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第1章 第32話 ルーベル学園祭編 別れ、運命、そして死をソナタに授けよう

いつも見てくださっている皆さんには本当に感謝しております。

 小さくピアノの音が鳴る、旋律を奏でる、それは別れを悲しむ誰かのために捧げられた歌だ。

 ショパンの練習曲 第10-3 別れの曲として知られている。


「ぴったりの曲だね、今の現状に」


 何も言えなかった。

 青天の霹靂、まさにこのことを言うのだろう、驚きを隠せない、決して壊れないと思っていた石橋が自分を乗せたまま崩れ落ちる、そんな絶望の音と共に哀愁の感情が芽生える。


「ごめんな、お前とは本当に友達にはなれないよ」


 俺は唇を噛んで痛みで紛らわそうとしていた、


「っ! なんで! なんでお前がそこにっ!」


「成り行きってわけでもないけどそりゃ驚くわな、俺自身も悲しいよ、自分がここにいなかったらもっと志龍、君と仲良くなれたのかもしれないな」


 砂を蹴り少し落ち込んだ表情を見せた、でも続けて


「でもそれは現実じゃない、嘘偽りがある偽の世界ではなく、ここは本物の世界、『現実』と呼ばれる場所だ、終わらない起承転結、永遠と続く虚像がある世界だ、絶望だって怠惰だって何だってある世界だ、今、偽を望んでも無駄だ、これが答えなのだからな」


 正解という現実の非情さと運命の冷たく決して合わさっても美味しくないスープを飲まされた、味なんてさっき言った通りだ不味くて怒りを覚えそうだ。


「やるしかないのか⋯⋯」


「望まなくても、それが運命と言うものだからね」


 ベートーヴェン 行進曲第5番第1楽章 運命が流れる、悲しきかな、音は反響し、より一層この運命を駆り立てている、未来から予言されていた運命のように、流れる。


「じゃあ始めようか、運命(さだめ)のけりを」


「っ! 恨むなよ⋯⋯」


 彼はにこりと笑


「ああ、もちろんさ」


 腹部から胸元にかけて好きがある、俺は小さく撥を剣に変える、なるべく苦しまないように心臓を一撃で、短い時間だったが友であった人の為に、俺は


「音速」


 音の速さで、人の反応速度をゆうに超す速度で近づき、その剣を胸に立てる、悲しみと虚しさが詰まったその一撃は彼を貫く。


「悪いな⋯⋯」


 と俺は呟く、でもその瞬間違和感を感じた、何がって、当たった感覚がしない。


「当たった、これは嘘だよ」


 後ろを振り向く、そこにはいつの間に居たのか分からないが彼が立っていた。


「今、殺したはずじゃ⋯⋯」


「殺したろ、当たっていたら、でもこの攻撃を読んでいたとしたら?」


 彼は頭を人差し指で軽く叩く、読まれていたのか⋯⋯。


「不思議そうな顔をしてるね、それもそうだろ、どうやってここまでを読んでいたのか分からないだろ」


 その通りだ全くわからない、1つでも読みを外せば死ぬのだから。


「確かに読むのは難しい、でもその読みに向かわせるように誘導してやれば、どうだい?」


 辻褄が合った、パズルのピースのように、俺は誘導されていたのだここまでの動きを、どうやってかは


「簡単、胸を開けて視線をそこに持ってくる、一番殺りやすく、尚且つ君はまだ僕を友として認識している、だから苦しまずに一瞬で殺せるように心臓を1刺しようと思ったのだろ、そこまで織り込み済みだよ」


