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♯139 気に入らないっ!



 光の女神はオルオレーナさんを使ってラダレストから悪魔の心臓を盗み出させ、カグツチを復活させようとしている。


 古き神々の遺産。『カグツチ』


 それが何のかは知らないし、何の目的でそんな事をさせようとしているのかも分からない。


 でも、それが良い結果になるとは到底思えない。


 だからこそっ、心底気に入らないっ!


「オルオレーナさんっ、事情は何となく分かりましたっ!」


 未だに恐怖で手足はすくむけど、それ以上の憤りをもって震えを押さえつける。

 相手が誰であろうと、人の弱味につけこんで勝手気ままにに振る舞う様には我慢がならない。


 それが、皆が心から信頼しているだろう相手であれば尚更だ。


「詳しく話してくれてありがとうございます。おかげで、誰が一番悪いのか、ようやく分かった気がします」


 光の女神が一番悪い。間違いない。

 女神のクセに何やってんだ一体。


「カグツチの復活に協力は出来ませんし、しません。けど、戻る道も無い以上はこのまま一緒に最深部を目指しましょう」


 勢いに飲まれ、私からの提案にキョトンとするオルオレーナさん。

 そもそもそのつもりだと思ったけど、違うんだろうか。……違わないよね?


「……けど、最深部に行くとカグツチがあるんだよ? どの道そのつもりではいたけど、レフィアさんは本当にそれでいいのかい?」


 いや、念を押す相手が違うがな。

 私人質。オルオレーナさんは脅した方。


「そういう所で気を使ってしまう、中途半端で徹し切れないオルオレーナさんは嫌いじゃありません。そういう所は大好きです。でも、そこを気にしていては駄目です」


「……大好きって。怒られてるんだか褒められてるんだか」


「褒めてません。……けど、最深部に行けば確かにカグツチの封印があるかもしれませんが、何か他に、手段を見つけられるかもしれません」


 はっきりきっぱり言い切ってみる。

 オルオレーナさんも剣聖さんも、納得の行かない様子で小首を傾げているけど、そりゃそうだ。

 だってまだ、その事については話してないもの。


 この様子だと、オルオレーナさんも女神からその事については聞いてないように思う。

 一体何を聞いて何を聞いて無いんだろうか。


 ……まず間違いなく、私に本当の福音があるって事は聞いてるんだとは思うけど。


 思えば出会った時から、私がアリステア育ちだって事で話をしていた事にも気づく。

 どこから来たとも言ってないのに。


 その時にまず不審に思うべきだった。

 何故? ……と。


 最深部にはカグツチの封印がある。

 それは多分、その通りなのだと思う。

 だって、女神の指示で動いてるオルオレーナさんがそう言うのだから、まず間違いない。


 けど最深部にはもう一人。

 わざわざ私をそこに呼びつけたヤツもいる。

 来いと言っておいていないハズも無い。

 

「最深部には、最奥の賢者イワナガ『さま』がいます。きっといるハズです。いなきゃトイレの紙に似顔絵描いてやる。賢者なんて呼ばれてる人が封印の近くにいるんです、封印と無関係な訳もありません」


「……最奥の賢者、イワナガ?」


 案の定小首を傾げるオルオレーナさん。

 やっぱり知らなかったっぽい。


「最深部まで行って賢者に会って、何か良い手段が無いか考えて貰いましょう。賢者なんですから多分頭も良いでしょうし、何か奇跡的な案があるかもしれません。無けりゃ出るまで捻り上げるだけです」


 言われた通りに最深部に行く気なんて更々なかったけど、事ここに至っては事情も変わる。


 鬼が出るか蛇が出るか。

 どの道後戻りはもう出来ないんだから、出たとこ勝負でふんぬっと貫いてやる。


「レフィアさんがそれで納得してくれるなら、特に言う事も無いんだけど……、意外な反応に少しびっくりしてるかな」


「事情を話したのは最深部までどうにかして連れて行く為ですよね? 同情か共感を狙ってかは知りませんが、それで思惑通じゃないですか」


 どうせ行くなら前向きに行きましょう。


「敵わないな……。確かにその通りなんだけどね。そうあっけらかんと思惑の内を指摘されてしまうと、どういう反応をしていいやら戸惑ってしまうかな。……はは」


 引き気味の麗人はさて置き、剣聖さんに向き直る。


 剣聖さんの強さはとても魅力的ではあるけど、最深部を目指すと決めた以上、いつまでも好意に甘えてる訳にも行かない。


 これは私とオルオレーナさんの問題であって、剣聖さんには最深部にまでいく必要も理由も無いのだから。


「剣聖さん、ここまでありがとうございました。ここからは私とオルオレーナさんだけで最深部を目指します。……戻る道は閉ざされてしまいましたが、最深部で賢者に会ったらどうにか剣聖さんだけでも戻れるよう交渉……」


