第1章 第25話 ルーベル学園祭編 決着の時、黒き剣と黒き撥
いつも見てくださっている皆さんには本当に感謝しております。
半分飛んでいる意識、今にも倒れそうなその体、なのに目だけは俺をずっと睨み見据えている、だから侮れないんだハルは、死んでも死なないそういう奴なんだ。
だからこそこいつに隠しておいた未知の領域を使うことにした。
「聞こえているかは知らないがまあ言っておく、この状態は本当にお前に危険になる、それと同時に俺にも負担がかかる、だから早急に決着をつけさせてもらう」
そう言って俺は1度目を閉じる。
「何をしてるんだ?」
ハルの声が聞こえたが俺は答えない、これはかなり精神的にも疲れる。
まず意識の深層部に俺は辿り着く、少し歩くとそこに一つ魔法陣がある俺は犬歯で親指を少し切って血を出す。
青白く光っていた魔法陣は赤くなり俺はその中心に立つ、すると魔法陣から黒い何かが出てくる、それは俺の体を纏付き俺はその黒い何かに覆われた。
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あいつが何をしているのか俺には分からない、意識が結構戻ってきて何が起こっているのか少し状況の整理が出来た。
俺は少しだけ志龍を追い込むことが出来たのだろう、ほとんど覚えていないがただ刀を振っていたということは覚えている。
「けっ! これで勝っても面白くねえよ、まあまだほとんど勝てる確率なんてないんだけどな」
まだあいつに明確な傷を付けていない、それに驚いたり想定外が起こっているだけでまだこちらには流れは来ていない。
恐らくこれからだろうあいつの本気ってものが見れるのは。
「へっ! いいぜその本気ってやつを見せてくれよ俺もそろそろ本気っていうかあいつらを使うからさ!」
俺も闘志を燃やす、恐らくこれで最後になるだろう俺の全力を志龍に叩き込むために、神経を極限まで尖らせる、切れるか切れないかの瀬戸際にある糸のように、集中力は最高潮、今なら何でも切れる、そう自身に満ち溢れている。
志龍、どんな技でも俺は倒せる自信があるぜ! そう思っていた。
だがそんな幻想、すぐに打ち壊された。
「なんだよ⋯⋯あれは⋯⋯」
黒い気と言うべきなのかオーラと言うべきなのか分からないが何か黒いものが志龍の周りに漂っている、そしてそれと同時にとてつもない恐怖に襲われた、次元が違う、こいつとは戦うな、そう脳が言っている。
冷や汗じゃない、脂汗が出てきそうだ。
「んだよあれ」
どこかの師匠に似ている、挑んでも絶対に勝てないそんなオーラを漂わしている。
認めるしかないのか。
「いいぜ認めてやるよ、認めたくないけどな、師匠と並ぶお前が戦う中で1番強いよ!」
恐怖どころか畏怖すら出来ない圧倒的存在がいる。
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意識が目覚めると体は軽かった、でも頭は痛いし今にも意識が崩壊しそう、これを何とか留めている状態だ。
「あーくそ、久しぶりに気分が悪い」
こんな気分になるのは久しぶりだ、使いたくなかった、意識を何か別の恐ろしいものに刈り取られそうになる、でもその代わり力と自身に満ち溢れている。
「さてハル」
俺は小さく彼の名を告げて一瞬、本当に瞬間移動をしたかの如くハルの目の前に現れる。
「?!」
ハルは驚いて距離を取ろうとするが俺はその前に前蹴りを腹部に決める、血を吐きながら壁にぶつかっていった。
俺はすぐに彼の元に行き正拳突きを顔面目掛けてやるが避けられた。
どうやらこれは本当のハルでは無い。
「少しやりすぎじゃないか?」
「アメジストか」
「そうだよ、と言ってもさっきもあっているね、でも全然雰囲気が違うね志龍君」
「これは『狂化』かい?」
正解だ、でも少し名が違う
「正解ですよ、でもこれは『狂化』であっても少し違う、『狂人化』ですよ」
またもこれは獣人族の一部の者しか出来ない技だ、でも『狂化』は自分の基礎能力を高めるだけだがこいつはそれに+αしてある。
「まあそんなの関係無い、私が出た時点で君の負けだ、でも本気を出させてもらうよ」
と言って
「まずはそこに止まってもらおう、そうしてもらわないと『嫉妬』してしまうよ」
嫉妬の具現、彼女は嫉妬という感情で世界を変えられる、でも
「⋯⋯何で?」
森羅万象を変えられたとしても今の俺は変えられない。
「何で効かないんだ?」
想定外、本当に起こりうる無いと思っていたものが起こった。
「教えてやるよ」
「狂人化、これは普通の狂化に加えてある能力が追加される、でもその前に狂化の説明も必要だろ、
能力的にはアメジスト、お前も知ってるだろ、でもな具体的にどれ位パワーアップするかというと、2倍だ、
更に狂化の力にはギアがある、全部で5段階あり、その1番初めのギアを俺は解放しただけだ、それで2倍だ、分かるか、これが圧倒的な力の差、ハルはこれに対応しきれなかったんだ」
「そしてまあ後もう少し狂化にも能力があるがそこは略しておこう、ここまでは狂化も狂人化も同じだ、でもここからが違う、