 なんという算段、計画性があり、こちらは先に出す手を読まれているジャンケンをしている様だ、こんなの勝ち目がない。

 彼は何かを思い出したかのように手を叩き、そして俺に礼をして


「名乗ってなかったね、黒魔道教 副司教 嘘の 道部 幸四郎、能力は嘘への誘導」


 残酷にも無情なそして冷酷な自己紹介が行われた。


 狐に尻尾をつままれる、本来ありえない事が起こった時に使われる、この状況が俺にとったら狐に尻尾をつままれるってもんだ。


「誘導ね」


 電気磁石のように、金属を自分の所に誘導して集める、そう、俺もこんなふうに相手の思うがままに誘導されているのだろ。


「俺の誘導は全てを考えている、物理、魔法、心理状態、目線、前足がどっちか、他にも見ているがざっとはこんなものかな、これを使って俺は誘導しているんだよ」


 優しく彼は俺を見つめて教えてくれた、そこにはどんな思いがあったのか、勝てるのもなら勝ってみろと言っているのか、これも誘導なのか、俺は前者を信じる。


「やっぱりお前も勝ちにはこだわりがあるんだな」


「ああ、あるよ絶対的なこだわりが」


 朝に見た彼の目はただ勝ちを欲している猛獣に等しいそんな目をしていた、そして今もだ、悲しみがある中で彼はまだその目をしている、なら俺も答えなくては。


「狂眼」


 目を開く、そのオッドアイに映る彼は悠然として俺を見据えていた。


 ジリジリとその刻は近づく、どちらも攻撃を仕掛けない、これが俺なりの彼の誘導に対する対策ではあったが、これですら誘導させられてたらたまったもんじゃない、なら


「こっちから行くぜ!」


 音速無しで走り出す、俺は撥で


「2音 射音」


 音を放つ、だがどちらとも躱される、でもな、これは俺が誘導してやった番だぜ、左にお前は居る。


「音速」


 音速を使って俺は避ける前に左に行っていた、そう彼を誘導してやったのだからな、予想的中、ありったけの力を込めて


「1音 打音」


 右の撥でその胴体を捉える、


「流石だ、これは俺が誘導させられてたってわけか」


 捉えた!


「でもこれもシナリオ通りさ」


 身を翻して躱される、そして防御をする暇もなく彼は俺の顔に蹴りを入れた。


 俺は数メートル先まで飛んだ、そして止まった所にも


「ジョーカーだぜそこは」


 地面から火が出てくる、業火にも近いその炎が俺の身を焼く、


絶対零度(アブソルゼロ)領域(リージェン)


 その炎を凍らせる。

 すると次に矢が飛んでくる、それを上に避けると上にはまた彼が居て、回し蹴りをいつの間にかされていた、またその次も、そしてその次も⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 そして20分が経った。


「どうだい、蹴られる気分は?」


 打ち身でもしてるのではないかって位蹴られた、腹に、腕に、足に、顔に、各部に蹴りを入れられている、かなり痛い。


「ああ、最悪だよ」


 俺は弱い、そう感じた、その前に俺は1つ気になったことを聞く


「お前、こんなに良い能力持ってるのになんで司教じゃないんだ?」


 素朴な質問だったが俺には大切なことだ。

 彼は1つため息をついて


「ただ単にその資格()()が無かったってだけさ、それに、司教はこんな現実味を帯びた能力なんて持って無い、もっと非現実的で僕ですら誘導ができない人達さ、

 それに嘘の司教は本当に強い、今の君だったら負けるかもしれないね」


 資格が無い、そう彼は言った、その資格というものがどういうものか分からないが、それでも彼には足らなかった、そして嘘の司教というのは相当な能力を持っているらしい。

 そんな化け物じみた奴らが集まっているのか、


「怠惰ですら、何番目だっけ?」


「私で5番目ですよ、正確に彼らが能力を使えばもう少し下がるかも知れませんがね」


 淡々と司教である奴は俺たちに伝えた、これで最弱ってか笑わせるな。


「まあもう君には関係ないかもね」


 そう言って両の手に短刀を持つ。


「君にはこれで死んでもらうよ」


 とまた俺を誘導するのだろう。

 ジャンケンで俺はさっき、誘導させられていると言ったな。

 必ず負けるだろ、そうイカサマをしなかったらな。


「チートって好きか?」


 彼はその言葉に少し反応する、準備は出来た、さあ反撃でも開始しようか。


「狂人」


 狂い、猛威を振るう獣に成り下がった者が1匹、黒を身に纏い、その獲物を殺すために向かう。


 黒き獣が彼の目の前に現れる、狂人、単純能力を上げ、魔力量、加護の力を上げるとかいう超ハイスペックチートだ。


「さて、道部、お前は言っていたよな、物理、魔法などを使って読むと」


「ああ、」


「ならそれを出来なくしてやるよ、物理限界を魔法の限界を、加護の限界を超えたこの力でな」


 俺はそう言って彼を攻撃する、瞬間、彼の体は吹っ飛んだ、当然だろ、今俺の力は通常時の2乗の力を持っている、そしてそれは加護も同じだ、音の速度、つまり秒速360mの2乗、その速度マッハ360、天文学を考える光の速度よりは遅いが、音などゆうに超す速度だ。


