第1章 第44話 序章 欲するままの勝利の為に
光は全てを飲み込んだ、龍の咆哮にも勝る神の一声が空に向かい唸る。
勝利への一撃、今までの中で最高の魔法だった、だが神はそれを嘲笑って無慈悲に打ち砕いた。
それがこの『真炎 加具土命』
火の神から名を取るに相応しい魔法だ。
やがて勢いが弱まっていき段々音も薄れていく、やがてそこには何も無い荒野と静寂だけが残った。
これが王の一撃、火の魔法で今まで見てきた中で最強、息をすることも忘れるてしまうそんな衝撃が私を襲った。
炎王はそれを見て頭を掻いて、
「まあざっとこんなもんよ」
と被害が被らなかった1番近い家の屋根を見た。
そこには息を切らした真紅の瞳をしたクレナが居た。
狂化を解き、クレナが睨む、それを見て無表情に
「狂化か、逃げられたとはたまげたな」
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯まさかあんな技あるとは思ってんかったで⋯⋯」
「おいおいそれはこっちのセリフだ、まさかあれから逃げるとは思ってなかったぜ」
「はっ、あんなのくらったら死んでまうわ」
事実、あれで範囲内の建物は全て蒸発した、神でもない生物があんなものくらったら一溜りもない、まあ何処ぞの阿呆はこれすらも凍らせるかもしれないが。
そして炎王が新たな一手にでた。
「さーてこれで状況は変わった、お前にもう勝ち目はない、あんな大技に加えて、狂化、そしてちょっとした魔法が積み重なって、今お前の体はガス欠もいいところだ、だからこそ提案しよう」
そうその一手とは
「負けを認めろ」
王手、つまりは敗北宣言をしろだ。
しばしの静寂が流れる、1分、1秒の時の流れが遅く感じる、長い時間が経ったように思える、クレナが口を開く、
「敗北を⋯⋯」
最初のように不敵に笑い、
「認めへんって言ったらどうする?」
炎王も御満悦そうに笑い
「そりゃぶっ倒すしかないな」
ガス欠の体を使い、彼女は狂化する。最後の1滴まで全て絞り出す、その姿は何かを守るまさに神だ。
だが挑むのは神をも嘲笑い倒してしまう最強の火の使い手、炎王そのもの。
彼女に勝ち目など無い、だがその顔は笑っていた。
「へっ、こっから先は俺じゃねえよ」
右からくる、目が慣れるというよりもこの狂化に対して慣れが発生している、足の踏み出す位置、軸足の力の入れ方、目線は宛にならない、なら肌で感じろ、風を彼女が何処にいるのかを神経を剥き出しにするように集中しろ。
彼女の動きに合わせるように体が動く、体が呼応するように傾きそして踏み出す。
彼女が行く先に先回りする、逃げ場を無くすように予測して立ち回る、いつしか彼女が操られているのではないのかと思うくらいに上手く追い込みにかける。
「っ! こざっかしい!」
冷静さを欠いたカグラは近くに来て裏蹴りを腹に、だがもうその時にはそんな蹴りもスローに見えて避ける。
それを見て唖然としているところに
「はああああ!」
腹に正拳突き、鳩尾に入った。
「とどめ!」
回し蹴りを頭に決める、彼女は吹き飛び意識が途絶えたようだ。
「はあ⋯⋯はあ、やった」
いつしか炎王の意識では無く、自分の意思で戦っていたことに気がついた、それはあの狂化による戦闘の時から。
ああ、自分は成長している、そして勝つことが出来た、そんな嬉しさが心の底からこみ上げてくる。だがあのど阿呆(炎王)がいたからこそ勝つことが出来た、だからど阿呆の手を使わないで次は勝つ、そして炎王を倒して、あいつを、志龍を倒す。心に決める、するとなんだかなんとも言えない高揚感とちょっと子供っぽいから恥ずかしいという感情が入り交じった。
すると何かものが飛んできた、当たる寸前で避けるとそれは岩のようなものだった。
飛んできた方向を見ると、頭から血が出てきていて意識は朦朧としている、立つことすらままならない体で立ち上がる、だが目の光は消えていない。