狂人化はこの力に加えて『相手の特殊能力を封じることが出来る』というものがある、これはどういう事か分かるよな?」
と言うとアメジストは下唇を噛んで俺を睨む、
「加護や能力は1式封印される、だからお前の『嫉妬』も通用しなかったんだよ」
「本当に厄介なものを持っているね君は、これじゃ勝ち目が無いよ」
能力である嫉妬がない限り、彼女も普通の人と同じだ、
「止めるか?」
「いやいいよ、こう見えて生前は騎士だったんだよ、ハルほど上手くはないが剣は使える、そして私はハルの代わりに戦わないと駄目なんだよ」
と言ってかかってくるがすぐに制止する。
「俺がやる」
ハルの声がする、全くしぶといと言うか本当に根性強いやつだ。
「君のタフネスさは褒めるけど君が今からやろうとしていることは無謀ってやつだ、素直に言おう止めてもらえないか」
アメジストは真剣にハルに伝える、でもハルは笑った、
「それはお前もしようとしていることだぜ」
「っ⋯⋯」
ハルに言われた言葉に反論ができずにアメジストは困っている、ハルの言う通りだ、アメジスト、彼女もやろうとしていることは無謀ってやつだ。
「だからな、お前に無謀をやらせるわけにはいかねえんだよ」
「何故だい?」
「お前達だからだよ」
ハルは伝える、
「なーんて言ったらいいか分からないがそれでもお前達にこの無謀をやらせるわけにはいかねえんだよ、それに安心しろ」
と笑顔になって、
「俺って無謀ってやつ結構好きなんだぜ!」
と言うとアメジストは呆れている、笑いながら呆れている。
「本当に呆れるよ、君には後で少し説教をしないといけなさそうだ」
「げっ⋯⋯」
ハルは少し嫌そうな顔をする
「でも、君のそういう所本当に尊敬するよ、そして好きだよ」
と言って彼女は消えていった。
「さて志龍、待たせたな」
「結構待たされたぜ、後でジュース奢れよ」
「はっ! 奢って欲しけりゃ俺を倒してみろ!」
「いいぜ! やってやるよ、さあ始めようぜ本当の戦いを!」
間合いを詰める、そして黒き剣と黒き撥がぶつかり合う時、この本当の戦いの始まりとともに最終ラウンドのゴングが鳴らされた。
ぶつかり合う剣と撥、でも押しているのは撥の方だ、力が倍となって俊敏性も上がっておりこちらが一方的に攻撃をしている形になっている、でも本当の一打を与えきれない、それだけはハルに捌かれる、それを繰り返している。
「ちっ! なんだよハル上手く捌きやがって」
「へっ! お前の攻撃は確かに強いぜ、でもなそれだけじゃ勝てねえ、ワンパターン過ぎるんだよ」
と言われたので少し連撃をやめ
「んじゃこれはどうだ!」
脇腹に蹴りを入れる、そのまま吹き飛ぶさてそろそろ終わらせるか。
「ぐはぁ!」
血を出している、そこに俺は
「1音 氷打音」
氷魔法と打音の合わせ技、打音による内臓へのダメージに加えて血管の一部を凍らせた、これによる激痛は半端じゃない。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悶え苦しんでいる、そこに俺は
「チェックメイトだ、『言霊』」
音の精霊達による攻撃、避けるすべがないハルはすべてくらった、100をゆうに超える音の精霊による攻撃はハルの骨を砕き、内出血を起こさせて、意識を刈り取った。
「俺の勝ちだハル」
勝負が決まった、俺はハルに背を向けて帰ろうとする、そして審判達も近づいてきて
「勝者!」
勝者を伝えようとするが、その顔が青ざめていく。
「一刀両断、乱心、心乱れにあらずして剣を握る、三千世界、弥勒の世界にも剣ありて、我が生涯剣に捧ぐ」
もう意識は無いはずだ、なのに何故立てるんだ?! 俺は振り返り大声で
「ハル! もう勝負は付いた! お前の負けだ、これ以上やる意味は無いだろ! なのに何故やるんだ!」
「古来伝授、武術の極みこれすなわち剣術にありて」
魔力が高まっていく、上段の構えをしている剣にその魔力が溜まっていく、黒が漆黒となり最強の剣ができた。
「我剣を極めたもの、そしてこの刀黒を纏い、勝利を纏う、いざゆけこの一撃よ『黒刀 黒界一刀一夜』」
黒の衝撃波が来る、その一撃は誰よりも重く、誰よりも硬い決意に見えた、彼の信念、執念、思いなどがこもった一撃だ、でもこれらの根底にあるのはたった一つの思い。
「志龍に勝つ」
この思いだろう、そしてその思いが生んだこの攻撃、俺も思いに答えるべく撥を構えた、そしてハルに
「じゃあな、ジュース奢れよ」
「1音 全力轟音!」
全力の轟音、これは狂人化を纏い倍の強さとなってハルの思いにぶつかる、俺が持つ思いを込めた一撃だ、俺が持つ思いは
「ハルを倒す」
この思いだ。
そして黒の衝撃波とぶつかった、勝負は一瞬にしてついた、俺の轟音の勝ちだった。
そしてハルはそのまま威力は落ちたものの轟音をくらった、その後は俺はもう知らない。
俺は振り返らずに勝者として闘技場を後にした。
────志龍対晴人戦 勝者志龍────
次回で志龍対ハル戦集結です、と言っても終わったあとの話です。
そして次回で体魔祭開戦が終了します!
今回も最後まで見て下さって本当にありがとうございます!
では次回までドロン!