第1章 第42話 序章 一夜攻防 勝負 剛術剛拳 カグラ
毎度毎度更新遅くてすみません。
唐紅の一夜攻防、我が身は防御に徹し、敵は攻撃に徹している、言うならば一方的な攻防戦、付け入る隙はなくただ身を守るのに必死だ。
「ちっ、攻撃ができない!」
策を練り、攻撃を躱し隙を作るも空気を押し攻撃をする前に逃げてしまう、狩るだけでなく狩られる側の事も知った猛獣、付け入る隙はない。
「少しはやるようになったな」
「⋯⋯まあな」
と何を思ったのか地面に転げ落ちている石を片手に持って遊んでいる。
「前にクレナが言ってた、そんじょそこらに落ちてるもんでも拾い上げてみ、何か役に立つ、落としておくだけじゃ勿体無い」
右の手をサイドスローの位置に持ってきて手首のスナップだけで投げる、石は散弾銃の弾丸のように少し散らばりながら飛んできた、俺は背後にあった建物の屋根に登る。その弾丸は木を腐っているのではないのかと思うくらい容易く撃ち抜き、貫通しても威力が弱まらない、重機関銃の様な重みのある、当たれば肉を削がれ骨も容易く持っていかれるだろう。
「はっはっは⋯⋯やるな⋯⋯」
彼女を見据える。だが次の瞬間視界から姿が消える、後ろに気配を感じる、左から拳が飛んでくる、容易くもないが俺は撥でそれを受け止め封じる、しかし封じていなかった右手に黒い石が握られていた。
「まずい!」
飛んでくる石を瞬時に
「絶対零度の領域!」
芯まで凍らせて当たる前に粉砕させる。そしてその瞬間生まれた0.1秒ほどの隙、逃すことは出来ない、腕を振り空気と音を圧縮させる、生まれてくる衝撃を受け流すことは出来ないだろう、
「1音 射音!」
音が解き放たれる、幼い体は吹き飛ぶ。
体を捻り衝撃を逃がそうとするが黒いナニカはそれを許さない、彼女の背後に周り撥を構える、
「チェック」
そうとだけ言い、撥を振る。普通ならここでノックダウン、俺の勝ち、そうなるのだろう。それが物理の中であれば。
「?!」
攻撃から身を翻し、逆に俺の後ろに着く。
地を蹴り、右の拳で顔を狙ってくる、あまりの速度に俺は思わず避けた、
「しまった!」
右に集中しすぎて左がご無沙汰となってしまった、彼女がそれを逃すはずもない、
「シャア!」
左の脇腹に蹴りが入る。強烈な痛みと共に俺は吹き飛ばされた。
「ってぇ!」
家を2、3個穴を開けて勢いは弱まったものの木に背中を叩きつけられた。
「野郎! ────っ!」
強烈な痛みが左の脇腹を襲う、脇腹が折れていることを確信した。
(1本、いや2本か)
今は治す隙も無い。
彼女が今持ち合わせている獣そのものの獰猛さ、そしてその剛術的な技とその威力を何倍にもさせる剛拳、これが成すものは隙を作るという戦術。
「獣に知能ってか? そりゃ人間勝てねーぞ」
人類が持つ最強の武器、それを持つ獣なんていたら勝てるわけがない。
だが、こちらもこちらで異常、力であれば負けず劣らず、それに、
「いったよな、こっからはハードモードだって」
彼女を俺は指さす、そして笑みを浮かべながら、
「カグラ、お前はこれから俺に1度も攻撃出来ずに敗北する」
カグラもこれには相当腹が立った見たく、毛を逆立てて凄い眼光で俺を睨みつけている。
「やれるものなら────やってみろ!!」
地面を踏み、地を蹴る、猛烈な勢いで迫ってくる、だがただその場で俺は突っ立っている。そして後ほんの数センチ、距離がほぼなくなった所で仕掛ける。
「来た!」
魔力を一気に放出する、氷は氷山の如く天高くその姿を現し、彼女はその中に閉じ込められた。だが数秒、氷山は轟音と共に割れ、崩れた。
