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第1章 第49話 序章 第一夜、始まりの夜

 ゲートによる移動で俺達4人はプリテンシ王国に着いた。

 だがそこに広がっていたのは異様な光景だった。


「なんだよ⋯⋯これは⋯⋯」


 老若男女問わず死人の前で膝を付いて祈っていた。


「ああ、神よこの者に弔いを⋯⋯」


 こんな事をずっと一心不乱に唱えている。


「これは⋯⋯怠惰の⋯⋯」


 弔い、奴の顔が思い浮かぶ。


「奴に支配されているみたいだな⋯⋯それにしても調子が狂う」


 祈りをしていないこちらが異端みたいな目で見られている。

 騎士がこちらに近づいてきた、


「入国書を⋯⋯」


「ああ、どうぞこれです」


 騎士はその入国書をじっと見つめて


「所でお宅らは何をしにここに?」


「いや、ちょっとした野暮用で」


「その野暮用って司教様を倒すことですか?」


 周りの雰囲気が変わる、なるほどこりゃ俺達が異端だったというわけか。


「だったらどうするんですか?」


 腰にある撥を取り出す、それぞれ武器の用意や魔力を発動させる。


「異端者を倒せ!」


「ちっ! お前ら殺しはするなよ」


 戦いに出ようとした時、襟を引っ張られた感覚がした、


「こっちだ! こっちに来い!」


 フードを被った人が手招きする、俺達は1度躊躇ったが、


「安心しろ、俺は味方だ!」


 言われるがままにそちらに向かう、暫く付いて逃げると洋館に着いた。


「早く! もう後2分経ったら手が負えない!」


 洋館に突っ込む、門に入る瞬間ビリッとした。


「範囲結界⋯⋯」


「そう、死霊(アンデッド)はここに入れば体は土塊になる」


 芝生の上に寝転ぶ俺に手を差し伸べてくれた少女がそう説明してくれた。


「よくここに来たな、俺の名前はシフォンだ」


 手を貸してもらって立ち上がる、


「ありがと、名前は光希 志龍だよろしく」


「私は美穂、ありがとね」


「晴人だ、よくハルって呼ばれてるからそう呼んでくれ」


「プレアなのですよー」


「よし、一通り自己紹介が終わったから積もる話は中でしよう」


 と門に向かおうとすると後から音がした。

 振り向くと5人ほど、黒いローブを纏った人が来た。


「なんだもう来たのか、怠惰(ボス)は何処にいる黒魔道教」


 シフォンは急いで臨戦態勢に入った、そして彼らも俺達には目もくれず彼女の元に向かった。


「っ!」


 俺はそこに割り込んだ。


「おい、誰を無視してんだこら」


「5音 射音」


 見事にクリーンヒットして5人は吹っ飛んでいった。

 門手前で止まったがそこにハル、プレア、美穂の3人が、


「「「無視してんじゃねーよ!」」」


 2人切り刻まれ、1人串刺し、2人焼かれた。


「よーしお疲れ」


 それをシフォンはあっけらかんとした表情で見ていた。


「お、お前ら強いな⋯⋯」


「まあな、それより中に入るか」


 ギイッと音を立てて扉が開く、中には怯え、嘆き、苦しむ人々が沢山いた。


「なんだよ⋯⋯この国は」


「見ての通りだ、ようこそプリテンシ王国へ、いや屍王国と言った方がいいかな」


 シフォンは椅子に座る、俺達もソファーに座るように促されて座る。

 そこに1人男がやって来て


「シフォン! こいつらは誰だよ!」


「安心しろ、この国を救いに来た人達だ」


「はぁ? 今更救いに来ただと? 舐めてんのか?」


「いーや舐めてないし、元々男を舐める趣味は無い」


「んだとこら!」


 向こうが殴りかかってくるのをシフォンが制止する。


「喧嘩はそこまで! クルも突っかからない! てか向こうで子供達の相手をして」


「ちっ! わーったよ」


 渋々という表情でクルという青年は向こうに行った。


「ごめんね、あいつあれでも一応ここの事考えてるんだ、でもこの状況が変わらないことにイライラしてたんだよ、許してやってくれないか」


「ああ、その気持ちは伝わってきたし、こっちにも非がある、後で謝っとくよ」


「すまんね、さて話を変えよう」


「この国の生き残りはここにいる人達だけだ、あんたらが出会ったあそこの住人は生きていない」


