第1章 第52話 序章 絶対防御『闘剣VS晴人』
当日の朝、俺は目覚める。
朝日が眩しく照りつける、外は夏の暑さを物語るように陽炎と蝉の鳴く声がする。
今から戦いが始まるとは思えないそんなごく普通の朝がやって来ていた。
美穂を起こしてベットから出る。
「おはよう志龍」
眠そうな目を擦り欠伸をしていた。まだ眠気が取れていなさそうだ。
「おはよ」
持ち物で持ってきていたインスタントの粉末コーヒーとコップを2つ取り出す。
俺は氷と炎を上手く使って少し熱めのお湯を作りコップにインスタントのコーヒーと共に入れる。
美穂の分には少し砂糖を入れて渡す。
一口目をすする、芳醇な香りが口いっぱいに広がり苦味と仄かな甘みが絶妙なバランスを醸し出している。
「美味い」
そう俺が満足していると向こうから「アチッ」と言う声が聞こえた。
俺は氷を作ってあげて渡す。
受け取ると美穂は何も言わず、そして察しろと言わん場からの目線を送られたので俺は見なかったことにした。
「なんで夏に熱いコーヒーなのよ」
夏の朝に熱いコーヒーを飲むのがいいんでしょと冗談交じりに言う。
美穂はぷいっと首を振った。
「冗談じゃないわよ」
期待通りの回答に俺は満足する。
俺達4人は飯を食べてそして向かう準備をする。
俺は準備を終えまた1人でコーヒーをすする。
美穂はコーヒーにはうんざりと言って持ってきていたみかんジュースを飲んでいた。
ハルは日課のトレーニングと言って朝から1人で外で刀を振っている。
プレアはそれを見ている。
それぞれがそれぞれの準備を進める。
俺はこの作戦について考えていた、上手くいくだろう普通に考えたら、裏道を使って気づかれないように、最速で門の手前まで辿り着き、そして墓場に向かう。
一見、俺達なら出来る可能性の方が圧倒的に高いそんな作戦だが、何か引っかかることがある。
昨夜を思い出す⋯⋯⋯⋯。
(何かない────! まさか)
思考を巡らせる、まさかそうだというのなら奴は⋯⋯。
この仮説があっているとするのなら早急に伝えるべきなのか。
俺はそこにいた美穂を呼ぶ。
「何よ?」
「今から話すことは俺の一つの仮説だ、いいか──────かもしれない」
「⋯⋯なるほど、それなら伝えなくては!」
「待て、あくまでこれは仮説だ、立証はされていない、それに作戦自体にこれは大きく影響するものじゃない、なら成し遂げてから考えよう」
美穂もそれを聞いて分かったと頷いた。
そして彼女は椅子に座った。
「けどまさかそんな加護を持ち合わせているとはね」
「ああ、俺も驚いた、無敵の死霊相手にこれはとてつもない有効手だ」
それが彼女が奴らに狙われる理由でもある。
怠惰、奴の最大の武器である死霊を真っ向から倒すことが出来るのはあの二人の加護だけだろう。
俺がやったやつはあくまで動きを止めるだけ、完全な死を与えているわけではない。
「これが最大級のチャンスだろ、もし居なくても側近の四王を討伐することは出来る」
「でも若しかしたら四王も『それ』の可能性は」
「薄い、彼女は1度言っていたはずだ」
「⋯⋯なるほど、でも志龍1度対戦したって」
「意識の写し、奴はそれもできる」
「⋯⋯辻褄が合うわね」
「ああ、だからださあいくぞ!」
「ええ!」
赤と白を基調とした魔導服を着る。
美穂はもう外に出ているだろう、俺はシフォンに皆を食堂に集めるように言った。
食堂には全員がいた。
「集まってくれてありがとう、これから俺は1つ話をする」
ざわめく、何を言っているんだっていう顔をする奴もいれば、いきなり出てきて何を言い出すんだって言うやつもいた。