「⋯⋯まだや」
身の毛のよだつような殺意が肌を直接刺激する、眼光はまさに獲物を狩らんとする猛獣そのもの、満身創痍であるその体のどこにこんな力が残っている、
「バケモノね⋯⋯」
「はっ、よく言われるわ、それになうちは狙った獲物は逃したくないタイプやねん」
と手を前に出す、そして笑みを浮かべると
「これが最後や」
魔力が集められる、さっきの技よりも強力だ。
「オーケー、ならこっちも本気出すわ!」
胸に手を当てる、
「炎柱!」
胸を炎の柱が貫く、そしてその力を増幅させ、体を回復させた。
そして心の中で叫ぶ洞窟にいる阿呆に向かって
「炎王! 力を貸して!」
豪勢な笑い声と共に
「いいぜ! やっぱ最高だわ!」
宙を舞い、空から詠唱を始める、向こうも地から詠唱を始める。
「我は炎王を受け継ぐものなり」
「火は地獄となす」
「我が力は炎王を受け継いだものなり」
「我が火は地獄とともにあり、烈火のごとく全てを焼き、火さえも焼き払う業火となりうる」
「これすなわち我伝承の火を受け継ぐものなり」
「我が火はいつの日か地獄になりうる」
「炎王が最後に残した秘技ここに見参せよ」
「我が力となり、かの者に地獄を見せよ」
「すべてを焼く豪炎よ業火よ終焉の煉獄よ全ての炎よそして伝承の火よここに現れろ」
「地獄よりいでし炎よ全てを焼け」
「烈火炎舞」
「炎獄」
地が乖離する、空気は焼け世界とこの空間が離れる。
その衝撃は計り知れず、暴風と共に体を吹き飛ばし殴る。
木材が当たる手前で消えてなくなる、マグマの中に水を入れたように一瞬で蒸発した。
私はというと風に殴られ目も開けられない、息ができない、苦しい、
「うぐっ あがぁ⋯⋯」
衝撃が喉を塞ぐ、必死に酸素を取り込もうとするが酸素は火に取り込まれる、強烈な酸欠と頸動脈を締め付けられている圧迫感。
それは内臓にも例外無い、圧迫される、口から血が出ていくのがわかる、口の中に鉄の味が広がる、このままだと内臓が潰されていく。
それはまさに夏希 美穂の死を表す、例外なく訪れる死が今訪れているただそれだけのことかもしれない、だが死ぬのは嫌だ、本能がそう叫ぶ。
声にならない声で助けを求める、何度も何度も「志龍」と、死に物狂いと言う綺麗な言葉ではない、これはただの生存本能、もう時期来る死への抗いではなく、ただ逃げているだけ、恐れ、畏怖し刻一刻と迫っているものに背中を向けている。
こんな態度、それが許してくれるはずもない、より一層風が強くなる、つまりは喉がより強く締めつけられる。
意識が飛びそうになる、いやもういっそう意識ごと
「命も消えるのかな⋯⋯」
「ったっくよ、何の為の助けなんだか」
男は目覚める、神すらも逃げ出したくなるようなこの場に笑って俺は立っていた。
「さーてこれはちょっとまずいな、真剣にやらなかったら違うやつらにも被害がいく」
いつになく真剣な表情だと自分でもわかる、この戦いの終止符を打つ、いやそれよりも彼女たちに対する敬意だろう、ここまで戦ったことを敬わないで何が王だ。
そしてその敬意を持って俺は終止符を打とう。
「我が第三の魔法よ火を飲み込め 『火食い』」
手のあったビー玉サイズの火を中心部に投げ入れる、すると突如としてその火は大きくなり火を全て飲み込んだ、これは比喩でもなく例えでもない、紛れもない事実だ。
「特殊な火だ、火にだけ反応してそれを食べる、周りに木などがあっても燃えねぇ、俺のオリジナル」
得意げに話してみたが誰もそんなこと聞いてない。
「まあしゃーねぇな、おい戻ってこい」
またビー玉サイズになり手元に戻ってくる、俺はそれを飲み込んだ。
火によって全てが修復される、体力も、潰れかけていた内臓も、全部元に戻った。
「さーて問題はあっちだか心配ねぇ」
近づいて彼女を触ると、酷いものだった。
「手足肋骨全部骨折、内臓はこりゃやべーな」
大事ではあるが本当の大事までは至っていない、息も辛うじてしている。