死霊(アンデッド)か」


「その通りだ、そしてこの国をそんなことにした張本人は!」


「怠惰の司教」


 シフォンは激昴の表情で唇を噛む、悔しさも混じり涙がその目には溜まっていた。


「そうだ、奴が来てからこの国は変わってしまった! 「弔いがこの国には足りない」と言って人々を虐殺していった」


「酷い話⋯⋯」


 美穂は小さく呟いた、正直俺自身も自分の命なんてどうでもいいくらい奴を殴りたい。


「そしてあんな⋯⋯あんな姿に変えてったんだ⋯⋯⋯⋯母さん、父さん⋯⋯」


「殺されたのか」


 頷く、涙を流してもうこれ以上は語れないだろう、美穂が宥めに行った。

 ハルは下を向いたまま唇を噛み締めプレアの表情は殺意に満ち溢れていた。


「溝鼠が⋯⋯」


「罪人が⋯⋯」


 俺はこの中で1番冷静に保っていたのだろう、表情は崩さず、何も言わずに、外に向かう。

 夜風に当てられて少し肌寒く感じるがそんなことは気にならなかった。


「さて、そこにいるんだろ黒魔道教」


 目の前から黒い服を着た集団がゾロゾロと現れた。


「悪いな、結界をもう1枚張った、お前らを感知できるように」


 撥を取り出す、そしたて1本ラインを引く。


「ここから先に超えたら俺は責任は取らねえ、死にてえ奴からかかってこい」


 一斉に走ってきた、先頭集団がラインを超えた、


「1音 轟音!」


 空間が揺らぐ、蜃気楼のように歪んで彼らを飲み込んだ、瞬間彼らはそこから居なくなっていた。

 それを見た次の集団は立ち止まった、


「言ったはずだ、死にてえ奴からかかってこいってな」


「音武装、切り音」


 さっきの言葉は訂正しよう、自分が1番怒っていないという事は、お人好しなんだろうか、いや人として当たり前の感覚なんだろ、


「司教に伝えとけ、てめえの次の曲は自分の鎮魂歌(レクイエム)だってな!」


 そう言うと、何も語ることなく森に消えていった。


「はぁ⋯⋯」


「ありがとね」


 後ろを向く、そこにはいつからいたのかは分からないがシフォンが居た。


「見てたのか」


「まあ一応⋯⋯」


「俺も人の血が通ってるってことだ」


「何それ」


 と笑った、俺も釣られて笑ってしまった。


「なあ志龍、俺も戦っていい?」


 目を見る、その目には覚悟の光が見えた、


「死ぬかもしれんぞ」


「んなもん承知の上さ」


「厳しい戦いになるぞ」


「覚悟は当の前から決まってる」


「そうか⋯⋯」


 俺は身に纏っていたローブを脱ぎ彼女に渡し、手を前に差し出す。


「この戦いの間俺達は仲間だ、シフォン、お前も魔導騎士団の一員として戦ってもらうぞ」


 彼女はそのローブを身に纏い、俺が差し出していた手を掴み、


「よろしくな志龍!」


「こっちこそよろしくなシフォン」


 館に戻ってこの事を3人に話す。

 最初は驚いていたものの皆と言葉を交わし意志を伝えると、


「いいね! よろしくな!」


「よろしくなのですよー」


「よろしく、シフォン」


 と快く受け入れた。


 シフォンが仲間になるということでもう一度話をしたいと彼女の部屋に俺達は案内された、


「ここだ、まあ適当に座っといてくれや、アイスコーヒーでも飲むか?」


「飲む」


「私も」


「私もなのですよー」


「100%のオレンジジュース」


 ハルは昔からコーヒーが飲めないタチだ、それをクラスの皆に隠すために1度飲んで大恥をかいている、それから「あれ以上の恥はねぇ!」と言って完全に飲まなくなった。


「あっはっは、まじかよハルってお子ちゃまだなー」


「俺はこんな程度では怒らねーぞ」


 と言うもんだから試してみたくなった。


「ハルはいつまで経ってもお子ちゃま」


「んだとこら! 志龍てめぇ表出ろ! このファッションセンス0」


「いいだろう、殴りたくなってきたからなその面!」


「うるさいのよ2人とも!」


 美穂に2人とも頭をぶん殴られてそのまま喧嘩は終了。

 それを見てプレアとシフォンは大笑いしていた。


「腹が痛えよ、お前らを面白すぎだろ」


「ギャグセンスは神なのですよー」


 と笑いながらもコーヒーを3人分、オレンジジュースが無かったので牛乳1人分が卓上に置かれた。