「俺はこれから怠惰と戦いに行く!」
大声をあげる。
その一言で皆が静まり返った。
「そしてそれにはシフォンも着いてくる」
一斉にシフォンに視線が動く。
「何言ってんだシフォン! 危ないぞ!」
「ふざけたことを言うな!」
等の怒号が飛ぶ。
シフォンもそれにはたじろおっている。
ふざけんなと幾度となく言われる。
それをあの幼馴染は止めようとするが無理だった。
「うるせーよ逃げ腰の弱虫共が」
低くどすの聞いた声で俺は地面を凍らせる。
それに驚いてこちらをもう一度見る、中には滑って転ぶ者もいた。
「まだ逃げているのか腰抜けが」
「なんだと! 腰抜けはないだろ」
「いいや腰抜けだね、弱虫で雑魚だ!」
「なんだとこら!」
1人が殴りかかってくる、俺はその手を掴む。
「ってぇ!」
「なんでそうやってあいつらに立ち向かわない」
「⋯⋯なんでって」
「逃げているだけだろ、自分達は弱いからって」
思いっきり殴る。
テーブルにぶつかってそのまま俺を見る。
「逃げていたって明日なんて来ない、抗って戦え、最前線じゃなくてもいい、ただ明日を望んで戦えよ!」
そう言うと1人男が俺に近づいてきた。
「なんだ弱虫代表、何しに来た」
彼はニヤッと笑った、俺も笑い返した。
彼は思いっきり拳を握る、そして俺を殴った。
壁に体をぶつけられる、口の中が切れた「ペッ」と血を吐き捨てる。
「これが俺の覚悟だいいな」
後ろを向いて演説をする。
「皆聞いてくれ! 俺はこれまで逃げてばっかりだった、ここにいる誰よりも弱虫だっただろ」
背中を見る、彼の背中は寛大だった、大きくて誰でも引っ張っていけそうな、そんな背中だった。
「けどな、こいつに出会った、思いっきり殴られた」
俺は少し苦笑いをする。
「目が覚めたよ、こんな所で何にもできずにいられるかってよ、あいつは1人この状況に抗っていたんだ、俺達はそれを目線から逸らしていた、でも! それじゃ駄目なんだ! 前線はあいつらに任せよう、でも出来る戦いを俺達でもやろう! それが明日に! 俺達の希望に繋がるのだから!」
歓声が響き渡る。
素質とか才能とかそんなのは関係ない、ただ1人の少年のその魂の演説に心が打たれたからだ。
こちらを向いて握手を求める。
「名乗ってなかったな、俺は『アレス』って言うんだ」
「いい名前じゃねーか、尚更逃げちゃならねーな」
バチン! と握手を交わし俺は前に出る。
「アレスに続け! さあ開戦だ!」
「うぉぉぉぉぉ!!!」
外に出る、3人は待ちくたびれていた。
「時間かけすぎだっつーの」
「遅いのですよー」
「志龍、団長としての自覚はあるの?」
でもその顔には怒りはなかった。
「わりーな少し覚悟を決めてきた」
3人は少し笑った。
「それじゃ行こうか」
笑顔はなくなりその顔には覚悟が見られた。
「俺は切る」
「私は焼く」
「罪を裁く」
「全てを取り戻す」
「なら俺は、全部倒す」
先頭に立ち俺は歩き出す。
「いくぞ!」
「「「「おう!!」」」」
怠惰との戦いが始まった。
予定通り俺達は壁穴の元に辿り着く。
「よし、俺から行く」
後ろを振り向くと4人は頷いた。
少し狭いがそれは仕方がなかった、俺は少し窮屈ながらも通る。
少し土を払う、だが目の前に誰かがいるのに気がついた。
筋肉質な三十代のおっさんだ。
するとその視界に剣が入り込んだ。
ゾッと殺気と寒気がした。
「穴から離れろ!!」
俺は撥を取り出し大振りで来るその剣戟を受けた。
その衝撃は凄まじく、両の手は痺れ壁は崩壊した。
