第1章 第67話 序章 愛を語るに至るまで5.5
──神はお告げを下さった。
『神の使いが死を授けるだろう』
おお、神よ! 我等、黒魔道教団は貴方を崇めよう。お告げのもとで全ての者に死を! 神の名のもとに救いを! 死こそが救済だ。
「てめぇらは間違ってんだよ、死なんざ救いじゃねーし、そんなものに簡単に頼っているから駄目なんだよ」
死の間際、そう言った彼女を思い出した。異教徒が、神を侮辱するなど死では償われない罪を犯した。
だから彼女は四肢を潰され、 磔にされて死霊達に食べられて死んでいった。
耐え難い苦痛の最中、彼女は笑いなが叫んだ。
「てめぇら! 強く生きろ! 負けんじゃねーぞこんな奴らに!」
その瞬間喉を食いちぎられた。言葉はもう発せない、それでも私達に彼女は嘲い、絶命していった。
死ぬ間際に彼女は口を動かし何かを伝えた。──こいつらはいつかお前たちの喉を掻っ切りに来るぜ。私にはそう言った様に見えた────。
絶望とはこのことを言うのか、志龍はそう感じた。
先程の小物達とは一線を画す獰猛さ、破壊力、再生能力、数が減ったとは言えども個々の能力は桁違い──特にあの青年はやばい。
「さて、どうしたものか」
一呼吸を置き、右手を突き出す。
「久々にこの技を使うんだ、少しは面食らってくれよ?」
空中に無数の蛍の光のような輝きを模した音の玉が出現する。
「さあ、名も無き音の精霊達よ、我が思いに答え敵を穿て『音霊』」
無数の輝きが、敵に当たり爆発する。
数千万にも及ぶ音の爆弾が肉を裂き、焼き、骨を抉り粉々に砕く。
──だが、敵は死霊、この程度では死なない。だが、細切れになった今、あの技が使える。
「本番はここからだ、細胞が復活出来ないように凍らせる! 凍りつくせ! 『絶対零度の領域』」
肉片は復活を待たずして氷の柱となった。
「さあ、後はお前だけだぜ司教さんよ」
司教は首を捻り指を指す。
「? はて、おかしな事を言いますねまだそこに一人居るではないですか」
氷の隣に一切ダメージを覆っていない青年がそこに立っていた。
そして氷の柱を触ると、音を立てて瞬時に壊れ去った。
──なんだこれは?! 志龍は見た事がなかった、こんな加護、こんな魔法、こんな魔術! まさか、これがあいつの言ってた──
「スキル 『破壊と乖離の手』触れた物は全て破壊され、魔力と自身を乖離させられる」
「ま、魔力と自身を乖離させられるたど?!」
魔力は直接肉体と直結しており、まさに血液みたいなものだ、それを引き離すと肉体のバランスは失われ体は生命維持活動を出来なくなる。
そんなことされてはたまったもんじゃない。
然し、直接攻撃は出来ない。どうしようもないだろこんなの!
と、言ってる傍から他の三体も復活してしまった。
これをどうしろと、頭を抱えたくなる。
──かといって逃げるか? ハルは万全の状態じゃない、美穂は別の敵と戦ってる、プレアは無理だとして、シフォンも別だ。
状況は以前変わりなくして絶望、幾ら志龍が強いといえども限界がある。
今にも逃げ出したいさそりゃ、だが、今逃げ出したらあいつに笑われちまう。それに逃げてらんねえだろ。あいつと約束しちまったんだ。
猫耳の少女を思い出す。彼は昨晩約束したのだ、ヘーパイストス一派を元に戻すと。なんとしてもやり遂げる、志龍はそう決めていた。それは推しが為とかでは無い、彼女の顔はまだ曇っている、それにまだ見ていない、本気で彼女が感情を剥き出しにしているのを。
一人じゃない、それを教えてあげたい、その為なら俺は一か八かの大博打成功させてやるよ。
少年は絶望に抗う。それは運命なのか、彼が生きる意味なのか、誰も知りえない、然しその事実はここにある。
立ち上がる、そして立ち向かう、その姿は英雄か、はたまた愚か者か、神のみぞ知るその未来はどちらに微笑むのか。幕が開ける。最後のレクイエムが奏でられる。




