第1章 第37話 月詠の獣人族編 明けねえ夜は無い、だがここの夜は明けさせねえ
いつも見てくださっている皆さんには本当に感謝しています。
俺の一言に激情したのだろう、さっきよりももっと血相を変えて挑んでくる、その蹴り、その拳に怒りや今まで奥に貯めてきた思いが込められている。
「はっ、なんだ出来んじゃねーか」
さっきまでは感情を殺してただ倒すってだけの思いだった、それが今見てみろ、
「感情を思いっきり外に出して戦っている、いいね」
思わず微笑みたくなった、重いしがらみでも外したように、その動きは軽やかに、だが夜を守る王としての、神としてのその威厳、
「これが月詠ってか、おもしれーな」
夜を謳い 夜に生きていく その神や 月に詠と読み 月詠や。
いきなり、腹あたりに衝撃が走る、下を見てみればいつの間にそこに居たのかは分からないが赤紫の少女が俺の腹に拳を叩き込んでいた、
「んなぁ!」
思わず変な声を上げてしまった、いや上げずには居られない、何せいつこの攻撃を食らったのか俺にもわからないからだ。
音を超える速度、そして物理限界を超えるその力、もし彼女が私と同等なら負けていたかもしれない、だが違う、彼女は私と同等ではない。
ずっと殴られている、隙もない、だがそんな彼女が本の一瞬だけ息を吐いた、勝ったと思ったのだろうそれはNOだ。
瞬時に私はカグラを凍らせた、勿論表面だけをだ、だがこれで王手を取った。
「じゃあな」
氷を解く、後ろに回り込んで俺は後頭部の首の付け根に手刀を入れる、そして彼女は気を失う。
彼女はとても強い、年齢なんて2桁いっているかいかないかの狭間位だろう、それでこの国を背負っているんだろう、重圧、苦しみ、俺なら逃げ出してしまう、それでも彼女は、カグラは逃げ出さなかった、すげーよやっぱり。
「でもそれとこれとは別の話だ」
命を背負っている、それはある意味1種の戦いだ。
だがこの戦いとは全くの正反対の考えだ、自己より周り、これがカグラの戦い、でもこれは周りより自己、180°違う炎と水の関係だ。
重要ではあるが役割は真反対、そんな感じだ。
「そんでもって俺はその戦いに特化していた、だから勝てた、それに言ったよな経験だって」
まだまだそれでも幼い、戦いの経験なんて殆ど無いだろう、今やったのが最初の戦いかもしれない、俗に言う天才なのかもしれない。
でもこれだけ褒めたたえているがそこが足りなければ意味が無い。
「どれだけ予習復習を頭の中に叩き込んでも実戦はまるで違う、相手の動きなんて、魔法なんて教科書通りに行くわけがない、行く方が珍しいしそいつは素人だ、
何回も、何十回もその戦いの世界に身を置いて血にまみれて経験を重ねてやっと経験ってものが身に染みて足りてくる、そーいうもんだ」
俺は偽物ではあるが月を見ながらそう語る、彼女はまだ寝ているからこそ言える事だ、すると
「ええ事聞かせてもらいましたわ」
後ろを向く、月下の下でどこから持ち込んだのか盃に酒を注いで飲んでいる狐がいた。
「起きてたんですかクレナさん」
ニコリと笑って
「ええ、ついさっき戦いが終わる直前に」
あ、って事は聞かれていたのか⋯⋯なんか恥ずかしい。
「血の世界に身を置いた⋯⋯って言っとったね」
どこか遠くを見ながらそう呟いていた、俺は隣に座って
「ええ、随分と前から」
「そうけぇ、凄いな志龍はんは」
「凄くはないですよ」
身を置かざる負えなかった、それを見つけるためにはそこに死体が転がっていようともそこに座らなくてはならなくなったからだ。
「うちらもな、元々は血の世界の住人やったんやねん」
俺を見てそう語る、
「昔は獣人族やって言って奴隷としてよく誘拐されてたねん、そしてある時うちらは戦争を起こした、どんな種族でも相手にして戦争って呼べるもんを起こしたんや、血反吐はかせて吐いて、死んでいった奴らもようけおったわ」
何処と無く悲しそうに同胞の死を語っている、俺もその戦争は知っている、そしてその悲惨さも、それからだろう獣人族があんなふうに暮らしていけるようになったのもその悲惨があったからだろう、皮肉なもんだ。
「まあ昔の話やあまり気にせんでええで」
クレナさんも軽く笑って「切り替え切り替え」と言っていた。
「ほなら志龍はん、もう帰るけ?」
あ、戦いに夢中になっていて忘れていた、今何時だ?