「なんでここに居るんだ『闘剣』」
その問に返事をすることはなく次の攻撃に入る、避けようとしたがその剣は止められた。
「おっと戦う相手を間違えんじゃねーよ『闘剣カルミア』」
「ハル!」
「早く行け志龍、今にも弱体化は進んでる、さっさと行かねーとまずい事態になっちまう」
「分かった、任せたぞ」
「おーけー!」
2人は1度距離を取り合う。
「お初お目目にかかる『闘剣カルミア』名も無き剣士ではあるが手合わせというか斬り合いを求める」
刀に黒を纏わす。
「我が名は桐太刀 晴人、いざ尋常に参る!」
────闘剣カルミア対桐太刀晴人────
──単純だ。
右に袈裟斬り、防ぐと左に切り返す。
1度距離を取り喉に突きを、そして避ければ止まって袈裟斬り、これを繰り返している。
無駄が少なく素早い攻撃、何千、何万と繰り返し体に染み付いているいわば十八番の動きなのだろう。
だが単純だ、このパターンを繰り返しているだけ、これでは俺は倒せないし、攻めいることも簡単なのだろう。
しかし攻めいれない、何度か攻撃のタイミングにカウンターを仕掛けているが、避けられ、防がれと一向に攻撃が出来ない。
加えて向こうはずっと攻撃を仕掛けてきている、カウンターしか攻撃の手が今俺には無い。
これがカルミアか、本に書いてあった通りだ。
無造作の体力と難攻不落の絶対防御『カルミアの盾』
「ちっ!」
思わず舌打ちをしてしまった。
「ふざけるな! なんだその腐った魂は!」
別に俺自身あのスタイルは否定するどころか尊敬をする。
腹が立つのはその魂のありどころ。
死霊にそれを望むのは愚弄かもしれない、だが俺が戦いたかったのは闘剣とまで称されたカルミアだ。
こんな言っちゃ悪いがロボットと対戦するつもりは毛頭なかった。
「てめぇどこに魂を置いてきやがった」
動じず攻めてくる、俺は合わせてカウンターを仕掛ける、無駄なことではある当然のように防がれる。
だからこれは見せだ、思いっきり左足で蹴りをお見舞する。
体は吹き飛んで家を壊した。
そしてその体を起き上がれないように踏みつけ顔に刀を当てる。
「失せろ亡霊」
振りかぶってその頭を真っ二つにする。
「────」
後数ミリ、そんなところで動けなくなった。
何か呟いている。
「頑なに拒むは武の極地、剛や柔は否定され」
もう一度振りかぶって唐竹割りをするが剣で止められた。
「我が求めたのは守りの極地」
思わず笑ってしまった。
「初めましてだなMr.晴人」
「おはようカルミア」
そう俺は家族に言うように優しく言い右で思いっきり蹴った。
再び体は宙を舞い家を2つほど破壊した。
「やれやれ荒々しいな、モーニングはもっとエレガントではないと」
すかさず顔をめがけて突く、しかし完璧に受け流され顔を思いっきり殴られた。
「剣でやるのもありだが2発分残っていたのでね、先にそっちを済ませたよ」
家に当たる、鼻から鼻血が出ている。
「ふん!」
鼻血を全部出してまう。
そして目の前を見る、笑ってしまうほどに存在がでかい。
規格外の生物にあったかのような感覚が襲う。
「流石古代、近代共における防御の全てを礎てきた伝説の剣士、今の一撃、圧巻の一言しか出ねえ」
「恐れ入るよ」
「だが、それでも防御だ、防ぐだけ攻撃はカウンターしかできない」
カルミアは「ほう」と笑って話を聞いた。
「そして防御は一つだけ超えられない壁がある」
「なんだ?」
「速度だ」
体制を低くする、極限まで後ろ足である右足をリラックスさせながら力を溜める。
「人間の反射速度は0.1秒って言われてる、それを超えれば防御する好きも与えず攻撃ができる」
