第4話 傷
視点戻ります。
グダグダですみません。
翌日、毎朝の鍛錬を行うシグロ。
シグロの日課は日の昇る頃から始まる。井戸で顔を洗い、コップ一杯の水を飲む。それから森を抜けた所にある山の中腹まで走って行き、折り返し帰ってくる。街に帰ったら家の前で重めに作った木の棒で素振りをする……勿論フロウに教わった片刃用の型である。
フロウからは同じような形の剣ーーー刀というらしいが、を用意してくれる約束になっている。
朝の鍛錬が終わり次第、ジョーに挨拶に行き、ギルドの依頼をこなしていく。そこで日銭を稼ぎ生活しているのだが、シグロは実力も認められてきている為、日銭というよりは十分な収入を得ていると言った方が良いだろう。
ギルドで受けられる依頼にはランクがあり、F,E,D,C,B,A,Sの順に危険度が高く高報酬な依頼を受けられる。因みにフロウはS、シグロはD、シグロと同年代の子供らは普通はFの位置にいる。
シグロは1年ほど前からフロウに技術や狩りを教わっていた為、既にランクがC手前程までに上がっているが、未だ5歳である。同年代の子供らはやっと種族が判明し、これから技術を学ぼうという所謂スタートラインである。富裕層や名家の出であればその限りではないが。
朝の日課を終えたシグロは、ジョーへの挨拶を適当に済ませギルドへ向かう。その途中、
「シグロ君っ!こっちへ来ては駄目だ!」
シグロの存在に気付いた男が凄く険しく、にも関わらず憔悴しきった顔でこちらに近づく。どこかで見た顔だと思ったシグロだがすぐに思い出した。いつぞやの鑑定人である。確か名前は
「……シンさん?どうしたんでーーー」
鑑定人シンの脇から、瞬間視界に入った光景にシグロは絶句する。胴と頭が切り離され、顔が潰された人間が貧民街の壁に凭れるようにして息絶えている。その身体は小さく、まだ幼いようだった。髪や服は血の色に染まっており誰かは判別がつかないが、シグロはすぐに勘付く。
昨夜、この御礼は必ずと必死に伝えてきた綺麗な金髪の少女その人である。
「シグロ君、ちょっとこっちへ……シグロ君?」
助けたはずの少女が見るも無惨な姿で亡くなっている。シグロは中途半端に助けた自分を責めていた。殺しておけば良かった、殺すべきだった、殺されて当然の奴らだった、何であの子が死んであいつらが死んでないんだ。殺さなかった奴が悪い。ーーー自分だ。
「あああああああああああっ!」
「シグロ君っ!?大丈夫!落ち着くんだ!」
膝から崩れ落ちるシグロ。赤子の頃から爺に拾われ育てられ、親の愛情もあまり知らずに育ってきた。人との関わりも極端に避け、なるべく一人で過ごすように生活していた。
そんなシグロが面倒に思いつつも人を助けた。そんなちょっとした繋がりさえもこんな形で潰れてしまった。犯人を憎み、殺すと誓い、復讐心に染まるよりも先に自分を責めてしまった。自分が関わったからあの子は死んだ。そう思い込んでしまうほどにシグロはまだ幼かった、幼すぎたのだ。
シグロにその後の記憶はなかった。気付けば知らない部屋の知らない布団ーーー布団で寝た記憶など殆ど無いが、で横になっている。しかし、すぐさまあの光景を思い出し吐き気を催す。
「シグロ!目が醒めたか?まだ無理をするな」
心の休まる声、唯一心を開いているフロウの声だ。
「……フロウさん……グスッ……うわあああああっ!」
シグロはこの時やっと涙を流した。思い切り泣ける場所がシグロにはなかったのだ。シグロの心はもう壊れる寸前だった。フロウの存在がシグロに人の心を思い出させる。
「シグロ、大丈夫だ俺がいる。大丈夫だ。」
「……グスッうぁ……グスッ」
「落ち着いて聞けよ、犯人に心当たりとかあるか?」
「……昨日の晩にあの子を連れ去ろうとした大人の男が三人いたんだ……グスッ。」
瞬間、シグロの心に醜いものが蘇る。
「アイツら……!殺しとけばよかった!僕が殺しとけばあの子はあんな事にはならなかったんだ!アイツらのせいであの子は!アイツらが死ねばいいんだ!」
「落ち着けシグロ!気持ちは分かるが落ち着くんだ。後は俺が何とかしよう」
「フロウさん、……ごめん……グスッ……お願い……!」
「……あぁ、任せろ」
直ぐ様部屋を後にするフロウ。情緒不安定だったシグロだが泣き疲れたのかまた眠りにつく。目が醒めた頃には外は既に真っ暗になっていた。
「シグロ君、入るよ?」
「……シンさん?どうぞ」
二度のノックの後、鑑定人シンの声が響く。
「どうだい?少しは落ち着いたかな?」
「……うん」
「良いかい?今回のことは忘れたほうが良い。それが君の為だ」
「……?シンさん?どういう事ですか?」
「君に説明しても難しいだろう。大人の事情が絡んでるんだ」
言葉を濁すシン。子供のシグロには到底納得のいく説明ではなかった。
「忘れることなんて出来ないよ。あの子は助かるはずだったんだ。あんな事になるバズなかったんだ。僕だって悪いんだからーーー」
「国が動いてるかもしれないんだ。これ以上は話せない。君にも危険が迫るかもしれないから」
「……え?」
「とにかくこの事はもう考えないようにしなさい」
「……で、でももうフロウさんが」
「何だと!?」
直後、シンの形相が変わり、シグロの両肩を強く掴む。
「彼に何か話したのかい!?」
「……え?昨日あの子が男の人達に襲われてたって……」
「それだけかい!?君の種族の事は話したりしてないだろうね!?」
「……それは誰にも。……あ、そういえば翼で飛ぶところをあの子に見られてた……ごめんなさい」
「……っ!?やはりか……」
「……やっぱりって、シンさんどういう事ですか?」
シンの顔からは険しさが消え、焦りと怯えの表情がみえる。
「君に種族を隠すよう助言したのは、君の身を案じての事だ。君の種族はこの国では危険すぎる」
「……え?どういう事ですか?」
情報が多すぎて、頭の整理が追い付かなくなり混乱するシグロ。
「それと、フロウさん……と言ったかな?」
「……フロウさんが何か?」
「……彼も危険かもしれない……」
難しい。