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竜系人型  作者: 根尾栗鼠
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第12話 猿系霊型

「あれが霊型なんだ……?」


「……いゃ、ここまでは想像していなかった」




 村長の情報から河を渡り森に入ってすぐ、シグロ達は標的を見つけていた。しかし、その大きさは規格外のものだった。

 霊型とは、一般的に生物が死んだ後その生物が現世に大きな悔いを残している場合、極稀に不死化し周辺を徘徊、見境なく他の生物を襲う者のことを言う。その死霊系が獣型だった場合、食料や獲物を乱獲し貪る事で肥大化していくのだが、大きくても精々そのへんに生えている樹木程で、今目の前にいる者は腕がその樹木程あるのだ。

 顔自体は然程大きくはないが、腕、胸、腰、脚と全てが大きく発達しており、一見顔が三つ並んでいるかの様に錯覚するほど肩から腕にかけて発達している。

 よくよく見てみると、所々腐乱しており肉が爛れ、骨が見えている箇所もある。霊型ならではの土壌汚染なども着々と進行しているようだった。




「……あれは早めにケリをつけないと不味いな」


「だね。ただ、どうも僕はあまりお役に立てそうにないね。申し訳ないけど」


「……足止めだけしてくれるか? 一撃に集中する」


「あんまり自信ないけど……頑張るよ」


「……謙遜するな。氷の上級使えるんだろ?」


「バレてたんだ……。でもなんで?」


「……グリズ家については色々と調べていたからな。まさか御長男が旅に付いてくるとは想定外だったが」




 ハイロは知らない事だが、ジョーの助言からカオメレンの名家に関しては色々と調べていた。竜の末裔と隠しきれてない現状、人間だけが敵という状況ではなくなったのだ。カオメレンにとっては竜の末裔という"武力"はどうしても手中に収めておきたいのだ。その武力が人間に渡らないとも限らないのだから、どのような手を使ってもシグロを懐柔しようと躍起になるはずだった。




「他にも色々とバレてそうだね。どうりであまり慣れてこないと思ったよ」


「……あの"間"も状況も悪すぎるだろ。下手くそ」


「思ったより慎重派かと思ったら、初めから警戒されてたとはね。こう見えて万年に一人の逸材なんて言われてるんだけど」


「……万年の末裔だからな。濃さが違う。濃さが」


「はっはっは。そんな事言うんだね! 勘違いしてたよ、君のこと。やっぱり仲良くなれそうだね」


「……まぁ、そんな事はどうでも良い。やれるんだな?」


「足止めくらいなら任しといてよ。やっぱりアレの相手するのは難しいけどね」




 今までのハイロの態度からシグロがあの大勢の賊に囲まれた時、助太刀しないのは明らかにおかしかった。今が"真実"のハイロであれば、あの場面で必ず助けに入るはずだった。にも関わらず、遠く傍観を決め込み様子を探っていたという事は、シグロを監視していたに他ならない。シグロが初めからもう一人の存在、ハイロに気付いていたからこそ言える事ではあるが。




「……隙を見て突っ込む」


「りょーかい。その後はよろしく〜」


「……キャラ」


「もう演技する必要ないしね〜。そもそもあんまり頑張るのとか好きじゃないからさ」


「……まぁいい。仕事はしてくれよ?」


「任せて〜〜よっ!」




 大きく踏み込むと同時に飛び上がったハイロは、一瞬にして向こう岸へと渡る。その姿にいち早く気付いた猿系霊型、通称"デッドコング"。その巨躯からキングデッドコングと言ったところ。

 大きな咆哮を放ちハイロを威嚇するが、さすが灰熊系だけありその程度ではビクともしない。すぐに足止めの準備に入ろうとするが、キングデッドコングも簡単にはやらせてくれない。土地を破壊するかのように、ハイロのいる場所目掛けて何度も極太の巨腕を振るう。