「⋯⋯」
「いくぜ」
彼はにこりと笑いながらこちらを見ている。
「──流派 一の突 『雫月』」
体は風を超えた、音が後からついてくる、志龍の音速を一瞬ではあるが超えることが出来た。
その刺突は心臓を貫く、突きの威力で彼の後ろの家が全て風穴を開けられたかのように抉られた。
だが驚くべきことが目の前では起こっていた。
「ふむ、残念だったなまだそれじゃ完成ではない」
目を見開いた、あの突きを止められた。
思考が停止した、向こうを見るとまだ少し笑みを浮かべていた。
「まさかまだ彼の流派が残っていたとはね、驚いたよ」
刀に力を込めて押すが全く歯が立たない、それどころか話を続ける。
「でもまだ完成していないな、さしずめ彼にもこう言われ続けたのだろ」
師の声がする。
「おめえじゃ半端までしか到達できねーよ」
血が沸騰する、突くのを止めて振りかぶって思いっきり頭から真っ二つにしようとする。
「おいおい、そんな素人みたいな振り方をするなよ剣が泣くぞ?」
「うらぁぁ!!」
「分からないか⋯⋯なら仕方無いな」
刀が弾かれる、そしてそのまま腹を剣が貫いた。
痛い、何が痛いって腹をぶち抜かれたのもそうだが自分を見失った、それが痛かった。
沸騰した血が体から抜けたのか自然と血は冷たくなっていき体から力が抜けた。
「感謝するぜ」
「どうかしたのか?」
横腹を切る、当然のように防ごうとするが彼は計算に入れていなかった、衝撃というものを。
「なに?!」
剣で攻撃すると言う意味が分かってきた。
斬らなくてもいい衝撃で内臓を破壊すれば相手は死ぬ。
貫かなくてもいい一点にその攻撃を集中させればそれで相手は不利になる。
俺はこの敵と遊んでいるわけじゃない、黒魔道教を倒すために戦っている。
「感謝するぜ、灰汁抜きができた」
俺は刀を持ち直し彼を見据える。
「さあここからが本番だ!」
何か見えてきた、完全防御の綻びが、隙が。
何十通りの剣技を高速で、それも最大限の力で繰り出す、そのショックに耐えきれず僅かながら空くポイントが出てくる、そこに切り込む。
それを繰り返す、流させないように、カウンターをされないように、何回も何回も、やがてそのダメージが蓄積されれば大きな隙を生むことになる。
ほら、胴ががら空きになった。
「ありがとよ、カルミア」
胴を真っ二つに斬る。
見事なまでに斬れ上半身と下半身は離れた、勝負ありだ。
「あんた、7番目に強かったよ」
俺はふと思った、あの師匠に今ならどれだけ通用するのか。
昔なら秒殺されて笑い飛ばされていたが、もし今あいつが生きていて俺と戦ったらどんな評価をしてくれるのか。
「今度墓参りでも行くか」
「いーや行けねえよ、ここで死ぬんだから」
後ろを振り向く、そこには斬ったはずのカルミアが無傷の状態でいた。
忘れていた、こいつは死霊だ。
「Mr.晴人、君に敬意を払おう、私を1度殺した、それだけで素晴らしいことだ」
先程までの笑みを浮かべていた顔ではない、完全に殺す気の顔だ。
「そして謝罪しよう、本気を出していなかったことを」
その言葉に俺は驚いた、まだこれ以上の技があるのか、ならそれを出す前に倒す。
「雫月」
さっきとは比べ物にならないくらいの完成度で繰り出した。
避ける素振りもない、これなら。
「防御を極めるってのは全ての攻撃を防ぐってことじゃ無い」
「攻撃を返すってことだ」
彼を突いたはず、なのになんで。
「『斬り返し』」
俺が突きをくらっているんだ。
肩にありえない衝撃が走り、絶対防御が俺を絶望へと誘う。




