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第1章 第36話 月読の獣人族編 狂化VS狂人化、法則無視の戦い

いつも読んで下さっている皆さんには本当に感謝しております。

 狂化、古来より獣人族のみが使える力、物理、魔法の限界があるこの世界の壁をも超える暴論に等しいチートだ。

 獣人族と言えどもこれを使えるのは極一部、1握りしか居ない、ましてや人間が使えるような技では決して無い。


「童如きがうちを止めるとは驚いたで」


 赤い髪はその紅さをいっそう増し、瞳孔は思いっきり目開き、紅の赤さに染まっていた。


「これが狂化か初めて見た」


 まさに獣、先ほどまでは夜の蝶見たく美しい存在であった、今はライオンの様な獣、いや魔獣に等しいだろう。


「うちらもこれ使うん結構疲れんねん、血が沸騰する感覚やし終わったら体のあちこちがいたなるし」


 ため息混じりにそう語る、確かに血や体の水分が、その世界の法則をも凌駕する筋肉運動に使うために暴走させてそしてオーバーヒートしないために蒸発させる、その煙が今言ったことの全てを語っている。


「オーラみたいだな」


「狂化って言われてる原因の1つはこれでもあるかんね、

 昔、この状態の名がない時にこの状態で狂っているくらい暴れた獣人族がいたそうやねん、その煙を纏い暴れ回った、

 それを見て他の種族とかが狂化って言い始めたんや」


 狂化を解いて語る、流石に無駄話に体力は使ってられないと思ったのだろう。


「まあ今は関係ないけどな」


 苦笑いをしながら言う、そして


「始めるで」


「ああ、いいぜ」


 俺がオッケーを出した瞬間、目の前に10人くらいの獣人族が出てきた、隠れていたのだろう、少しずつ、少しずつバレないように近づいてきて、目の前に現れてきた。


「まだ君らは狂化は出来ねーんだな」


「うらぁぁぁぁぁ!!」


 一斉に俺を覆い隠すように襲ってきた、俺は滑り込むようにして横から抜け出して撥で


「半音 打音」


 弱く、弱く、彼女達の首裏を叩く、力だ抜けたようにその場に落ちていく、


「強いね」


「生憎、女性はあまり傷つけたくない主義でね」


 まだ俺は彼女等を戦士や敵とは思っていない、だから


「すぐに片付けさせてもらう」


「己が片付けられるんやで童!」


「音速」


 音の速度で彼女の後ろに回り込む、右手に持った撥で彼女をロックオンし


「1音 射音」


 殆ど自分との間の距離は無い、秒速320mの音による攻撃、避けられる訳がない、


「常人ならの話やけどね」


 そう、これはまだ物理の中に収まっている話、彼女に当たるわけもなかった、右に避けてそのまま全体重を右手に乗せる、カポエラみたいに体の捻りとそして持ち前の身体能力で右足で俺の左脇腹に蹴りを入れる。


「これならどうや?」


「いいぜ、1音 打音」


 俺は左手の撥で応戦する、両者当たった瞬間空気が鳴り響き周りに衝撃が走る、天地をも裂いてしまいそうな勢いだ。


「っ!」


 クレナさんは足を抑え倒れ込む、どうやらあの衝撃と俺の攻撃で足をやってしまったのだろう。

 だがそれは俺も同じだ。


「うぐっ!」


 強烈な一撃、向こうにも相当なダメージはいっているみたいだがこちらもだ、左手が痺れている。

 足じゃなくて良かったとシンプルに思っている。

 クレナさんは右足はまだ震えているが何とか立った。

 だが向こうは体力が切れてきたのだろう、息が荒い。

 それもそうだろう、あの力は無理矢理自分の能力を高めている、だが体力とかそんな所までは高められない、あくまで筋肉運動の力に特化したものだけを高めることが出来る、そんな力で長く続くわけがない、燃費の悪いがとても早い車と同じだ。


