第1章 第41話 序章 唐紅の夜の神
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勝負を挑まれた、俺はそれに応える義務がある、何故かって? 前にも言っただろ約束すっぽかしたんだから。
「やらかしたなー」
我ながら約束を忘れるなんてよくもまあそんな阿呆みたいな事が出来たなと思う。それにあんなに意気揚々と宣戦布告されたら嫌でも受けなければならないという義務感も感じてしまう。
まあここに来たら否が応でも1回は戦いをするとは思っていた、なんでかって? ほらあの人達客人に帰り際喧嘩売る奴らだぜそんな獣みたいな奴らが再戦を申し込まない道理なんて無いはずだ。そう考えると案外俺自身も奴らも脳筋なのではないかと思ってきた。
「脳にまで筋肉ついたら困るな⋯⋯」
仕方が無い、あれだけ戦ったり周りに強い奴がいたら脳味噌に筋肉ついても可笑しくはない。
まあこんな事今はどうでもいい、俺の脳味噌に筋肉つこうがあの後ろにいる3人の 仲間(筋肉野郎) には勝てないからな。
「さてさてどうしようかなこの状況は?!」
跡つけていたの気づかれてなかったと思っていたのか思いっきり肩をビクン! と上げて「あはは⋯⋯」と笑いながら出てきた。
「付けてきた理由は?」
ハルに聞く
「面白そうな事起きそうだったから」
な、脳味噌にまで筋肉ついてるだろ、俺は団長として心配だよ⋯⋯。プレアに聞いたらいつも通りハルが行ったからと言った、まあいつも通りか⋯⋯。
さて問題はこの俺が目を合わせようとすると必死で逸らす美穂さんや。
「⋯⋯仕方が無い⋯⋯」
「ほお仕方が無いと」
「志龍だけずるいと思ったから、美味しい店に行くと思ったから⋯⋯」
ふむ、よく分かった、「こいつ勘違いしてるぞ!!」俺が料亭何かに行くと勘違いしている、うん行かないよ、行く道理も無いしな。
「あんな、料亭とかは行かないぞ、喧嘩みたいなもんをしに行くだけだ」
「喧嘩?!」
とハルが意気揚々と叫ぶもんだから皆がこちらを向く、俺はハルを静止させて場所を変えることにした。
「────という訳だ分かったか食いしん坊」
「うっさいわね!」
顔を赤くして怒鳴る、恥ずかしいだろうなー勘違いは、他二人は戦えると思って今か今かとテンションを上げている。でも4人も一変に戦えるかと言ったら無理があると思う、恐らくだが来てカグラとクレナさんだろう、2人しか来ない、4対2、圧倒的にあっちが不利だろう、若しかしたらあの爺さんが⋯⋯いやそれは無いだろう。それでも4対3だしな。
まあ向かって人数が合わなかったら2人若しくは1人を抜けさせれば問題無しだ。
「いいか、1つ言っておく事がある、あいつらは強い、恐らくだが戦った中では一二を争う強さだろ、俺と同じ狂化を使う」
「あれをか⋯⋯」
ハルは苦い思い出を思い出したように言葉をすり潰しながらだした。
「そう、そんでもって相手は獣、戦闘能力、基本的な能力はあっちの方が上だろう」
事実、音を超えるスピードにも奴らは着いてくる、動体視力なんて人間の比じゃない。比べてはならない存在だ、それが波であれば並であればの話だがな。
「それでも勝つのは俺達だよな?」
3人は笑う、スピードがどうした? 戦闘能力がどうした? こちとら場を幾千と乗り越えてきている、それぞれがそれぞれの絶望を味わっている、
「人生経験豊富なお兄さん達が教えてやるよ基礎能力の範疇では収まらないものってもんをよ」
笑う、嗤う、呵う、阿鼻叫喚の苦悩を味わい、苦楽を共にした者達が笑っている。
「んじゃあまあ向かうぞ」
「よっしゃー!」
「やったーなのですよー」
「はあここまで来てまた戦うの⋯⋯」
