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第1章 第43話 序章 月の守り神と火を極めた者

 カラン コロン、カラン コロンと下駄を鳴らし、その狐はとっくりとお猪口を片手でずつに持ち茶屋で酒を嗜む。その姿は月の下で可憐に映る、月下美人と呼べる。


「ふふ、嬢ちゃん、酒って飲むもんやと思う?」


 唐突な質問、質問の意図が分からないが常識的に考えて頷いた。


「ハズレやで、酒はな嗜むもんなんよ」


 私の目をまっすぐ見据え不敵に笑いながら続ける。


「酒はな飲んでたらいつかは自分が呑まれる、ほらよく大人がいうやろ酒に呑まれたって」


 飲酒運転とかそういうことが言いたいのだろうか、だがこの話が戦いに関係しているとは思えない、そう私は少しイライラしていた。


「戦いも同じやで、ほらもううちのペースに呑まれてるよ」


 はっとして気を取り戻すがその瞬間顔に蹴りが入る、何とかガードをするがそのまま家に吹き飛ばされた。建物は崩れその瓦礫を何とかどけ地上に顔を出すと、


「色んなところに注意しとかなあかんで童、そやないとうち」


 殺意が滲み出ている、目も口も笑っていない、本性を表した化け狐の如く、獲物を、私を確実に殺しにかかってきている。


「童如き50秒あったら殺してまうわ」


「──っ! 煉獄(れんごく)!」


 家を溶かすように焼き尽くす、その間に抜け出し弓を取り出す。


「やってみなさい! 一矢 火矢(ひや)


 火で燃え盛った矢が彼女めがけて空気を切り裂きながら向かう、だがあと2mというところで火が火に燃やされた。言い方に何があるかもしれない、だが本当にその通りになったのだ。


「ん? 何があったんって顔してんね」


「ええ、火を焼くなんて久々に見たからね」


「ふふ、獣人族は結構な魔法があんま得意やないねん、それやから魔法は皆ほとんど使えんねん、カグラもそのうちの一人や、でもなうちはな魔法が得意やったんよ、そして火でオリジナルの技を作り出したんよ」


 ぽうと淡い青の炎が彼女の手に火の玉で出ている。


「その気になれば火を焼く火にだってなる、何にでもなれて、でも本物にはなれないそれが「狐火」うちが持ってる唯一の魔法にして、最強の魔法」


 その気になれば火を焼く火にだってなる、これは矛盾している、だがそんな魔法が存在している。

矛盾を正当化する方法、それは贋作であればいい、つまりこの炎は


「ペテンよ」


「ふふ、その通りや、所詮化け狐は紛い物、詐欺師(ペテン)って言葉がよう似合うわ、でもなそれこそがうちの最大の特徴、化け狐が最強の魔法を手に入れることが出来たペテンや」


 なるほど、ペテンこそが彼女のスキルでありオリジナルを作り出した言わば彼女が持つ唯一無二の武器というわけだ。だが、


「ペテンが本物に勝る同義なんてないわ」


 本物を上回るものなんてない。事実、プレアは前に名高い剣の贋作をその名高い剣を使い一撃で葬っている。

 偽物が本物を上回る事なんてありえない、私はそう自分に言い聞かせ矢を構え弓を引く。


「教えてあげるわ、本物というものを!」


 さっきより魔力を帯びさせてる。


「炎鳥 (えんちょう)」


 火は鳥の様に形を変えて自由自在に飛び回りながら獲物を狙う。

それをクレナは溜息と呆れを交えながら、


「はあ、本物が勝つって誰が決めたんや、贋作が、本物に劣るって誰が決めたんや」


 青白い火が雫のように落ちる、そこから彼女の周りを火が囲み、彼女の周りにも火が火の玉の様に飛んでいる。


「こざかいし雛鳥はそこで寝とき」


 炎鳥を捉えその体を青い火が焼く、赤い火は青に呑み込まれその姿を失った。

 だがこれは囮、本命は。


「受けてみなさい! 火の精霊よ我に力を貸したまへ、地に立つ業火の火柱としてその力を為せ『業火の大黒柱(ヘルファイア・ダンブルス)』」


 業火は火柱に姿を変え、クレナの頭上に落ちる。クレナはそれを周りに漂っている火の玉1個で対応する、火の玉は火柱を包み込むように燃え広がりその動きをも止めた、だが


「その程度じゃ止められないわ!」


 火柱は狐火を破るかのように青い火を振り払いまた彼女に向かう。


「終わりよ」


 そう告げる。

 だが彼女のその表情には余裕があった。


炎槍(えんや)


