第1章 第38話 月詠の獣人族編 夜の終い、戦いの始まり
いつも見てくださっている皆さんには本当に感謝しています。
気がついたら私は布団の中にいた、天井の木の木目が見える、つい先程までの景色とは全然違う景色になっている、ここは何処だ。
「お、やっと気がついたか」
隣から声が聞こえる、男の声で少し聞き慣れている。
「志龍はん⋯⋯」
「まだ大丈夫そうでは無いなっと、動くなよ怪我とかに触る」
怪我はしていなかったが疲れとかが一気に押し寄せて立とうと思った体を立たせてくれない
「重力が倍以上になった気分やわ」
「疲れたらみんなそうなんのよ、俺も何度もその感覚に襲われた事があるしな」
と月を見ながら志龍はんは語る、血にまみれた世界に腰を下ろした、彼にのしかかっているのは疲れだけじゃない戦った人達の血が、死体が無数の影となり彼に柵付く、考えただけで恐ろしい。
「なあクレナさん血ってどんな味がすると思う?」
「? なんや唐突な質問やね」
志龍はんは「ははっ」と軽く笑って
「どうだと思う?」
「鉄の味って聞くなぁ」
「正解」と言って私の隣に座った、少し距離が近いんじゃないかな
「とは言っても俺達は鉄の味って知らねーんだよな」
寝転んでそう言う
「血ってな不気味な味がするんだよ、生臭くって不味いし二度と飲みたくない味だし、おまけに」
少し表情を曇らせて
「大体その目の前には絶望が転がっているんだよ」
死体の山でも思い出したかのようなそんな苦しい表情をしていた。
「血にまみれた世界ってのはこういうのを言う、思い出したくもねえし未だに鎖みたいに柵ついてきやがる離したくてもその「事実」は正であり無かったことにする負には出来ない」
「⋯⋯」
言葉が出ない、なんてかければいいかなんて私の頭では考えられない、甘く見ていたその世界の扉が一気に分厚く立ち寄りたくもない監獄の様な異様な雰囲気に変わった。
「まあまだクレナさんとかにはそれは無い、選択はいつか迫られるものだが気をつけて選択してくれよ」
「⋯⋯志龍はんは間違えたと思ってるの?」
これだけ私にその話をする、まるで自分が私達の反面教師であるかの様な話し方、そして後悔を含んでいる様に感じ取れた。
「ん? 俺か? 別に間違っちゃいねーって思ってるぜ」
これには私も驚いた、私の表情を汲み取ったのだろ「でも」と続き
「決して俺自身もそれが最善とは思ってねーよ」
「間違っていることだらけだろ、でも自分が選んだんだったら意思を貫かないとダメだそれが選んだ道なんだからな」
「⋯⋯」
私は数年前あの子にカグラに全てを負わせて逃げていた、自分じゃどうにもならない不安、そして恐怖に怯え投げ出した、阿呆やと思う、でも仕方が無いって自分で割り切るしか無かった、逃げたという事実も仕方が無いってことでずっと割り切っていた。
でもこの人は違った自分が選択した道に責任をもっている彼がもし女でこの職に着いたとしても私とは真反対のことになっていただろう逃げ出さずにまとめあげる、私ができなかったことだ。
「ほんに阿呆やなうちは」
思わず漏れてしまった本音咄嗟に顔を伏せた、彼にあわす顔が無いし私は今の情けない表情を志龍はんに見せたくなかった。
「逃げてばっかいて、なんにもカグラに返すことが出来へん、最低な姉やわ」
「え? カグラの姉⋯⋯」
そう言えば話してなかったっけ
「うちとカグラを産んでくれたのは11代当主のミカヅキ、まあうちらの母やね」
母に最後に言われた言葉を今でも覚えている、
「逃げちゃ行かんよ、カグラを、この月詠の夜を守るんはあんたやからね、
でも気張りすぎてもあかんで、あんたは大切なうちの娘やからね」
その言いつけが守れなかった、そして私は最近墓参りも行けない、母に合わせる顔が無い、それに臆病になっているからだ。
まだ情けない顔をしている、顔が上げられないどうすればいいのか全くわからない逃げ出したいこの空間から、この現状から逃げ出し⋯⋯
「チョーパン!」
「?!」
いきなり頭をチョップされた、少し涙目になりながら私は志龍を見て
「何するんや?」
「今逃げようとか思ってただろ」
「それは⋯⋯」
核心を突かれた、顔に出ていたのだろう私は奥歯を噛み締めて
「しゃーないやろ! 私は逃げてばっかで色んなもんを失ってるんや! もう逃げるしかないねん!」
逃げるしか私は私を肯定出来ない、
「今更落としたもんを拾えってそれこそが阿呆や! 無理なんや、もう落としたんやから⋯⋯」
下唇を噛み締める、口の中に血の味が広がる、不味い、不気味な味がする、彼を見たくない、
「まだだよ」
「え?」
「まだ何も始まっても終わってもいねーよ」
私の頭を撫でながらそう言ってくれた、
