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竜系人型  作者: 根尾栗鼠
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第1話 蜥蜴系人型

 暗い……否、漆黒の闇の中でただただ呼吸を繰り返しているだけの少年。深い深い意識の奥で独り蹲る―――。




 都市国家『カオメレン』。様々な亜人が集まり築いた国。周囲の国からは『亜人国家』とも言われるが、呼称ではなく蔑称である。特に原種族げんしゅぞくの国からは忌み嫌われており、交易を行う国も少ない。




 そんな亜人の国で今、鑑定の儀が執り行われている。カオメレンでは5歳になると『種族鑑定』をすることが義務付けられている。この国では○系○型という分類をされており、その者の能力を細部まで把握する為に分類が必要とされている。

 そこにいる一人の男を見てみよう。彼は牛系人型に分類される。一般的に背は高く膂力があり角もある強面のお兄さんだが、闘争本能は薄く平和主義である。牛系の者は大多数が農家であり、のんびりとしている。極稀に、分類上戦う事を嫌う種族であっても、狩りや戦を好む者がいる。その辺りはまだ研究段階であり、調べを続けているところだ。




 この鑑定は自身の種族がどの種族との混血なのかを確かめる為にも行われる。

 例えば父が牛系人型、母も牛系人型の子供がいたとする。その子供は必ずしも牛系であるとは言えない。見た目にも現れてくるので鑑定の前にある程度の種族は分かるのだが、その子供が鰐系であったりもする。先代からの遺伝、所謂隔世遺伝である。




「次の方どーぞーっ!」



 内政部門の鑑定室付近。黒いジャケットの中には透き通るような白い肌が見え、背は高く艶のある茶髪が首元でカールしており、膝上までのスカートから毛の柔らかそうな尾が膝裏まで垂れ、ピンと立つ耳がピクピクと周囲を気にしている犬系人型の女性、シープの声が館内に響く。



 毎年この時期になるとギルド本部は忙しくなる。他の国家とは違い、カオメレンではハンター、商業、軍部、内政が同じ建物に纏っており『総合ギルド』と呼ばれている。元々が都市だったものが集まって出来た国である為、ギルドそのものも集合し国の中枢として機能している。



「シープ、交代よ」



 朝から途切れることの無い親子の列を、休むこと無く捌き続けていたシープは、時間を確認する暇もなかった。子供の混じる列と大人だけの列を案内するのとでは、その疲労度は随分と違ってくる。時間は既に昼をまわっていた。



「ありがとう。後一人案内してからにするわ」

「そう言えば聞いた?今日ついに熊系名家グリズ家の長男、ハイロ様が鑑定されるんですって」



 グリズ家。熊系亜人の中でも屈強な人材を豊富に排出する名家。過去の戦争や闘技大会に於ても、必ずグリズ家の者が名を上げている。そんな剛腕で有名な熊系の中でも稀有な体格を持つ者がいる。髪は銀髪で靭やかな手足を持ち、一見熊系の剛腕さは見られないがその見た目からは想像もつかない膂力の持ち主。遠い昔に『灰熊系』と呼ばれる種族があったのだ。



「ふぅん。そうなの」

「シープ……アンタほんとこういう話興味ないわよね……」

「名家の御長男様とかあんまりねぇ」

「あ!噂をすれば何とやらね!あそこ見て!」




 シープ自身、犬系人型であるせいか幼少期から大型の亜人種にからかわれた過去が多かった。それはシープに限らず、生態系で弱いとされる種族の亜人が虐げられることはここカオメレンでは日常化してしまっている。

 同僚の嬉しそうな黄色い声に呆れながらももう1つの窓口をそっと一瞥する



「ハイロ様。どうぞお入りください」

「ありがとうございます。失礼します」



 グリズ家長男ハイロは銀髪で身体も筋肉質な方ではない。灰熊系の可能性を秘めていた。ハイロが産まれた時のグリズ家の喜びようといったら、1つの事件と言っていいほどであった。



「どうぞお掛けください」



 鑑定役の犬系人型の男が畳1畳ほどの鳩尾の高さの机を挟んで声をかける。ハイロが座ったことを確認した男は鑑定を始めた。




「っ!?……まさか本当に灰熊が出るとは」

「それじゃあ……っ!」



 目を見開き、互いの視線を交わす両者。



「灰熊系人型ですね。ハイロ様、おめでとうございます」

「ありがとうございます!直ぐに父に報告をっ!」

「はい。これで終わりになりますので。あっ!スキルの確認は忘れずにっ!」

「分かってます!」




 種族鑑定の鑑定役は、鑑定スキルを持つ者を内政ギルド員で探し、スカウトして内政ギルドで働いてもらっている者たちである。鑑定スキルを持つ者は非常に稀で、発現しにくいスキルの1つである。

