第1章 第50話 序章 第一夜、正義の執行
彼女は秘策と言って地図を取り出す。
「この国は周りは城壁に囲まれていて、外から侵入できる道は、正門と裏門、この2つだけ」
「それなら正門から入って裏門まで行くっていうルートか?」
ハルがそう問うがシフォンは横に首を振って、
「正規のルートは駄目だ、顔はバレているから死霊達、そして奴らにもバレる、リスクが高すぎる」
「なら無理じゃねーか?」
苦い顔をしてシフォンは
「正直、死霊の数は分かりきっていない、数が分からない上にもしかしたらヤバい奴がいるかもしれない⋯⋯」
そんな状態で攻め入ったら恐らくチームワークは保てなくなる、そうとは言っても攻めなければこの状態が続く。
「攻略法なんてないのか⋯⋯」
「おーい、お話聞いてた? 秘策、まだ言ってないぞ」
と先程まであんなに死んだ顔をしていたのに別人化のように明るい表情になっている。
「まず第1に、これは死霊攻略に1番大切なことだ、奴らは日光に弱い、夜が濃くなればなるほど強くなる、逆を返せば昼になるにつれて弱くなっていく、それに日中は奴らはあまり外に出歩かない」
「奴らが殆ど居ない日中に侵入するってわけか」
「ビンゴ! そう、日中に攻め入り墓場に向かう、そしてそこで一網打尽って訳だ!」
「でも王国への侵入は⋯⋯」
「だーかーらここからが本番なんだって」
と門から左の森の1歩手前の所を指さす、
「ここに少し前、大人が1人やっと通れるような穴を作ってある、正門は使えない、まずここから王国内に侵入する」
「入るとそこは人通りの少ない裏道に入る、そこからずーっと城壁に沿って進む、こうすれば裏門の手前まで敵に会わずに行ける、どうだい凄いだろ!」
と無い胸を張っている、だが作戦自体は良い作戦式と言える、皆も「おおー」と言っているくらいだ。
だが少し引っかかることがある、
「森にいる敵にそれがバレたら攻めいられるんじゃねーのか?」
俺はそう問う、バレれば森から抜け出してそのまま俺達を倒すことだってあるいは森に連れ入れる事だって出来るはずだ。
「いーやその心配はない、奴らには持ち場ってのがある、こいつはここでこいつはここ、まあ正確に言うなら、両側の森と王国だけだけどな、持ち場はそこにいる死霊達にとてつもないメリットを与える、だがメリットがあるならデメリットもある、それが持ち場から離れる事だ、奴らが離れるとそいつは」
「消えるのか」
「正解だ」
何ともまあ怠惰らしい、自分の持ち場から離れるのは怠惰、奴はそれに制裁を絶対的に加える。
狂気的な怠惰に対する固執、まさにやばい組織のトップという感じがする。
「まあだから大丈夫だ」
なら、とまた話を続ける。
「だがそれでも多少なりとは問題がある」
裏門の前を指さす。
「死霊剣士カルミア」
聞いたことのある名、ハルに関してはその名を聞き狂気じみた笑みを浮かべている。
だがまだ俺は確信を持てない、だが次の言葉で憶測は確信に変わった。
「二つ名『闘剣カルミア』」
英雄の名を、3000もの敵を目の前にし味方100人で討ち滅ぼした、そのカリスマ性と天性の技量で見方の士気を高め、その熱い戦いっぷりから闘剣と呼ばれた。
英雄の中でも10本の指に入る人気者だ。
「こいつが門番として俺達を立ち塞がる」
強敵、皆で協力しあって倒すしかない、と思っていたが、約1名この上ない好敵手を目の前にサシでやらないわけが無い。
「ハル、この敵任せるぞ」
そう言うとハルはニッコリと笑って、
「ああ、任せろ最高だぜ!」
さてこれで1つ話が片付いた。
ここから俺の番だ。
「シフォン、四王について詳しく教えてくれ」
「OK、まずアダムス、こいつは簡単に言えば『デタラメな筋肉』志龍は知っていると思うがやつの筋肉はイカれている、想像を優に超え、相手に絶望を与え、戦う相手は皆、戦意喪失する」
確かに、あの体格は規格外すぎる。
戦うなんてハイエナがティラノサウルスに挑むのと代わりがない、つまり勝てるわけが無い。
まあ
「それも一般的な人との肉弾戦に限るがな」
「こいつは俺がやる、因縁って言うよりか、サシで潰し合いてぇ」
あの時1発食らったお見舞いは返さないとダメだからな。
「OK、次はイヴだ、彼女は魔法を得意とする、中でも超高等魔法に位置する2系統合成魔法、炎と氷合わせた水系統の魔法を使ってくる」
死霊にはこんな奴もいるのかと感心していたら美穂が指の関節をポキポキ鳴らして。
「へぇ、丁度いいわね、私そいつ倒すわ」
何か因縁ありげなその殺気に皆がたじろたじろしてしる。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯水を倒して私は成長する⋯⋯」
小さくだが何か聞こえた気がする。
「ま、まあ次に行くぜ、次はヘレネス、奴は戦いをしない、そして勝つってやつだ、どうやってかは詳しくは知らないが相手の精神を痛めつける事を中心にしていて、それにあいつの信念は「負けて勝つ」らしいんだ、生前も罪人だったらしいしな」
その言葉にプレアが反応する。
「その饒舌さに誰しもが心を折られる、そして1度折られれば元に戻るのはほぼ不可能らしい」
「ただ、彼の持ち味であるその饒舌さが王に選ばれた素質であり、どの王よりも厄介であることは間違いない」
「そんなことないのですよ」
プレアが前に出る、ガチャりと彼女の宝物庫が罪を裁くために開かれる。
「罪は許されるべきではない、裁きを下して罪人は処す」
王の庇護に罪人は必要ない、彼女の溢れんばかりの殺気はそう語った。
「いいね、その心意気、俺は惚れたぜ」
シフォンにそう言ってもらい「ふふふ」と上機嫌になっていた。
その空気をぶち壊すかもしれないが俺は次の、ノアについて聞いた。
「ああ、彼女か、あれは俺に一任してくれないか?」
何も話さずシフォンはそう言った、
「でも情報は──」
彼女の目に宿るその色は激情に赤く燃え上がっていた、まるで親でも殺されたかのように。
俺は1度ため息をついて、
「無茶はするな、もし無理だと思ったら俺のところに来い、分かったな」
「うん!」とシフォンは強い返事をした、けどその後に。
「俺のところに来いかー、ふふ」
と何やら言っていた、そして美穂から。
「ねえ、私も無茶しそうになったら志龍の元に言ってもいい?」
「え? そうなったら炎王呼べよ」
その瞬間、俺はライト兄弟を超えた、そしてどこかの青だぬきの科学を追い越した。
(ああ、神よ、魔法無し、機械なし、遂に人類は何もなしに世界を飛んだ!)
