第7話 下剋上
「いや〜、まさかあれを躱されるとはなぁ。只の爺じゃないとは思ってたがなかなかどうしてやるじゃないか」
「手加減しておいて何を言うとる。こっちは気配を躱すので精一杯じゃったわ」
「まぁあんまり早く死なれてもね。楽しみが減るだけだ」
「……戦闘狂め」
壊れた壁の前に居たのは、なんとフロウだった。ジョーはシグロと竜系の話をしている時点で警戒をしていたが、まさかフロウが現れるとは夢にも思っていなかった。
あれだけシグロに目を掛けていたフロウである。シグロ本人は勿論、ジョーも未だに信じられずにいた。しかし、先のフロウの言葉から1つの推測が出来た。
「フロウ。お前もしやシグロを育てておったな?」
「お?流石にバレたかっ。竜の系譜である事は最近知ったんだけどな。まぁどっちに転んでも面白いと思ってたら最高の当たりだったな!」
「狂っておる……なぁっ!」
「……っ!」
未だ余裕を見せるフロウに会話を投げ、油断を誘うジョー。そんなに多くのスキルを持っているわけではないジョーだが、蜘蛛系特有の毒を手元に仕込んでいた。相手が感情を出した瞬間を狙い撃ちにしたはずだったがーーー
「まぁそう慌てんなよ。血管切れるぞ?年なんだから」
「お前に心配されるほど衰えとりゃせんわ!」
首を狙ったジョーの一撃を軽々避け、後ろに回り込み頭を抑えるフロウ。振り向きざまフロウの足を狙った一撃も軽くいなされる。
「はぁはぁっ」
「ほぉら言わんこっちゃない。もう現役じゃねえんだから無理すんなよ爺……いゃ、狂薬者ジョー」
以前、ジョーがシグロに軍役を勧めたのを覚えているだろうか。ジョーにはコネがあったのだ。
現役を退いた後、極秘裏に国から貧民街を任されたジョー。カオメレンとしても竜の子は取りこぼす訳にはいかず、貧民街の情報も見逃さないよう考えた国の勅使であった。
「そんな事まで知っておるとは、国も中々一枚岩とはいかんようじゃのぅ」
「所詮下等な亜人の集まりだろ。纏まろうっつうのが都合良すぎんだよ」
「しかしこれは最重要事項になるのぅ」
「生かしておくと思うか?」
「爺っ!!」
一瞬でジョーとの距離を詰めるフロウ。その拳がジョーの顔面に直撃する瞬間、ジョーとフロウの間に1つの影が乱入する。
「よく反応したなシグロ」
「フロウさん、何でこんな事するんだよ?」
「あ?見て分かんねぇか?口封じだろ」
「違う!何で僕等に殺気を向けるんだって聞いてるんだ!」
「シグロ、フロウは人間の諜報暗殺部隊の者のようじゃよ」
「……諜報暗殺部隊?」
過去の歴史のことから竜の系譜を恐れた人間が、各国の情報を支配するために設けた軍隊。それが諜報暗殺部隊だった。
フロウはその部隊長であり、各国を飛び回る放浪者の振りをして情報を集めていた。そんな中、竜の系譜の疑いがシグロにかかり、フロウは定期的に姿を見せるようになった。その後、シグロを鍛錬していったのは既に前述されている通りである。
「そ、んな……」
「まぁそういうことだからよ。お前にも死んでもらわないとな、シグロ」
「……じゃあ、あの女の子も全部フロウが?」
「……っ! お?意外とスイッチ入ったら非情になれるタイプか?」
「答えろよ!!」
死という単語を聞いた刹那、漂う雰囲気が変貌するシグロ。その鋭い殺気を肌で感じたフロウは喜び、口をにやけさせる。
そんな態度が気に喰わないと怒りを露わにするシグロ。叫ぶと同時に周辺の廃屋の窓が粉砕する。
「あぁ。全部俺がやったんだ。これで満足か?」
「……じゃあ死ね」
「……っ!」
答えを聞いたシグロはその場から消える。いや、消えたように見えたがフロウはその動きを追いかけていた。
「遅いよ」
「くっそがぁ!」
フロウを置き去りにするシグロ。竜系である彼の爪がフロウの身体を少しずつ削ってゆく。あまりのスピードに苛立ち、その状況に耐えかねたフロウは腰に吊り下げた刀に手をかける。
「やっと抜いたね」
「てめぇシグロ。ナメてんじゃねぇぞ! わざと刀抜かせやがったな!」
「全力を捻じ伏せないと償いにならないでしょ?」
「ぬかせっ!」
刀を持ってからのフロウの動きは、先程までとは打って変わって洗練されていた。刀の動きと身体の動きに一切のブレがなく、誰が言うまでもなく一流のそれであった。
シグロはフロウの攻めに対し、刀を避けることで精一杯のように見えた。紙一重のところで鋒を躱し攻められ続けている。
「どうしたぁ? まるで攻めてこねぇなぁ? まぁ真剣で殺り合うのは初めてだからなぁ。ビビってもしょうがねぇよ」
そう。シグロはフロウと真剣で交わるのは初めてだった。いくら竜の鱗に守られているとは言え、その刀で斬りつけられれば致命傷は必至だった。
横薙を躱したシグロにフロウが振り被り、一際大きな構えを取る。
「覇斬・烈!」
既の所でフロウの必殺を躱したシグロ。距離を置き相手を見据える。殺すべく相手を。
「……すごい威力だね。」
「得物もねぇくせに余裕ぶってんじゃねぇよ、次は当てるぜ?」
「シグロっ!」
「っ!?」
宙を舞う一本の鉄塊ーーー否、刀がシグロの手元に吸い寄せられるように舞い降りる。
「これは……?」
「名匠の打った業物じゃ! 昔、軍部から拝借したんじゃよ!」
徐ろに抜刀すると、真っ黒な刀身にも関わらずその場の何よりも輝きを見せる不思議な雰囲気を醸し出している。
ジョー曰く、刀の名は"闇獄器・継"。その昔、名のある刀匠が死ぬ間際に打った対となる刀の内の一本。柄、鍔、刀身、鞘……その全てから鬼気迫るオーラを感じる。にも関わらず、シグロの手に吸い付くようなどこが懐かしい感覚があった。
「闇獄器……すごい。」
「得物が来て浮かれてるとこ悪いが、使う前にトドメだ。覇撃・烈は俺以外に打てるやつはほとんどいねぇからな」
「……能書きは良いからかかってきなよ」
「クソガキがっ! 覇撃が刀の一本でどうにかなると思ってんのか! 死なせてその刀だけ貰ってやるよっ! 覇撃・烈!」
激昂するフロウ。覇撃の構えを取ったのを見た瞬間、自分の刀に右手を、鞘には左手を添えて前傾の姿勢をとるシグロ。
「……居合千瞬」
やっとちゃんとした戦闘に入りましたが
描写が非常に難しいです
頑張ります。