そしてカグラは目の前にいる敵を仕留めにかかろうと、終わらせようと志龍の顔をめがけて飛びかかる。
「決まりだ!」
もう一度、先程よりも重く強い拳が氷山を砕いた時の粉塵と共にまっすぐ襲いかかる。
「────?!」
だがそこには、誰かがいたという名残しか残っていない。
辺りを見渡す、横、どこにも居ない、ならと上を見る。
「正解だ」
殺意、魔力を消し、存在すらも消すくらい薄くする。影の如く、そこにはあるが意識して見ようとはしない、そんなものになる。
彼女が月の夜に紅く輝くのなら俺は、
「月の夜の光を黒く染め上げてやるよ」
光があれば影がある、陰と陽の関係。月の光には似合わない黒いナニカ、「俺」が空気を蹴り一気に彼女に向かっていく。
「────っ!」
避けようとする、この状況、決めに来るだろうと察している、くらえば負ける、なら逃げるのが定石だ。
だがそんなことは許さない、
「右手、右足、ちょっと遊んでこい」
仕掛けてあった右足と右足が地面から出てくる、意表を突かれた攻撃に応戦をする、だがこの瞬間、これが詰みとなった。
避けられない状況を作り、そして。
「1音 轟音」
本気の音でジャストで仕留めた、耐え切ることも出来ずにそのまま吹き飛んでいった。3つ4つ家を弾丸の如く貫いて石で作られたコウ家の壁に激突。そして気絶した。
「わりーな俺は上級者向きのモードだ、まだお前には早かったってことだ」
と言い俺は黒い何かを心の底に閉じ込める、
「────────っ!!!」
血を吐くような痛みが胸を襲った、心臓に杭を打ち付けられている様な痛みが襲う、今までならこんなことはなかったはずだ。
「なんだ今更になって副作用でも出てきたのかよ⋯⋯」
痛みを堪えカグラの元に近づく。
「全身打撲、肋骨全て骨折、肩脱臼、両腕粉砕骨折、両足骨折⋯⋯右に関しては複雑骨折か、なるほど」
俺は撥を彼女の胸に当てる。
「音よ、その身に授かった能力でこの者に祝福を与えたまえ、『音の祝福』」
音を静かに鳴らす、その音は水面に雫が1滴流れ落ちた時に出来る波紋の様に体に響き渡った。数秒後にその音は彼女の骨折や打撲、多々の怪我を治し、癒した。
「暫くはまだ寝てるだろう、まあ茶屋で茶でも飲みながら起きるの待つか」
軽い体、これがあの攻撃をしてきたとは思えない、彼女がまだ幼いということを表していた。
「しっかしまあ、俺も派手にやられたもんだ」
肋骨2本と数箇所打撲、全身余すことなく今は痛みが走っている。
俺は自分にも音を鳴らし体を癒す。
そしてそこでふと疑問に思った、今戦ったことをフラッシュバックし、周りの惨劇に等しい無残に崩れ、倒れ、壊れている建物を見た。これだけを見たら黒魔道教の司祭と一国の騎士団の戦いに等しい。さあ俺はこれを見て何を思う、そんなの決まっている。声に出して叫びたいほどの思いをここにぶつける。
「なんで戦ってたんだろ?」
⋯⋯⋯⋯滑稽か? 意味がわからないか? ああそうとも俺だってわからない。だってここまでの流れを考えてみろ。
来て、茶を飲んで、バトル。
どー足掻いても可笑しいでしょ。
いや動機はあったよ確かに、でもさ、
「やるなら最後にしようぜ」
宿で一泊もしていない人にいきなり戦いたがるって、何処ぞの戦闘民族ですか? いや戦闘民族でも引くよそれ。
1人でツッコミを入れているが何とも虚しいものだ、まあ過ぎたことと言えばそうだから気にしないでおこう。
「────ん? うう⋯⋯」
少し唸り声を上げながらお目覚めの時間になった。