「⋯⋯嘘だ⋯⋯ろ」


 呟き、その考えにくい速度で、そしてこの空間で起こっているありえない現象に言葉すら出てこないという感じだ。


「悲しいかな、これが差ってやつだ」


 俺は静かに伝える。

 彼は物理の公式でも立てているのだろう、静かに何かを呟いている、でもそんなの意味が無い、狂人にそんなもの通用しない。


「ぐはぁ!」


 打音を加える、何度も、何度も、避けることすら出来ない様子だ、蜘蛛に捕まって逃げることが出来ない蝶の様にもがく事さえも許されない。

 俺は何を思っている? 何も思っていない、感情は鈍り、戦う闘志だけがある、このまま彼を、道部を殺しても涙一つ流せないだろ、そう思っていてもその手は、その体は彼を壊すことを止めない。


 10分くらいだら、体に疲れが出始めて、そしてここでタイムアップだ、狂人は消えた。


「はぁ、はぁ⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯」


 息を切らす俺に対して彼は小さくでしか呼吸ができない、体中にアザができ、骨は粉々に粉砕され、内蔵は潰されている、もうこのまま放置してもやがて死にゆく命となった。

 俺は彼を見据えて、撥を剣に変え、一言


「じゃあな」


 彼は笑って


「ああ、またいつか会えたらいいな」


 俺は彼の心臓を刺す、心臓から大量の血液が流れて、そして彼は倒れた。


「こんなことにはしたくなかった⋯⋯」


 俺は静かに寝ている彼を見てそう呟いた、すると、彼の口から何かメッセージを伝えるように何度も声にならない声を上げていた、俺は口元に耳を近づけて、注意深く、その言葉に耳を傾ける


「いつか⋯⋯また⋯⋯お前⋯⋯と、走り⋯⋯たいぜ⋯⋯そし⋯⋯て、次⋯⋯は友⋯⋯達に⋯⋯なろう⋯⋯な⋯⋯」


 声にならない、彼の思い、そしてこの別れに対する俺の思い、悲痛なまでに別れのメロディーを奏でている。

 そして俺自身も嗚咽を、涙を、感情を思いのままにさらけ出し、嘆く、彼という存在がたった1日の朝にあっただけかもしれない、それでも俺にとっては大事なものであり、この涙を流す元となった。

 嫌いだ、涙を流すのは、ダサいとかそんなんじゃない、ただ単に嫌いなだけだ。


「ばかやろ、当たり前だっつーの」


 そう言うと彼は安らかに笑顔で眠った。


「いいですね」


 上から空気を読まない声がした、俺は涙を拭き奴を睨む。


「別れと運命、そしてその運命(さだめ)によって死んだ者への涙という弔い、素晴らしい! 実に、実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に実に! 素晴らしい!

 最高の鎮魂歌(レクイエム)だ、ああ、神よ! この者に祝福あれ! そして死んだ者に来世は素晴らしい未来を歩める世界を授けてやって下さい!」


 こいつだけは許さない、本当に、心の底からの憎悪という黒炎に似た黒い憎悪が宿る、彼の死ですら奴にとってはただ美しいだけ、悲しみなど上辺だけでない、狂っている、人として狂人であると言える。


「お前だけは絶対に許さない!」


 俺は思っていた憎悪を口に出して音速で奴に近づく、だが見事に躱されて、そして地獄のような一言を告げられる。


「私が許そう、死をソナタに授けよう」


 死の鎮魂歌(レクイエム)が耳元で囁かれた。

さて、別れというテーマでした、志龍にとっては辛いでしょう、友と呼べる存在を自分の手で殺さなくてはならなかった事に、そして殺したことに。

さて次回はあの怠惰の切り札、そして美穂達がどうなったかを書いていきます。

それでは次回までドロン!

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