「さーて話はここからだ」


「ああ、それよりもシフォンさっきお前が言っていた後2分経ったら手が負えないってのはどういう意味だ?」


 シフォンは笑って


「流石団長、いい目の付け所だ、だがその話はちょいと後だ」


 彼女は自分の机から将棋台と駒を取り出した。


「まず陣営の確認から始めよう、俺達生き残り軍&魔導騎士団陣営対黒魔道教怠惰陣営、これがこの戦いの陣営だ」


 と将棋の駒を並べる、こちら側は普通の置き方に対して向こうの陣営は歩の駒が3倍となっている。


「これが今の所の陣営の規模の差だ、圧倒的に俺達は負けている」


「手数で戦おうにもこりゃ無理があるな」


「そう、手数で戦えば必ず不利になる、そしてこの戦いでの最大の難点は相手が死霊(アンデッド)って事だ」


 自分陣営の駒を動かして敵の歩を取る。


「こうやって1人殺るとしよう、だが奴らは将棋見たいに自分の駒になってくれる訳も無いし、何なら復活してくる」


 死んでも死なないくせに人数だけ増えていく、そしてそれは1都市をも破壊してしまうほどに。


「そしてこれにもう一つ厄介なのが『弔いの加護』だ」


 と歩の駒を引っくり返してと金にする。


「奴らは夜になればなるほど身体能力が飛躍的に上がる、まさに歩がと金に変わるってわけだ」


 飛躍的とはどんなものかまだ見たことはないが警戒することに越したことはない。


「後、死霊(アンデッド)と言えば四王と呼ばれる奴らも気おつけなければならない」


 四王、そのうちの1人らしき人物は知っている。


「アダムスか」


「よく知ったるな、そう、アダムス、イブ、ノア、ヘレネスと呼ばれる最強の死霊(アンデッド)が側近として居る」


 奴の強さは俺も体験している、恐らく1個体で副司教以上の強さは持っているだろう。


「中々手練がいるな」


「まあ黒魔道教のトップがいる場所だ、これくらい居て当然だろ」


 とハルが言った、なんかムカついたからハルのミルクにちょっとコーヒーを混ぜる、疑いもせず飲んで「むべぇ!」と渋い顔をした。


「志龍混ぜたな!」


「まあそんなことはどうでもいい、それよりも作戦だ、聞いた話、司教は町外れの墓場に居ると聞いている、王国を通らずとも森を抜ければ一発じゃないか?」


 若干1名睨んではいるが3人は納得する、だがシフォンだけは違った。


「その情報は俺の耳にも入ってる、でも森にも死霊(アンデッド)は住み着いている、何なら森の奴らの方が数も多いし、強い、それに森には変な結界が貼られていて道を進んだと思ってもまた戻ったり、迷子になったりする、そしてあの森に入ったら精神的にも病むらしい、この作戦は愚策だろう」


 完璧すぎる情報に皆が「おおー」と声を漏らす。


「なんだよ、おい」


 少し顔を赤くして後ろを向く。


「んじゃ、王国から正面突破って感じか? そんなら美穂の炎で一発じゃねーか」


「王国内に関してもそんなやわなことはしていない、『白い部屋』という結界をあの中は巡らされている、中に入った時空を見てなかっただろ」


「見てないな」


「白いんだよ、その中だけ本当に白い、何もかもが」


 あれを思い出す、初めて怠惰と戦ったあの白い世界を。


「そしてあの世界は俺たちに対して弱体化をしてくる、それと向こうには強化がつく非常に厄介な結界だ」


 あの戦いもその力が働いていたのか、確かに倒すのに時間はかかったしアダムスの攻撃をまともにくらった、今考えると絶対によけられたはずなのに。


「美穂が仮に焼き殺したとしてもあいつらはすぐに復活してくる、それに時間と魔力をかけてしまったら四王戦は勝てないだろう」


「んー何か詰みみたいに思えてきたんだけど」


 何をしても奴の手の上、抗える策が今の所俺の頭には浮かんでこない。


「ちっ、時間をかけて策を見つけ──」


「いーやその必要は無い」


 とシフォンが敵の歩を全部片付けて自分たちが攻め入る、


「この日を待っていたんだ、戦える奴を」


 と金が王を囲む、ありえない完全なる王手を勝利を掴む。


「秘策中の秘策だ、これで俺達は勝利を掴む!」


 長く苦しい、黒魔道教との新たなる戦いが始まる。

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