「よう、起きたか?」
眠たそうに目を擦って視界がぼやけているのだろうじーっと俺を見てピントを合わせている。
そして俺に気付くや否や、唸り声を出し、また襲いかかろうとしてきた。
「おい、勝負は終わったぞ」
目の前の惨劇と記憶を辿り負けたことを思い出している。
思い出した時少し俯いて、
「負けたのか⋯⋯」
「ああ、そうだ」
認めたくない現実も受け止めなければならない時はある、彼女にとってそれがこの時、『2度の敗北』という現実だ。
だが現実というものは残酷だ、見たくないものを見させられ、聞きたくないものを聞き、感じたくないものを感じてしまう。虚しくもそこに強制力が働き俺達が抵抗することは出来ない。
何ともまあ
「馬鹿げたものだ」
そう一言呟いてしまった。
横にいる彼女を見ると、表情は髪に隠れて見えないが頬をつたる1粒の雫が見えた。
悔しさ、募る感情が色々あるだろう、一身にそれを受け止めることが出来ればそれは凄い人間だ、凄い生物だ。だがそれを受け止めきれない、だからこそ人は、生物は強くなる。それを受け止めようと頑張るからだ。
「カグラ、1つ教えてやろう」
俺はそれを見上げ月を見て。
「この世の中には、努力ってもんがある、それは今お前が積み上げてきたものだろう、でもな、努力をしたって報われるとは限らない、天才や超人的な才能を持ち合わせているやつに凡人は勝てない」
残酷だがこれがこの世界のルール、この世界における万人に共通する理だ。
カグラは唇を噛み締めて悔しげな表情を浮かべている。
「過程は結果の道具にもならない、結果よりも過程を重視するやつはそれは馬鹿っていう」
「クレナは言ってた、「過程ってのは結果を得るための道具や、これが大事なんやで」って言ってた!」
「ああ、それは馬鹿の考えだ」
「────っ! ふざけんな!」
殴られた、思いっきり右の頬を。
言い過ぎか? 何もそこまで言う必要が無いってか? 馬鹿か、結果より過程が大切ってか? なら努力をしてモンスターにやられてもそれが立派と言えるか? 言えないね、何故か? 死んだからさ。
これが結果論、結果勝てばいい。どんなに泥臭く、汚い手でも勝てばいいんだよ、それが勝利となる、勝利することにこの世界は意義がある。それを得るのなら過程を話すな、結果を話せ。
でもそれでも忘れてはいけないものがある。
「過程を重視する、それは馬鹿な考えだ、だがそれでもだ忘れてはいけないものがある、いいかここからが重要なことだ」
「過程に誇りを持て、結果論で片付くこの世界、過程に意味は無い、意義など見い出せない、だがな、どんな努力でも、自分が、自分の意思がやった事だ、自分の行いに誇りを持てない戦士など、戦士と呼べない。真の戦士は、自分の行いに誇りを持ち、それを重視もしなければ軽視もしない、だからな誇りだけは持て」
過程に誇りを持てない戦士など
「阿呆に等しい」
「馬鹿より阿呆はダメだ、いいな分かったか」
そう告げ、俺は横になる。
「シリュウ? どうした?」
不思議そうに問いかけてきた。
「どうしたって、眠たいから少し寝る、そんだけだ」
戦いで疲れたから少しばかり眠たくなってきた。ここは攻め込まれることなんてほとんどないし、攻め込まれてもある程度の相手ならうちの化け物と向こうの化け物が倒してくれる。
と、そう考えているともう────ねむ────た⋯⋯。
意識は途絶え現実の五感は一切働かなくなった。
カグラに膝枕されていてそれが美穂にバレて殴られたのは後の話。
次回は美穂対クレナです。