それぞれの思いを胸に抱いて月詠の番人達に挑みに行く、その背中は語るものが多すぎるくらい大きく強かった。
コウ家に着いて俺達は地下に通された、地下には上で見た景色と同じ景色が広がっていた。一度見た光景だからこそ驚きは薄いが初めて見た3人は辺りを見渡して「すごい⋯⋯」と一言漏らしていた。
「あらまぁ、皆はんきゃったんやねー」
色気のある声がした、上にもあるコウ家の屋根の上に2人が居た、方や酒を飲んで落ち着いていて方や今にも襲いかかってきそうだ、まさに正反対この微妙なバランスがあるからこそまだカグラは襲いかかってこないのだろう。
「すまんな人数がちと増えてしまった」
「4人も怖いわー、うちら2人やで勘弁してや」
酒を飲みながら助けを乞う様にそう言った、だがその声には焦りなど一切無くまるで読んでいたかのような口振りでもあった、俺もここでかまをかける。
「おいおい、そんなこと言わんでくれよ、それにあんた後何人連れてきた?」
「ふふ」と上から見下げるように笑って
「ほんま志龍はんにはかなわんわーほらでてきー」
門の前に2つの人影が、
「丁度四人なるように連れてきたんよー」
「ほっほーまじかよ」
「志龍様、御無礼は承知、ですが戦いは避けられんでしょう、それに我々は一度負けている
猿に二度と負けたくは無いのですよクソッタレ」
自分より長い太刀をもってそう語る爺さんが居た、ああ、予想が当たったようで外れたな。
だがそれ以上の驚きはあっちだ
「すいませんね志龍さん、でもこうなったのも運命なのかな?」
「餓鬼が運命語ってんじゃねーよ、しかしお前が敵とは世界って広いんだな」
「名乗ってませんでしたねこっちでは、初めまして、コウ家御庭番さえと申します、以後お見知りおきを」
「いや見知ってるけどな」
「そこは突っ込まないお約束ですー」
と頬を膨らませ少し怒り口調で言った、だがなんか⋯⋯その⋯⋯
「雰囲気変わったな」
大人しそうだったのが180度変わって元気いっぱいの少女の様になっている、それを聞くと少し恥ずかしそうに
「まあ元はこっちで、あっちの性格は作っているって感じですかね」
「成程⋯⋯こっちの方がいいんじゃないか?」
明るくて俺はこっちの方が好きだ。
「え? そ、そうですか⋯⋯ありがとうございます」
驚いてタジタジとしていた、そこにいつの間にか降りてきたクレナさんとカグラが横に並んで
「はいはいお喋りはここまで、本題はこっからなんやさかいに」
「そうだ、早く戦うぞ志龍」
「はいはい」
俺達も近くまで行き横一列に並ぶ、戦いたいやつの元に並んだ、
「ほぉ、決めんで済むな戦う相手を」
「こちらもそれで悩まなくて済んで良かった」
「んでこれでええんやな戦う相手は」
志龍対カグラ
美穂対クレナ
ハル対サルワ
プレア対さえ
「いいに決まってるだろ」
「まあそれもそうやなこれがベストやろうし」
お互いがお互いを睨み合い笑い合っている。
「やるかカグラ?」
「ぶっ飛ばす!」
「少し遊んだるわお嬢ちゃん」
「餓鬼呼ばわりは嫌いなのよお・ば・さ・ん」
「良い太刀だ、面白い戦いができそうだ!」
「はっは、猿の戯れ言には耳を貸しませんが同じ剣士として耳を傾けましょう」
「さて私は幾千、幾万もの武器を所持しています、どれで戦いましょうか?」
「んー? 贋作の鉄塊では勝てないのですよー」
煽りあう、お互いがそれに反応し合う、火花とともに滲み出ているのは殺意、オーラのような殺意はお互い激流の様に相手を呑み込もうとする、それがぶつかり合っている。
「さてそれじゃあ! 始めようか!」
戦う相手同士で場所を決めて離れる。
今から始まるのはルール無用のただの喧嘩殺してはダメだが相手を極限までぶっ倒す、言わば闘技と同じだ。