「拙者も、同行を望むのでござる」


 ここで剣聖さんには待っていて貰い、どうにかして賢者に戻る道を作って貰う……と、最後まで言い切らない内に、剣聖さんがはっきりと同行を申し出た。


「でも、……多分この先に行っても、あまり良い事は無いと思うんです。そんな事に剣聖さんを巻き込む訳にもいきません」


「危険があるのであれば尚の事でござる。さりとてこの剣聖、もしお二方の足手まといと言うであれば致し方も無いでござるが、そうで無いのなら。是非とも同行を望むのでござるよ」


 剣聖さんの強さは本物だ。

 いてくれたら心強い反面、何のメリットも無い事に巻き込んでしまう事に躊躇いもする。けれど剣聖さんはそんな遠慮を吹き飛ばすかのように、ずずいと押して来る。


「足手まといなんてとんでも無いです。むしろ剣聖さんがいてくれて、どれだけ助かってる事か……」


「ならば問題無いでござるな、このまま同行するでござるよ」


 人の良さそうな笑顔をニカッと浮かべ、満足そうにする剣聖さん。

 確かに、それならそれでとても心強くもあるんだけど……。


「レフィア殿への償いは元より、これは魔王殿とセルアザム殿への恩返しも兼ねてるのでござる。……どうか、拙者に、レフィア殿を守る義を果たさせて欲しいのでござるよ」


 ()()はもうチャラにしたって言ってるのに。

 変な所で頑固な人だよね。


 ……それはさて置くとしても。


「魔王様とセルアザムさんへの恩返し……。そう言えば、さっきもそんな事を言ってましたけど、剣聖さんが二人と面識がある事に驚いています」


 剣聖ゼンと言えば、勇者と並ぶ人族の英雄みたいなもの。それが魔王様はともかく、セルアザムさんと縁がある事にはやっぱり驚きを隠せない。


「直接言葉を交わしたのはセルアザム殿のみでござるが、お二方に恩があるのは間違いござらん。お二方には拙者から頼み込んで、アドルファス殿とリーンシェイド殿を保護してもらった恩があるのでござる」


「……剣聖さんから、頼んで?」


 ……あれ?


 リーンシェイド達と魔王様の出会いは本人からそれとなく、いっちゃん最初の初対面の時に聞いた記憶がある。

 確か魔王様に啖呵を切ったすぐ後で、リーンシェイドに怒られながら聞かされたと思うんだけど。


 ……。


 ……剣聖さんの名前なんて、出てきたっけ?


 記憶を辿って疑問に首を捻ると、それを受けたかのように剣聖さんも一つ、深く頷きを返す。


「……うむ。リンフィレット殿が息を引き取った後、行方知れずとなった二人を探して、長い年月をかけて方々を訪ね歩きようやく見つけたのは良いのでござるが、その時すでに、二人は人族に対する憎悪で凝り固まってしまっていたのでござる。なので拙者からセルアザム殿に頭を下げ、二人を魔の国へ連れて行って貰えるようにと……」


「……って、ちょっと待って待って、待って!」


 ……は? 何それ。


 行方不明? 訪ね歩いた?

 何か、知ってる話とだいぶ違うんだけど。


 剣聖さん、リーンシェイドの目の前でお母さんを殺して、小太刀を授けて見逃したんじゃ……。


 いや、あれはあくまで作り話か。

 だいたいあの話の中にはあに様がいないし。


「……これも、きっとそうしろと言うリンフィレット殿の祖霊の示しなのかもしれぬのでござる。拙者の懺悔を一つ、聞いてはいただけぬであろうか」


「剣聖さんの……、懺悔。ですか?」


「かような所でリーンシェイド殿の友人であられるレフィア殿と場を共にするも他生の縁。むしろ、そんなレフィア殿だからこそ聞いて欲しいのでござる。どうかこの通り、お頼み申す」


 不意にが剣聖さんががばっと頭を下げ、地面に額をこすりつけた。


「ちょっ、ちょっと待って下さいっ! 聞きますっ! 聞きますからっ!」


 慌てて側より身体を抱き起こす。

 急に何て事をするんだ、この人は。


「かたじけないでござる……」


 抱き起こされた剣聖さんはゆっくりと話しはじめた。


 私達がよく知るお伽噺、鈴森御前の、その本当の話を……。






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