「「なっ……!!」」」




 一同絶句する。それもそうかもしれない。一度は人間の国を一瞬で滅ぼしたのだ。その竜の末裔が国の主力の内の一人を倒したというのだ。

 この国は既に竜の牙に喰われようとしているのかもしれない。会議室には重苦しい空気が流れ、今後の方針について静かに進められた。






「もう行くんかシグロ?」

「爺、気持ち悪いから寂しそうな声出すなよ」




 瞳に涙を溜めてシグロを見つめるジョー。子の巣立ちを思う親の気持ちなのだろう、何だかんだと言いながらいつも気に掛けてきたのだから寂しくもなる。



 あれから数日経ち、シグロはギルドで名前をガルダに変えて旅を始める事にした。幸い竜系の恩恵か、鱗が露見しない限りほぼ人間に見える容姿をしているので旅をするにも困らなそうだった。

 服装も上下濃紺の服で揃え、靴は茶色のブーツ風。腰に刀を差して整えている。自身は汚くても問題ないようだが、旅先の街街のことを考えたジョーが用意したのだ。




「たまには顔を出すんじゃぞ」

「分ぁかったって。じゃあそろそろ行くな」

「気を付けてのぅ」




 とうとう涙の流れたジョーを尻目にカオメレンを旅立つシグロ。これからシグロは色々な人と出会うだろうが、それはシグロにとって幸か不幸かそれはまた別の話。

死にかけで話し過ぎのフロウは大目に見てやってください

これで一度終わります。拙い分かりにくい文章で申し訳ありません。ありがとうございました。

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