「ようやってくれおったのぉ童」


 息は切れているがその目はまだ死んではいなかった、でもそれでも


「もう実力はハッキリしていますよ、クレナさん、負けを認めるのをお勧めします」


 正直狂化を使われても勝てる気しかしない、まだ俺自身引き出しはいくらでもある、それに足をやってしまった時点で殆ど勝負はありだ。

 負けを認めるように促す、だがそれを聞いて彼女は笑い出した。


「ほんにおもろいこと言うな童」


 と腹を抱えて笑う、俺は何故笑っているのか意味がわからなかった。


「童、今から言うことよう聞いときや」


 優しく聞くように俺に促した、俺は首を縦に振ってそれに応える。


「女狐やから言うて舐め腐ったらあかんぞ、童如きが何が「負けを認めろ」や、しばいたろうけ? 勝負挑んだんはうちらや、そろそろその態度変えてもらわな」


 雰囲気がガラリと変わる、ああ、分かった、俺が本当に馬鹿だということが、そしてその馬鹿のせいで獣を本気で怒らせたということが。


「うちもカグラに合わせる顔が無いねん」


 そう言って俺から距離を取る、少しではない、遠くに遠くに、俺が見えるか見えないかのそれくらい遠くに行った。


「ほんでもう1つ教えといたるわ」


「後味悪いと3代後まで祟るぞ」


「その時は坊主の念仏でも聞いときますわ」


 訂正をしよう、彼女は女性では無い、美穂と──と同じ戦士だ。

 この人には無礼はできない、全力で


「叩き潰す」


 夜の大一番、ここに始まり間もなく終わりを迎える。


 静かだ、さっきの合図から数秒何事も無い、嵐の前の静けさか、もしくは終わってしまったのか、まあ百、前者の方だろう。


「────! ────ん! ────どん!」


 何か音が聞こえる、どこからか分からないが突如として音が⋯⋯分かった


「そこに居たのかよ」


 上を見上げる、作られた月ではあるがそこに影が出来る、美しく気品高い月を守る番人のように現れた。


「物理法則さーん仕事忘れてますよ」


 思わず苦笑いをしてしまった、空間に壁があるのでは? 踏み場でもあるんじゃないか? そう思わざる負えない、重力という圧倒的なこの星という力を強引に、単純な『力』だけで制圧した。