「ちぃっ! 埒が明かないなぁ。ちょっと黙ってろ……よっ!」



 振り下ろされる巨腕を飛び避け顔前へと飛び上がり、その勢いのままキングデッドコングの鼻っ面を蹴り上げる。さすがに効いたのか、仰け反るキングデッドコング。



「よし。少し手古摺ったかな〜、怒ってないといいけど?"フリージングフロア"」



 ハイロが呪文を唱えると、瞬く間に周辺が凍りついていく。『フリージングフロア』は氷上級魔法の一つで、周囲を拘束することに良く用いられる魔法である。

 足元から膝上まで凍り付いたキングデッドコングは、上半身の勢いを使い凍りを砕こうとしている。



「うわぁ〜。規格外だな。普通なら胸元位までは軽く凍るってのに。ヒビまで入ってきてんじゃん。シグロさーん?」



「……良くやった。と言いたいが遅すぎるな」



「それは手厳しいな。それなら、後頼むよ〜?」



「……任された。フゥッ!」



 ハイロのすぐ後方から、一足飛びにキングデッドコングの上空に移動するシグロ。上空で黒い靄に腕を突っ込み自身の4倍程はある巨大な鉄剣を取り出した。



「空間の特級かな〜あれ? 何してんのか分かんないね」




 空間特級魔法『ディメンジョンエリア』。別次元の空間を用いて道具の管理を一纏めにしてしまう驚きの便利魔法で、大きさ、形、質、どのような物でも自在に出し入れ出来る優れ魔法である。



「……覇撃・ち」



 覇撃・圧し断ち。剛剣系スキルの絶技でフロウの得意としたスキルの上位技である。圧倒的な剣の物量と、剛腕から繰り出される圧し断ちは斬ると言うよりは圧し潰している。

 霊型は皆、身体の一部を切られたところで平然としている。なので頭を潰し、身体を不能にする必要がある。極稀に頭が無くなろうが関係なく活動している個体もあるらしいがーーーキングデッドコング程の巨体であれば、尚更頭から潰しにかからなくては手が付けられなくなる可能性があったのだ。




「……ふぅ。剛剣系はまだ身体への負荷が強いな」


「お見事。さすがに末裔だけあるね〜。しかしこれは……なんとも見るに耐えない光景だなぁ」


「……霊型だ。これはしょうがない。それと、最後の仕上げをしないとな」


「仕上げ?」


「……汚染が残っているだろ。このままでは依頼達成とは言わない」




 大本であるキングデッドコングは倒したものの、汚染がまだ残っている。あの村からすれば魔物の驚異もそうだが、何より食料難が首を絞めていた。汚染を何とかしなければ、村救われたことにはならない。シグロが何とかすると言った手前、依頼未達成なのだ。



「でも、どうやって?」


「……ふぅーっ。……クリアエリア」



 大きく息を吐きだした後、浄化特級魔法『クリアエリア』を発動した。

 浄化魔法とは回復魔法と違い、一般的には対象の状態を元に戻すものである。上級までの浄化魔法は個体を対象とし、その種類や範囲により初級、中級と等級が上がっていく。

 比べて『クリアエリア』はその範囲を土地まるごとと大きく拡げる。その分大きく魔力を消費することになるが、それは特級を用いた場合この魔法の限りではない。




「もう何をされても驚かないよ、僕は……。それにその粉々になってる金属はさっきのアレかい?」



 ハイロは頬をぴくぴく痙攣させ引き攣った笑顔を見せる。その視線はシグロの足元へと引き寄せられる。

 拳台の金属がシグロの足元にゴロゴロ転がっていた。シグロの手にはこれまた金属のひん曲がった太い棒が一本。恐らくキングデッドコングを倒した際に用いた武器だろうとハイロは推測するが。




「……あぁ。急拵えでさっき錬成した鉄の塊だ。剣とは言えないな」


「錬金魔法まで……今までの末裔は本当に戦っていたのかな……」



「……分からないが、まぁ便利な能力を手に入れたな位にしか思っていない」



「羨ましい性格してるね〜。僕なら重みで倒れちゃいそうだよ」



「……平気で嘘を吐くなよ。早く帰るぞ」



「はいは〜い」

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