俺は手を握る。
「魔力は有り余るくらいあるからちーとばかり使うぜ、『ヒーリング』」
上級魔術ヒーリング、5分ほどで全身が完治する、片腕とかがなくても生えてくるそんな魔術だ。
まあその分魔力の消費も半端ない、普通は5分継続するのに一流の回復専門魔法使いが10人は必要だ。
まあこいつと今の魔力なら大丈夫だ。
──5分後──
「ゼェゼェ、ハァハァ⋯⋯」
終わったがほとんど魔力を持ってかれちまった。
やっべー想像以上だったわ。
あかん猪の肉でいいまじでなんか食べさせてくれ、体力的な問題と精神的な問題で飯が食べたい。
と嘆いてみたが無駄だったのでその場で寝転んだ。
暫くその場に寝転んでいるとクレナが目を覚ました。
「⋯⋯なんや生きとったんかいな」
「それは俺に対してか」
「それもあるし、うちにも、正直死んだおもたわ」
「まあな、半分死んでるようなもんだったしな」
とお互い笑う、そして暫く静寂の時が流れる、静かに清々しい声で彼女は、
「勝負あったんか?」
笑いながら聞いてきた、俺は笑い
「ああ、こいつの勝ちだ、まあ俺ありきだが最後まで地面にたってたしな」
「はぁーもうせこいわー体に炎王を忍ばせとくなんて」
「まあこれも運命の1つだ」
『いつか来る運命に抗うために俺は誰かにこの運命を受け継がせる』
身勝手なことに巻き込んだなと思う、まだ美穂に話すのは先にはなるだろうが、いずれぶち当たるであろう壁が迫ってきている、俺が巻き込んだ、いつもそう思ってしまう、そして話した時どうなるか、少し怖い。
「なんや辛気臭い顔して、悩みでもあんのか?」
覗き込んでくる、戦いの最中は気にしていなかったがとても美人だ、顔が熱くなって俺は逸らす。
それを見て少し笑って
「まあまた何でも相談しいや、ほなうちはこれから色々あるさかいちょっと上に戻るわ」
と言って消えていった。
「あんだけ戦っといてまだそんなことする余力があるんかよ⋯⋯」
女性は強いとよく言うがタフすぎる。
思わず苦笑いしてしまった。
さてとそろそろバトンタッチの時間か、まあ後は気楽にやんなさいな。
⋯⋯⋯⋯。
────────。
意識が海に沈む、だがそれを誰かがすくい上げてくれるように私は意識の海から出る────。
「⋯⋯⋯⋯何があったのよ」
周りには誰もいない、おまけに辺りを見渡しても何も無い、ここがさっきまで戦っていた場所とは思えないくらいだ。
「ってか勝ったのこれ?」
敵がいないことを見るに勝ったと言ってもいいのでは無いだろうか。
だがいけ好かない、奥歯を噛み締める。
(あの時、あいつに助けてもらわなかったら私は負けていた)
そう、クレナが狂化した時、あのまま行けば私は完敗していた。
結局はあいつ、炎王のおかげだ。
もしあいつがいなかったら、あの場に⋯⋯たらればをいうと限りがない。
だからこそ私はそれをふん切った、勝って負けたと、私は私をそう言い聞かせた。
「いつか必ず超えてやる、炎王を必ず!」
そう胸に誓った。
試合が終わったのでほかの事に頭が回る、まず最初に思ったのは。
「志龍!」
志龍のもとに走り出す、勝敗よりもそばに居たい、そう思ったから、私は志龍のいる方に走る。
(ここを曲がれば志龍が戦っているところ!)
「志龍!」
ゲームではここで怪我をしてその手当を受けているとかだ、だがゲーム以上のスペックを持っている彼は違った。
いやゲームでもあるわ、ハーレム系のゲームで主人公がヒロインに膝枕されているところ。
正しくそれが現実に起こった。
私は手を握った、何か察したカグラは志龍を盾にした、
語るなら
拳で語ろう
志龍さん
顔に拳が炸裂する、「ふげぇ!」と声を出して倒れた、そして起き上がって。
「いきなり何すんだ⋯⋯よぉぉ⋯⋯」
涙目の志龍をみて何故か言葉が止まらずに
「あんたこそ何してんのよ!」
美穂の絶叫が空に響く。
次回からハル編となります。