「おいおい、三段ジャンプはヒゲの世界だけにしてくれよ」


 冷や汗が滲み出てくる、今すぐ俺は物理の教科書を投げ捨てに行きたい気分だ、そんな物が通用するかって言って。


「さて、童知ってるか? 空間浮遊魔法による移動速度の最高は?」


「空気抵抗、魔法的要因を含めて限界は243km/h」


 クレナさんはニコリと笑って


「正解や、よう勉強してはるね」


 褒めてはくれたが、俺からしたらこれが分からなかったら切腹でも何でもしてやるよって言うくらいのものだ


「それがどうしたんですか?」


「空を飛んでいる状態で出せる速度はこれが限界、てもな、うちはここからで340km/hは出せる、これがどういう事か分かる?」


 はっはーチートはどんな所でもチートってわけか、全く


「魔法限界まで越して」


「ほな行くで」


 空間を掴み、俺を見据える、限界まで力を溜めて、溜めまく、だが途中で1度だけ表情を歪めた、肉体は限界を超えていない、まだ世界の法則を覚えている。

 だが確固たる意志を持ちその痛みをねじ伏せる、目は紅く染まっているがそれでもまだ血が集まり紅く、紅く、紅く! 染まっている。


「天晴」


 この言葉しか出てこなかった、手を叩いて彼女を褒め讃えたい、そう思う。


「行くで!」


 空気を裂く、空間を捻じ曲げ裂き俺に向かってくる、


「天雷」


 天から落ちてくる雷を思わせるその脅威、間違いなく単純な力の勝負なら彼女に勝てる種族など居ないだろう、これが月読の元王、先程も言ったように天晴の一言しか出ない。

 だが悲しきかな


「狂人化」


 黒い何かに覆われて、俺はその攻撃を避けて首を1度だけ手刀で殴る、彼女はその場に倒れ込む


「な⋯⋯何で⋯⋯あんた⋯⋯が⋯⋯」


「すまんな、言ってなかったな」


 そうそう簡単に俺自身の切り札を教えるわけにはいかないしそれに使おうと思ってもいなかったからな。

 そして勝負ありだ。


「さて俺はここから帰らせってっと!」


 横から少女らしき人影が俺に蹴りを入れかけた、間一髪で俺は避けたが。

 さて誰かな、想像はついてるけど。


「だーれだって言っても1人か」


「ふぅぅぅ!!」


 獣のように俺を睨んでその猫は俺を見据える、


「カグラ、遊ぼっか」


「シリュウ! 倒す!」


 最初から認めていた、彼女は最強の戦士だ。



 血が目に集まり、その目は紅く染まり美しい紫の毛は紅が混じって赤紫になっていた、小さくも獅子のような雰囲気を漂わせている。


「毛染めはいつしたんだ?」


「ふざけるのも大概にしろ!」


「ごめんごめん」


 怒号混じりに怒られたので流石に謝った。


「さてと、初めてだなこの状態で会うのは」


「何で使えるんだ?!」


「知らねーよ、勝手に使えたんだよ、でも結構疲れるなこれ」


 似ているもの、いや向こうが初代で俺が改良版の様なものかもしれない、さっきクレナさんとの1戦で俺の方が能力値が高まるって言うのがわかった、体の負担も元々俺が強いのかは知らないが軽減はされていると思う。


「まあそんなことはどうでもいいだろ」


「ああ、そうだ!」


 俺は顎を引いて戦闘態勢に出る、だがその前に。


「少しあぶねーからここ入っとけ」


 宿の中に入れて、尚且つ俺特製の氷の部屋、どんな衝撃にも耐えられる優れものだ。

 よし、これで準備は出来た、俺は撥を握り直す、漆黒に染まった撥に自分自身が黒い何かに覆われて、黒く染まる。


「じゃあ始めようか」


「ふぅぅぅ!!」


 両者音を忘れ、空気を裂き向かい合う世界を超えた世界のぶつかり合が今始まる。


 攻撃は一度でも当たればそこで終わり、紙一重の世界だった。


「1音 射音」


 絶対に避けられない、その位置からでも彼女は避ける、そして後ろから避けられないと思う距離、速度で迫ってくるのを俺は避ける。

 避けながら次は打音を左脇腹に、だが綺麗に空気を掴んでバク宙で避けられてまた飛んでくる蹴りを避ける、そんなのがここでは繰り広げられていた。

 この間僅か0.5秒ほど、紙一重の神業同士の攻防。


「って、疲れるな」


 0.5秒に全神経を集中させる、動体視力も、反射神経も、何から何まで極限に達する集中力が必要となってくる。

 そしてそれは向こうも同じだ、


「しっかしまあすげーなカグラ」


 あれだけ動いているのに苦しみの1つも表情に出さない、俺の方が顔に出している気がする。


「こんな痛み屁でもない!」


 痛いのだろう、それでも顔に出さない。

 ここに住む住民達には苦しい顔は見せられないって感じか、その王としての自覚流石と言える。


「すげーはやっぱりカグラは」


 その年齢で自覚を持って尚且つ戦い抜く様、俺が同年代なら尻尾巻いて逃げ出していたかもしれない、


「でもな、まだ足りねーもんがあるんだよ」


 俺は撥を回しながらそう言う、カグラは少し睨みをきつくして


「それは何だ?」


「教えてやるよ、それを」


 そう言って俺はまた攻撃を仕掛ける。


 ────────────────────────


 何をしてくるか分からない、足りないもの? ふざけるな、足りないものなんて無い。

 必死にシリュウからの攻撃を捌く、一瞬の気の緩みが命取りになる、気の緩み?


「1度もした事ないわ! 気の緩みなんて!」


 こっちは生まれて間もない時から王になってこの月読のみんなの命を預かってきた、気なんて緩められない、そんなもの生まれた時から捨ててしまった。


「うらぁぁぁぁぁ!!」


 一瞬、刹那に等しいが志龍が絶対防御不可能な体制に陥った、


「来た!」


 そう思った瞬間に渾身の、思いを込めた拳をその腹に叩き込む。


「取った!」


 確実にそう思った、避けられる体制ではない、そして完璧なタイミングで完璧な力の入った拳、一撃で仕留められる、そう思った。

 次の瞬間、カグラは凍っていた。


「今、取ったって思っただろう」


 後ろから声がする、そして氷が解かれる、だが避けられる体制ではない。


「その油断NOだ、馬鹿いっちゃいけねえよ」


 首に重たい衝撃が走る、それと同時に意識が朦朧とする。

 最後に聞いた言葉は


「経験だよカグラに足りねーもんは」


 その言葉を聞いてカグラは倒れた。

さて今回は狂化と狂人化と言うのをテーマにしていきました、世界の法則を狂わせる、そんな力を持ち合わせている同士の戦いは面白いですね!

さて次回はまだ回想編です。

それでは次回までドロン!

PS、カグラの自分の呼び名はカグラとなっていますので悪しからず。

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