 常日頃から他者を気にし、物を観察し行動や原理を考察しているような者にしか鑑定スキルは発現しない。どんなスキルも簡単に発現するものではなく、日頃の努力やルーティンから発現するものがほとんどである。




「父さんっ!」


 鑑定室を出ると、燕尾服を着た茶髪で短髪の大きな男が腕を組み我が子をじっと待っている。父親をすぐに見つけたハイロは手を振り駆け寄る。


「ハイロっ。どうだったんだ?」

「灰熊系だったよ!スゴイよね!?」

「本当か!それなら今夜は祝賀会だなっ!」



 親子で満面の笑みを浮かべ、手を繋ぎながら外へ向かう。その横を静かに通り過ぎ、鑑定室へ案内される一人の少年。ハイロは、親の引率もなく暗い影を感じたその少年が気にはなったが、父親に手を引かれギルドの外へ出る。




「君、一人?」

「……(コクッ)」



 シープは一人で鑑定室前まで来た少年に尋ねた。が、少年は言葉を発さずに首を縦に振るだけで返事をする。

 少し火照ったような色の肌に長く伸びた黒い……漆黒の髪を無造作に垂らし、裾先がボロい緑の長袖長ズボンの上下に靴を履いていない足。見るからに貧民街の人間である。




「(首元に鱗……蜥蜴系かしら……?)君、名前は?」

「……シグロ……」




 少年が話せる事に驚きはしたが、控え目ながらも言葉を発した少年に好感を持てたシープはこの後のことを細かく説明する。



「じゃあ、中に入って」



 頷き中に入るシグロ。



「どうぞお掛けください」



 椅子に座り俯きながら待つシグロは、早く終わらないかと足をブラブラさせる。



「……これ、は……?」

「?」



 何かしでかしてしまったのかと内心焦るシグロ。鑑定人の男の顔色を覗うと、男はみるみる青褪めていく。



「君、生まれは?」

「……知らない……」

「ご両親は?」

「……いない……」

「……孤児か。では、貧民街の?」

「……じじいが行ってこいって……」




 心底来たくなかったという表情を全面に出しながら話すシグロ。貧民街のドンたる爺に無理矢理行かされたのだろうと推測する鑑定人。



 種族鑑定には一定数の貧民街出身者が訪れる。種族鑑定は無料で受けられるので、仕事を手に入れる為にも受ける子供が多い。鑑定した後、同種族の仕事に参加させて貰える事もあるのだ。同種族だからこそ、その境遇を憂い、仲間意識で仕事を斡旋してくれる。カオメレンではそこまでの流れが出来上がっていた。ある例外を覗いては――。




「君の種族は―――」

「えっ……」



 先程の少年が気になり、休憩中にも関わらず鑑定部屋の外で待つシープ。そこへ少年が戻ってくる。



「シグロッ。どうだったの?」

「……知らない人には教えるなって爺が」



 すごく真っ当なことを言われ少し怯むが諦めないシープ。



「え、いゃ私一応ギルドの一員なんだけど……ダメ?」

「……蜥蜴系……」



 渋々といった様子で教えるシグロ。



「なんだ、やっぱり蜥蜴系だったのね。隠すことないじゃない、どこにでもいるわよっ」

「……やっぱ教えなきゃよかった……」



 勝手に期待され、勝手に落胆された態度を見て教えたことを後悔するシグロ。シープを見て本当に大人なのか疑問を覚える。




「仕事したかったらギルドに来なさい。お姉さんが教えてあげるから」

「……ありがと、おばさん」

「おばっ……!?まだ、18なんだから!怒るわよ!?」

「……もう怒ってんじゃん」



 シープの喚く声を聞き流しつつギルドを出るシグロ。人目につかない路地に入った後、背中に翼を現し目立たぬよう空高く飛び上がり貧民街へ帰る。

皆さん始めまして。根尾栗鼠ネオリスと申します。よろしくお願いします。

全てが初めてなので、右も左も分かりません。連載予定ですが、連載できたら良いなぁという曖昧な心持ちなので期待せずに読み流していただきたいです。

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