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自動車教習所での初めての恋

作者: 高卒君

人間はなぜ、恋をするのだろう。心の寄りどころを求めるためか。はたまた人間の性的欲求を満たすためか。

この現代社会において、仕事を好きでやっている人はほぼゼロに等しい。生活するため、なにより世間体のために職に就き仕事をする。そんな生活に嫌気を差し、癒しを求めてキャバクラに行き、風俗に通い息抜きをする。こうやって日本の経済は回っている。僕は、ゾッとする。

人間の3大欲求の1つである性欲というものはモンスターだ。男は豪邸に住みたい、高級車を乗り回したい、とにかくお金持ちになりたいという思いを一度はしたことがあるだろう。裏返すと、豪邸に住み高級車に乗り、大量のお金を手にすれば上質な女を抱ける。つまり、上質な女を抱きまくりたいという思惑になる。なぜなら、女は不細工だろうが太っていて頭がはげ散らかしていようがお金さえあればそれでいいのだ。

男は、上質な女を抱きたい一心で努力し成功を掴みとる。そして、夜な夜な質の良い女を抱きまくる。こうやって日本の経済は回っている。僕はやっぱり、ゾッとする。



2年前の3月。僕は初めて恋というものをした。と言っても会ったことは一度しかない。車の教習所で一緒に乗った女の子だ。髪の毛は肩の少し下くらいまでの長さで黒髪。前髪は左分けで左眉毛を覆っている。女の子の目は綺麗な二重瞼で、よく晴れた日の沖縄の海が霞んでしまうくらいに透き通った瞳をしていて、暗闇の中で光り輝く眩しさで直視できないほどにキラキラ輝いていた。そして、僕が今まで出会ったことがないような純粋で清らかな雰囲気をしていた。

その女の子とは、お互いの運転を見合いどこが良かったか悪かったかを教え合うという教習だ。

「ジャンケンで勝ったほうが先にしましょう」

僕は初めて恋に落ちた。初めての一目惚れだ。


僕が先に運転をした。後部座席に乗っている女の子をチラッと見た。気分が高揚する。これはデートだ。助手席におじさんが乗っているのを気にさえしなければ。僕はいつもよりアクセルを強めに押す。アクセルを踏むとどんどんスピードが上がる。このまま二人きりで誰も知らないような世界に行きたい。そして誰も見たことがないような景色を見て一緒に笑い合いたい。その前にまずは海を見に行こう。このまま江の島に行こう。これはデートなのだから。

僕の運転が終わり、次は女の子の番だ。ミラー越しに見るとても透き通ったキラキラした瞳。僕は釘づけ。彼女の運転よりその瞳ばかり見てしまう。僕には一生懸命運転してる彼女の姿しか頭に焼き付かなかった。



「15分も喋ることなんてないですよね?」

僕は驚いた。彼女が話しかけてきたのだ。

「そんなに何喋ればいいんですかね、早く帰りたいですよ。」

嘘をついた。本当は一生帰りたくない。

「おいくつなんですか?」

彼女からの質問だ。

「22です。大学4年です。おいくつですか?」

得意のオウム返しだ。

「18です。」

「じゃあ高3ですか?」

「そうです。卒業したばかりです。4月から旅行系の専門学校に行くんですよ。英語勉強します。」

僕も英語勉強したい。

お互いの運転を見合った後、ディスカッションする教室がまだ片付けられていないため廊下で待たされていた。家は近いのか、どこの高校に通っていたのか、話した。この時間が一生続いてほしい。教室なんて片付けなくていい。

「私の友達にもその高校行っている人いますよ、なんか怖いイメージ。」

「全然怖くないよ。俺の1つ上の代が、」

「準備が出来ました、お入りください。」

幸せな時間というものには必ず終わりが来る。

とても気さくで話しやすい。僕の好きなタイプ、純粋そうで明るい子。ドンピシャだ。こんなにドストライクな子出会ったことがない。

「私と違って急ブレーキとかなく、とても安全で乗りやすかったと思います。」

そんな瞳で見つめないでくれ。

「右左折もスムーズで良かったと思います。」

次は君とドライブに行こう。江の島に行って美味しいしらす丼食べて海を見よう。君は何をしたら喜んでくれるのだろうか。君の喜ぶ顔が見られるならなんだってする。

僕の妄想がどんどん膨らむ。これが、恋か。



22歳。高卒、フリーター。大学3年生10月に学費が払えなくなり大学中退。人生どん底真っ只中。レベルの高い大学ではないけれど名の通った大学に通っていた。普通に就職して普通な家庭を築き普通に人生をやり通す。僕が小学生の時に憧れていた未来だ。僕は何1つ普通に出来ていない。家は母子家庭の貧乏。そんなの小さい頃からわかっていた。小さい頃から普通が出来ていなかったのだ。だから普通というものに憧れていたのかもしれない。