 巨大な青い槍が柱を貫く、柱はそのまま青い炎に包まれる、


「そうはさせない!」


 柱の周りが膨張する、そして風船がはち切れる様に爆発した。


炎花(えんか)流星(りゅうせい)


 花火のように四方八方に大きな火山弾が地に落ちては爆破し、また落ちては爆破している。

 クレナはこれに微動だにせずそこに立ち当たりそうなものだけ狐火で食べている。

 だがその表情は少しイラついている。


「なんや目くらましかいな、こざっかしい」


 爆破の衝撃で砂煙が辺り一面の視界を奪う。

 視界は頼りにならない、息を殺し魔力を極限まで消して向かう。

 向かう場所は彼女の魔力の方面、音を立てずに迅速に走る。

 だが突如として魔力が消える、私はその場に立ち尽くす、辺りを見渡しても一面煙で見えない、フィールドは五分五分になった。迂闊には動くことが出来ない、五感を働かせろ、最大限に、風一つ肌で感じるんじゃない神経で感じろ、集中しろどこから来ても可笑しくない。


「そんな気張らんでも」


 唐突に後から声がする、振り返ると。


「ここにおるわど阿呆」


 目の前に現れた真紅の瞳は先程の彼女ではないと物語っている、ガードをする間もなく腹に蹴りを入れられた。


「ぐっ!」


 そして回し蹴りで頭を蹴られる、体は吹き飛ばされ家に直撃した。


「あ⋯⋯がぁ⋯⋯が⋯⋯」


 息ができない、頭を蹴られて意識が、視界が朦朧としている、

 視界が⋯⋯暗く⋯⋯なっ⋯⋯て⋯⋯。


「ありゃまあ、こんなザマになって大丈夫か」


 いつぞかの洞窟に私はいた、だがそこでも歩けないしまだ意識は朦朧としている。

 目の前に誰かがいる、豪快そうな男が目の前に立っている。


「このザマじゃおめえも戦えねえな」


 人生で2度目の敗北を味わうことになる。

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 負けたくない。

 何とか体を動かそうとする、四肢を使い、入らない力を無理して足に入れる、視界が波を打っている、だがそれでもこの体は戦うことを諦めない、その姿はまさに傲慢、それを見て彼は笑っている。