だが歓喜とともにやってきたのは頬が張り裂けるような痛みだった。
そして皆からは
「今のは志龍が悪い」
「志龍さいてーなのですよー」
「おめーはほんと女心っての分かってないなー」
最後にシフォンに罵倒されて重力に逆らっていた体が地に戻った。
「いってー! いやまじで洒落ならんよこれは!」
頬を抑える、虫歯になった時みたいに腫れ上がった、そこに美穂はビンのエタノールをぶちまけた。
「あ、ちょう、それは見たらわかる痛いやつだよ、あのほんとゆっくーりガーゼに染み込ませたやつをちょんちょんっていっでぇー!」
俺の魂の言霊が廊下中に響いた。
夜は深まった、辺りは静けさを増し芝生は風に煽られ気持ちよく音を立てている。
和の夜とは違った洋の夜、だが等しく夜を照らすのは月だった。
「んで用事ってなんだ志龍」
夜風に髪がなびく、月に彼女は好かれているのだろう、月に照らされたその姿はより一層美しく、見とれていましそうになる。
「こんな夜遅くに呼び出してすまねえなシフォン」
「本題は」
「まだ何か隠し持っているだろ」
俺の質問に全てを見抜かれていると彼女はため息を一つ漏らして、
「どこでそれがわかった?」
「最初にこの結界さ、結界なんざ元々超高等魔術に分類されるSランク級魔術、相当な手練であり、熟練の技量、魔力があってこそSランクは成り立つ、だが特別お前にそんな魔法を使えるほどの技量と魔力があるとは思えない」
魔術には7段階ありE、D、C、B、A、S、SSと分類され、SSに近づくほど技術と魔力が求められ、その技が与える影響は強くなる。
「⋯⋯あんた相手に隠し事は通用しないか」
彼女はおもむろに短刀を取り出して、結界から外に出る。
「お、おい!」
俺は急いで追いかける、だが叶わない、俺より早く死霊が彼女の元に行く。
「っ! くそ!」
「大丈夫だ、もう彼らは自由になる」
短刀で自分の指を切る、その血の1滴が地面に落ちる。
「さあ、自由になりなさい、貴方達に次の幸あれ『浄化』」
彼女を襲ってきたゾンビは光に包まれた、そしてその体は土塊と成り果てた。
「これは加護⋯⋯」
「そう、私の加護は『浄化の加護』禁忌に犯された者達を救い、助ける力だ」
結界内に戻ってそう彼女は言った。
納得がいった、加護は全ての奇跡を作り出せる力、結界如き易々と作れる。
無限の願いを其の手で掴むことができる。
「俺はなこの国の色んな人を浄化させてきた」
「ある時には街でよくであったお婆ちゃんを、ある時には良くしてもらっていた料理屋さんを、ある時には友達を」
「そして親友を」
大粒の涙が彼女の頬を伝って地面に落ちていく、
「最後に⋯⋯ェッグ、皆の笑っだがおをみだがった」
嗚咽を漏らして、彼女は続けた。
「だがらごそ、うぐぅ、私は戦いたかった、ぜいぎを、おれがじっでる正義であいつをぶっ倒したかった!」
嗚咽はやみ、確固たる彼女が持つ『正義』が語られた。
「これは、皆を救う正義の執行、俺が持つ命の炎であり、執念さ!」
そう言って彼女は洋館に戻ろうとする、俺とすれ違う前に少し止まって。
「ノアは死霊の集合体さ、何千何万もの奴らが集まり怪物になった存在さ」
「そこに俺の両親も取り込まれている」
もう1つ合点がいった、彼女がノアにこだわった理由が。
再び彼女は歩み始める、俺は彼女を見ないまま
「なら、死んでも負けるな」
負けたくない敵、なら死んでも負けたらダメだ。
だが俺はシフォンの死は許さない。
「だが生きて帰ってこい、約束だ」
彼女は驚いた表情をして、だがすぐに笑って、
「うん、わかった!」
その返事に俺も安心して笑った。
月の夜は深まる、新たなる敵に俺の色々な思いは激情と共に焼かれた。
「待ってろ怠惰、必ず負かしてやるからよ」
──────開戦まで後2日──────