僕はぐれなかった。不良というものになるのが怖かった。不良という言葉が怖かったのだ。

だが、容姿的によく悪そうだと言われる。目つきも悪くどっしりとした雰囲気もあり、服装もジャージが多い。だからよく頭の悪そうなやつらは

「悪いことしてきただろ、俺も昔は悪かったからな。」

そう言ってくる。悪いことをなぜ自慢に語れるのだろう。悪いことは悪いことで決してかっこよくない。そういうやつらと一緒にされたくない。僕は生きるためにこうなったのだ。この弱肉強食の世界で、小さい頃から立場が弱く強いものに食われないように自分を強く見せているのだ。僕は不良ではないのだ。

そういった虚勢ばかりの日々を送っていたある日、女が寄ってきた。それも欲にまみれていそうな下品な女だ。女は僕を強いオスだと勘違いしたのだろう、女性フェロモンムンムンで僕に近づいてきた。僕は抱いた。人間の3大欲求である性欲が抑えきれないからだ。次第にその下品な女は僕のもとを去っていった。金がないからだ。家は貧乏。その女に金を使える余裕はない。また少ししたら下品な女が近づいてきた。またか。僕には上質な女は来ないのか。また、抱く。性欲が抑えきれないからだ。そして、少し経ったら去っていく。僕にはわからない、恋というものが。女を好きになれない。女と一緒にいると女の醜いところしか見えない。性欲を満たすためにセックスはするが女自体を愛せない。恋というものはなんなのだろう。愛というものはどういうものだろう。お金がなくても愛する人と一緒に暮らせれば何もいらない、意味が分からない。お金さえあれば幸せになれる。お金さえあればもっといい女が寄ってきてお前なんて捨てられる。女なんてみんなが羨むような家に住み高級車に乗りブランド物のバックや洋服を買い、みんなが羨ましがる生活をして私は特別なのだとみんなに見せびらかしたいだけなのだ。愛する人なんて出来なくてもいい。上質な女を抱ければそれでいい。女なんて愛する価値もない。僕は今までそう思って生きてきた。



「じゃあお疲れです。」

僕は先に教室を出た。初めての感情で胸がドキドキしていた。本当は一緒に教室を出たかったが、どうすれば良いのかわからなかった。

「お疲れ様です。」

不思議と好きになった人には性の対象に見れない。抱きたいと思わない。ただ一緒にいたい。もっと彼女のことを知りたい。ずっと横にいて欲しい。

僕は原付で来ているため教習所を出て右側にある駐輪場に向かう。彼女は自転車だと言っていた。もしかしたら彼女も駐輪場に来るかもしれない。僕はゆっくりと歩いた。

僕はゆっくりと原付のヘルメットを被ると5メートル先くらいから彼女がやってきた。僕はなぜか笑顔になっていた。彼女も笑顔だ。

「次の教習はいつですか?」

風が強く吹き彼女の前髪が上にあがる

「え?」

とても綺麗だ。なんでそんなに綺麗な瞳で僕を見つめるのだろう。どうしたらこんなに清らかで可愛い女の子と付き合えるのだろう。

「次いつ来ます?」

「ちょっと待ってね。」

メモ帳をチェックしている。その姿も愛おしい。

「明後日ですね。」

僕は明々後日だ。人数制限ありの予約だから変更できないだろう。

「明後日か、俺明々後日だわ。」

この子ともっと一緒にいたい。連絡先交換するか、今だと自然に聞けるぞ。いや、でもまだ早すぎるか。初対面だし。

「じゃあ、また会ったらよろしくね。」

原付にエンジンをかけ通り過ぎる。ハンドルが重い。何か後ろに引っ張られている。

その帰り道、僕の胸の中に何かポッカリと穴が開いた感覚が沸いてきた



そして彼女とは2度と会わないまま卒業となった。まさかこんなところで初恋をするとは思わなかった。

僕は今でも後悔している。あの時連絡先を交換していれば良かった。恋愛に早いも遅いもないのだ。たとえ、上手くいかなかったとしても人を好きになるということの楽しさや苦しみをもっと味わいたかった。僕はまだ彼女のことを忘れられないでいる。強く風が吹き前髪が上へあがったあの時の瞳や表情を。あの純粋そうで清らかな雰囲気の中から見つめる眩しすぎる瞳をいつでも想っている。

今ならわかる。たとえお金がなくても愛する人と一緒に暮らせれば何もいらないということを。




この小説をみて頂いた方で少しでも心当たりがある方、ぜひご連絡ください。僕は今でもあなたを待っています。




















僕は今でもあの女の子を忘れないでいる。小説の最後にメッセージを書いたのは本当に連絡してもらいたいからであるが、おそらく読まないであろう。他の人からはたった一回会っただけとか、単純に可愛い子から話しかけてもらったから好きになってるんだろと思われても仕方がないことだが、僕にとってはとても大切な経験である。

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