「逃げてもお前の元にはまだ人はいる、大切な人達もいる、だから何も終わっちゃいねーよ
1人で勝手にそう思っているだけだ、それに」
と私を本気で睨んで
「あの子の前でまた逃げるってのか? 冗談はよしてくれよ」
カグラの顔が浮かぶ、どんな時も逃げずに戦ってきた彼女の顔が、そして涙が出てきた、情けない、カグラを思い涙が溢れる、
「ほら、まだあんたは終わっちゃいねーよ、それに行ってこい、あの子がお前を待ってるぜ」
襖を開ける、そこで私を待ってくれている妹が居た、疲れ果てて寝てはいるが待ってくれていた、
「カグラ⋯⋯」
泣いて、泣いて、カグラに抱きついて、
「ごめんね⋯⋯」
今までの全てを謝った。
心なしか彼女、カグラの頬にも涙が伝っていた。
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少し時間は過ぎて。
さて、もうすっかり遅い時間まで居てしまった、そろそろ帰らないと美穂が怒ってきそうだ。
「さて俺もそろそろ帰りますわ」
そう言うとクレナさんは
「えらい早いお帰りで」
と笑っていた
「結構長居したつもりなんですがね」
「ふふ嘘ですよだいぶ長居してもらったお陰で結構楽しませてもらいましたわ」
「ええ、俺も楽しめました」
「また来てくれはりますか?」
優しい目でこちらを見ながらそう聞く、俺はもちろん
「また遊びにこさせてもらいますよ」
笑顔になって
「そん時はよろしゅう頼んます」
さてそろそろ本当にお暇させて貰おうか
「ではまたいつか会いましょう」
「ええ」
と俺は屋敷から出る、その前にまた
「手土産無しには帰られませんでしょ」
とクレナさんに1ついい情報を貰った。
その情報は今後の俺にとてつもないキーワードとなりうる可能性があるものだった。
「さて、夜は終いにするか」
と俺は元の世界に戻る。
元の世界はもう夜になっていた、時間を見るともう少しで転移が出来なくなる時間に差し掛かってきた、俺は音速で街の付近まで行ってそこから転移し第1の世界に戻ってきた。
家に着いたのは11時頃だった。
⋯⋯さて、家の前にいるのだが中から禍々しいオーラが出ている、
「はは、こりゃまずいな」
意を決して家の中に入ると同時にテレビのリモコンが顔に飛んできた
「いってー! 美穂さんこれはな⋯⋯いでございましょうか⋯⋯」
鬼も泣き目になるくらいの怖い顔になっていた、後ろからはなんかオーラが出ている、うんどす黒い人を殺せるようなオーラが
「さて、遅くなった理由を詳しく話し合おうではないか」
「い、いやー明日も早いからもう寝たいなーなんちゃって」
「なーに言ってんよ、夜はまだここからじゃない、今夜はある意味寝かせねーぞこの野郎」
「た、助けてください!」
家の中で俺は逃げ回り最終的には3時間の説教を受けてこの不思議な夜は終わった。
──さて時は現在に戻り学園前──
「こーいうことがあったんだよ」
俺は3人にあったことを全て話した、そこで得た最強の情報はまだだが
「そんな事があったの⋯⋯」
「まじか⋯⋯」
「夜の国⋯⋯」
3人で顔を合わせていた、
「まあこんな事があったってだけだ本題はここからだ」
俺は彼女から聞いたことを話す
「この月詠の夜、ここには色んな情報が入ってくるらしい、今の世界はどうなっているとか、表向きには出せない情報とかも入ってくるらしい」
「? それがどうかしたのか?」
感の悪いハルはそう言うが美穂はもう気がついた
「黒魔道教の居場所」
「正解だ、そう、黒魔道教の情報も入ってくるらしい、実際、彼女等から俺は仕入れた情報も幾つかある、全部正しい情報だった」
「じゃあ信用ができる情報って事?」
「そういう事だ、そして目的地はもう決まっている」
俺は第2の世界のゲートがある方面に指を指し
「第2の世界より月詠の夜に向かう、そして情報を仕入れて黒魔道教、怠惰の撃破、ここまでをする」
全員が息を飲んで俺の話を聞いていた
「こっからは戦争みたいなもんになるだろう、へましたら俺達が死ぬ可能性もある、そんな戦いになるだろう」
「逃げられないぞ」
少し脅しみたく俺は言う、3人には死んで欲しくない、俺のそんな思いがあるのだろう、でもみんな笑って
「誰が逃げるかよ」
「そうよ、逃げたって面白くないじゃない」
「そうなのですよー」
改めてこいつらが馬鹿だと思ったし、心底仲間でよかったと思っている。
俺は深呼吸して
「そんじゃ反撃といこうか!」
瓦礫の上に俺達は反撃の狼煙を上げる、4人の小さくも最強の魔導騎士団が血のように赤いローブを身に纏って怠惰に挑む。
さて次回からは怠惰を倒すための戦いと旅が始まります。
では次回までドロン!