「まあおめえならそうすると思っていたよ」


 そして大きな手を差し出す、顔が見える、いつぞかの火の王様によく似ている、いや本物か。


「手を取れ、少し炎王の力ってもんを教えてやるよ」


 その手をとる、その瞬間視界が覚醒する、力が底から湧き出てくる感覚がした。

 瓦礫の山から脱出する、十数メートル離れた所でクレナは長椅子に座り、煙管を吹いていた。

 私が起き上がったのを見て少し驚き、


「ん?なんや、くたばって⋯⋯なさそうやな」


 彼女の表情が曇る、冷や汗をかいている、形勢が流れが変わった、彼の登場で。


「さーて少し遊ぶか」


 私の体を使って彼はそう笑っていた。


 炎王、この世の炎系統の魔法を使う者の中で彼の右に出る者は居ないと言われている。

 大国相手に1人で戦い無傷で勝利を収めている。

 龍をもその炎で倒したと言われている、その姿はまさに火を操る王、炎王であった。

 火を操る者の炎舞が今ここで見られる。


「久々に遊ぶことが出来るぜ、さーて何を──っと」


 クレナの蹴りをいとも簡単に片手で止める、これにはクレナも驚きの表情をしている。


「まあそんなに慌てんなよ」


 笑いながらそ彼女に言い聞かせる、彼女は奥歯を噛み締め苦い表情をする。


「調子に乗りなさんなや!『炎槍』」


 青い槍を投げる。槍が私の胸を貫く、だがダメージは入らない。


「! なんで⋯⋯」


「俺の加護、俗に言う『炎王の加護』の力だぜ、俺には一切の火は通用しない」


「そして、まだこいつは使えねえが1度くらった技は俺も使うことが出来る、『炎槍』」


 彼女と全く同じ槍が手に握られ彼女の胸を穿つ。


「っ!」


 間一髪の所で避ける、その顔には先程まであった余裕が無くなっている。


「あんた少し見んうちに変わったな」


「まあな性別まで変わっちまったからな」


 その発言に眉をピクリと動かす。

 そして静かな声で


「あんた名前は」


「シン・ブランドルニア、またの名を『炎王』だ」


 その一言だけで周りが焼けるような暑さに包まれる、ただならぬ緊張感はその圧倒的な風格からくる。

 これが炎王、火の頂点に立つものだ。

 だが彼女、クレナはその威圧に気圧される所か逆に落ち着いている。


「炎王、お初お目めにかかれて光栄ですわ、何ともまあバケモンみたいな風格、暑苦しいわ」


「おうよ、それはよく言われるな!」


「ほんとどっかで「熱くなれよ!」とか言ってそうやわ」


 おい、それはいかんでしょうとツッコミを入れたくなった。

 がその時


「っ!」


「あんたは王や、まだ群衆の1番上、そんだけの人物、でもなうちらは違う、夜を守る神『月詠』そこに」


 回し蹴りが腹に直撃する


「土足で踏み込むなんて図に乗りなさんなや童がわれ」


 足に力を込める、持っていかれそうな体をその寸前で保っている、何とか耐えたものの次なる攻撃が宙から襲いかかる。


「おいおいスピード勝負ってか? 苦手なんだよ」


 襲いかかる拳を避け、彼女の腹に手を乗せる。


「俺、運動苦手なんだよ」


「っ!」


 手に魔力が集まりソフトボール程の火の玉が避けようとする彼女の腹を掠める。

 彼女は少し距離をとる、だがその視界にはもう炎王の姿はない、つまり彼女の死角後に立っているということだ。


「俺は物理で殴るのがあまり好きじゃないタイプでね」


「へぇ、そうなん」


 と言い、クレナは手に魔力を貯める。

 そして一瞬で炎王の後の家の屋根に立つ、そして見下ろして


「ここまで追い詰められたんも久しぶりやなあ」


 「お、そうかそれなら嬉しいな!」


 「まあでもそれもこれで終わりやで、これで決めたるさかいに!」


 詠唱を始める


 「龍よ、この火を纏え、蒼き龍となり敵を穿て、『炎龍激豪』」


 蒼き龍が後から襲いかかってくる、近づくにつれてその勢いは増していく、魔力も威力も今までとは桁が違う、いや彼女と戦うのであればこれくらい想定するべきだろうだがそれでもこの一撃は違いすぎる、くらえばもう戦うなんて出来るわけがないだろう。

 だがこの状況、楽しんでいるかのように笑っている存在がいる、いや自分自身(炎王)なのだが。

 するといきなり


 「美穂、今から見せるのは俺の本気シリーズの1つだ、よく見とけよ」


 と言う、私は神経を集中させた、意識の中でその最強の一撃を見るために。

 彼は目を閉じる、そして魔力を貯める、そして辺り一帯を魔法陣が包む。


「我が肉体は火の理を表す、

 この血は熱を持ち、この肉体は火を放つ

 やがてこの身体が朽ち果てようとも我が心は炎を纏う

 担い手はここにいる、我が火は全てを呑み込む

『真炎、加具土命(かぐつち)』」


 瞬間、視界が真っ白になった、白い光は激音を鳴らし、龍を蒸発させた、周りの建物も同時に蒸発しその光であり火は全てを包み込み焼き払った。

あ、まだ少し続きます。

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