「って、やべーなもう」
「送っていきましょか?」
「いやだいじょ────」
「たいへんです!」
扉を開けてうさぎ耳のした少女がここに入ってきた、その慌て様から少しどころでは無い騒ぎが起こっているのだろう。
「なんや? 何が起こった?」
クレナさんは冷静に彼女に問いかける、だが少し目には焦りがある。
「何でかは分からないですが人間とかが100人以上で私達の事を拉致しようとしてるのです!」
「なんやて!?」
流石に焦りの表情が顔に出る、そして
「場所教え! すぐに⋯⋯」
そのままその場に倒れ込む、さっきまでの疲労が溜まっているのだろうその場から一歩も動けない。
「く、くそ! 動けや!」
必死に足を動かそうとしているが動かない、その表情には涙が浮かんでいる、情けない、何をしているんだとそんな表情になっていく。
「何やねん⋯⋯動けや! この足よ! 頼む⋯⋯動いてくれ⋯⋯」
下唇を噛んで足を手で何度も何度も叩く、俺はそれを止めさせた
「止めてくれ情なんて」
「情はかけねえよ」
「なら構うなや」
「義理ってもんがある」
「なんじゃその義理って!」
「この街を守ることだ」
俺はいつも持ち合わせている魔導騎士団のローブを着る、俺はうさぎ耳の少女に
「場所はどこや?」
「外でたらすぐ⋯⋯」
「ありがとう」
俺は一度息を吸って吐く、
「音速」
音の速度で俺は彼女等の元へ向かう。
「ほらさっさとつめ! でも傷はつけんなよ商品は大事やからな」
商品として私はその車に積まれた、沢山の獣人族が捕まって今から奴隷として売るために裏市場に出される、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、自然と涙が出てくる、
「誰か助けて⋯⋯」
か細くもその声は届いた。
「な、なんやお前は?!」
颯爽とそこに現れたのは赤いローブに身を纏い、黒い撥を持った白髪の少年だった。
「御用改めお控えなすってよ、
あっしはこの月詠に仁義と義理を通し、その恩を返すためにやってきた者でなは光希 志龍ともおすもんでございやす、さてお縄にかかれカス共が」
前にいた2人程を俺は薙ぎ倒す、驚いた表情をしているところに俺は撥を向けて
「どんな所でもお天道様は光る、そしてどんな所でも明けねえ夜は無い、だがな、ここの夜だけは明けさせねえ」
少し小太りのボスらしき男が俺を見て笑って
「ガキ一人に何が出来るってんだよ、こっちは精鋭ぞろいだ逃げるなら今のうちやぞ」
「逃げる?」
迫ってきた5人程を俺は
「5音 射音」
撥を5回鳴らす、5人は吹っ飛んでその場で倒れた
「おいおい冗談はよせよ、誰が逃げるって?」
小太りの男は俺を睨んで、
「積み荷の彼女等を下ろしてさっさと逃げた方が身の為ってやつだぜ」
俺の舐めた態度に顔を真っ赤にして
「野郎共、この糞ガキを殺してしまえ!」
一斉に襲いかかってくる、俺は右手の撥で
「気品さが足りねーよもっとクールにいこうぜ
1音 轟音」
轟く音は彼等を空彼方に吹き飛ばした、
「さて、残りはお前だけだが、今なら自首したら許してやるよ」
向こうは額に冷や汗を滲ませていた、すると一瞬だけ目を逸らした、そして
「そ、そこから動くんじゃねえ!」
「きゃぁぁ!!」
少女を1人首にナイフを当てて人質に取った。
「動いたら殺すからな!」
あ、こいつ完全に殺る気だわ、目がもうイッてしまっている。
このままでは本当に彼女のことを殺しかねない、俺は足元に魔力を集中させる、そして
「俺は動かねえよ」
と一言言って俺は魔力を放出させる、奴を完全に凍らせて俺は彼女を救い出す。
「よっと、怪我はねえか?」
「は、はいありがとうございます」
少し心なしか頬を赤らめていた、俺は他の人達の縄を解く、怪我はみんな無さそうだった
「あ、ありがとう」
皆から涙ながらに感謝された、俺は頭を撫でて
「なーにも礼を言われることしてねーよ、誰かがピンチの時に助けない奴なんて男じゃねーからな」
そう言って、一応俺は魔力の確認をする、周りにもう敵はいないか、その確認をする
「もう居なさそうだ⋯⋯って! くそ!」
虚をつかれた、完全に不覚だった、いやもしかしたらここまでが相手の計算だったのかもしれない
「くそったれ! 手は出させねーぞ!」
地下に1人敵が居た。
情けなかった、この場で立てないこと、何も守れなかったこと、そしてあの子に全ての責任を押し付けたこと。
「ほんまに阿呆やわうちは」
数年前にカグラに王の座を譲った、何故か私にはその資格がなかったと感じたのと逃げたかったからだ。
嫌だった全部の命と責任を負うと言うのは叫びたくなるくらいにプレッシャー、恐怖、息が詰まる、気が狂いそうになる、そして私はその責任から逃げ出した。
実に怠惰だ、愚かだ、愚者と言っても過言ではない、
「お、いたいた」
「っ!?」
誰かが来た、1人男が、志龍では無い敵が来た。
「な、何んしに来た!」
「見たまんまだよ仕事だよ仕事、あんたとあの子を捕まえるっていう仕事、
売り飛ばしたらあんたらやったら結構値がはるらしいしな」
売り飛ばす、その一言に恐怖を覚えた、逃げたい、逃げたい、助けて、と涙が出そうになった、ふと私はカグラを見た、まだ起きてはいなかった
「カグラならここでは逃げてなかったやろうな」
立てない体を無理やり立てる、足は痙攣をして生まれたての小鹿見たく覚束無い。
「なんだやる気か?」
と向こうも戦闘態勢に入った、私はもう逃げない、あの子を守るために!
「はぁぁぁぁぁ!!」
「ちっ! おらぁ!」
右から拳が飛んでくる、もう避ける気力もなかった、でもせめて、せめて
「カグラが助かれば⋯⋯」
そう思って顔に拳が入る、その手前に
「よくやった」
その誘拐犯は吹き飛んで目の前には志龍が居た。
「よかった⋯⋯」
カグラがこれで大丈夫だ、そう思うと力が急に抜けて私の意識は夜の様な暗闇の中に消えていった。
次回で回想編は終了です。
次回までドロン!