胸の鼓動が聞こえる、熱く脈を打っている、酸素を取り込む、これからは殆ど無酸素運動強いられる戦いだ、今のうちに酸素を血液中に取り込ませておく。脳からは大量のアドレナリンが出ている感覚に襲われている、まだ怪我もしていないのにだ。そして顔は笑っている。
向こうを見るとカグラも
「なんだ笑ってんじゃねーか」
こんな楽しみな戦い久しぶりだ。
土を踏みしめる、一気に加速するために指先に力を込める、上半身はリラックスし下半身に力を集める、集めた力を100%発揮する為に下半身の力を貯めつつ抜く。
そして刻一刻と時間が迫っている、時計の針の音が聞こえる、カチカチと音を鳴らしている、そして最後一際大きく聞こえたカチッという音と「パン!」と発砲音の後にスタートを切って戦いの幕が切って落とされた。
「志龍!」
拳が飛んできた、それを俺は避けてカウンターを顎に決める、だがカグラは空気を踏みしめて後ろに飛んで逃げた、久しぶりだ物理限界を超えたやつと戦うのは。
深い紅い色に染まったその目と髪は美しく秋の紅葉をも彷彿とさせる。そして紅葉の染まった葉が一枚、ゆっくりと地面に降りていくように、だが葉から落ちていく雫のように早くその動きには繊細さを感じる。拳1発、蹴り1つにしても前よりも遥かに鋭い。
「前とは遥かにレベルが違う動き!」
大胆な猛獣の様に、だがその中に夜の様な美しさ、そして繊細さが感じられる、遥かに攻めにくく桁違いの強さを誇るようになった。
その姿はまるで夜を守る神のように見える。
だが、それでも埋められない差というものがある、確かに尋常じゃないスピードで成長を遂げている、でも彼女よりはスピードは遅いかもしれないが俺も
「成長はしてんだよ」
飛んでくる無数の拳を見切って俺は脇腹に撥を当て押し込む
「1音 打音」
手応えあり、彼女をしっかりと捉えている、だが次の瞬間、空気を彼女は蹴り後ろへと逃げていく、そして自らを地面に叩きつける、だが衝撃を分散させるように少しずつ地面と体を叩きつけ合う、殆どのダメージを地面に吸収させて自分はほぼ無傷。その姿を見ると俺は彼女は戦いというものを知る様になってきたと感じた。
「厄介だなー」
天賦の才を持つ彼女が戦いというものを知り学べばそれは天下一に等しい力をつけることになる、鬼に金棒ならぬ獣に知識だ。
「成程なっと」
俺は目を閉じる、そして狂人化になる、そして告げる。
「カグラ、成長したな」
「当たり前だ、強くなりたいから」
「いいねその心意気、その負けず嫌い、強者の証だ」
「でもまだだ」
少し俯いて俺をしっかりと見据えて
「志龍、お前に勝ってない」
俺に勝たないことには強者ではない、彼女なりの強者へのこだわりだろう。自分が目標とする者に勝って初めて強者と名乗る、猛きもののみが持つ至高に等しい勝利の美徳、まさに夜を守る神に相応しい存在だ、でも俺は告げよう
「それで、俺に勝つ気?」
「当たり前だ」
と答える、当たり前の答えだが決意がある、だがまだだ、
「まだお前が俺に勝てる道理なんて一片たりともない」
それに
「こっからはハードモードだ、良い子はねんねしてろ心ごと捻ってぶっ飛ばしてやっからよ」
「知るか、すぐに倒してやる!」
唐紅の瞳から獣のような獰猛な眼光が出ている、月詠を守る番人が高々と吠える、その獰猛さは普通なら畏怖をも抱かせるものだ、王者の威厳、風格を持ち合わせ月詠の夜に紅く輝いていた。
さて次回は志龍編となっています、美穂やハル、プレア編はその後となっています。
尋常じゃないスピードで成長を遂げているカグラ、その力を次回、とくとご覧ください!
それでは次回までドロン!




