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だって、好きだった。



 私は、好きな人がいる。

 

 彼氏ではない。


 でも、キスはする。


 セックスもする。


 この関係は、誰にも言わない。


 誰にも言えない。


 だって彼は、



 友達の彼氏だから。





 高校2年になって、クラス替えがあって、たまたま席が近かった里奈と仲良くなった。


 暫くして、里奈が同じクラスの川田くんと付き合う様になった。


 爽やか系で、彼女の友達のワタシにまで優しくて親切な川田くん。

 

 初めは、【里奈の彼氏】としか見ていなかった。


 なのに、川田くんに里奈のことで相談されたり、少しずつ会話が増えていく度に、どんどん好きになっていってしまった。


 川田くんは里奈の彼氏。



 分かっているのに、自分を止めることが出来なくなっていた。


 川田くんのことが好きで好きで仕方なかった。


 どうしても自分の思いを抑え切れなくて、川田くんを呼び出して告った。


 当然、振られた。


 でも、諦められる自信がなくて。


 だって、どうしようもなく好きだったから。


「1番じゃなくていい。1番は里奈でいい。里奈が最優先でいいから、川田くんの時間を少しだけでも私に裂けないかな。その時間だけでいい。私を好きになってくれないかな」


 簡単に2番に成り下がれるほど、プライドなんかアッサリ捨てれるほど、私は川田くんが好きだった。


 川田くんは、私の提案を承諾してくれた。


 里奈と仲の良い私と気まずくなるのが面倒だったからかもしれない。


 それでも良かった。何でも良かった。川田くんと一緒に居られる時間が増えるなら、理由なんかどうでも良かった。


 ひっそりこっそり、私たちは連絡を取り合い、会う様になった。


 1番じゃなくていい。2番でいい。会えるだけで充分。


 そう思っていたはずなのに、どんどん膨らむ欲望。

 

 その欲望を吐き出してしまったら、この関係は終わってしまう。


 分かっているのに、1度だけわがままを口にした。



「来週の日曜日の私の誕生日、デートがしたい」



 今まで誰にもバレることなく、この関係を維持出来ている。


 大丈夫だと思った。


 1度くらい川田くんと普通にデートして、川田くんを独り占めしたいと思った。



「いいよ」



 きっと、川田くんも油断していたのだろう。


 今まで大丈夫だったからと言って、次も同じとは限らない。


 クソガキな私たちに、そんな考えはなかった。


 今まで大丈夫だったのだから、今度だって大丈夫。


 余りに幼くて、愚かな思考。




 誕生日がきて、2人で手を繋いで街に出た。


 お買い物をして、遊園地にも行って。


 楽しかった。凄く凄く楽しかった。


 一生の思い出が出来たと思った。


 そんなデートも終わりかけていた時、


「……川田と冴木? なんでお前らが一緒にいるの?」


 後ろから、聞き覚えのある声がした。


 振り返ると、一緒のクラスの二宮くんが、眉間に皺を寄せながら私たちを見ていた。

 

 咄嗟に川田くんが、繋がれていた私の手を振り払った。


 涙を誘う、傷つく行為。


 だけど、泣いている場合ではない。


「川田って、中岡と付き合ってるんだよな? 冴木と中岡って友達じゃなかったの? お前ら、何してんの?」


 全てを悟っただろうのに、詰め寄ってくる二宮くん。


「私が頼んだの。川田くんは何も悪くない」


 川田くんを擁護したのは、決して川田くんの為ではない。


 川田くんに嫌われたくない、自分の為。


「冴木の誘いに乗ったんだから、川田も同罪だろ。お前ら、最低」


 二宮くんが吐き捨てた言葉に、川田くんの顔が強張った。


 川田くんは、今日私とデートをしたことを後悔しているだろうか。



 -----------それだけは、絶対に嫌だ。



「二宮くんお願い! 何でもする‼ 二宮くんの言うこと、何でも聞く‼ だからお願い‼ 今日見たこと、誰にも言わないで‼ お願いします‼」


 私たちを蔑む二宮くんに、頭を下げて懇願。


 川田くんに嫌われたくないの。今日のことを後悔して欲しくないの。これからも、川田くんの傍にいたいの。


「何の為に俺が黙ってなきゃいけないんだよ」


 軽蔑しきっている目を向ける二宮くん。


 二宮くんは私の腹の内を見透かしている。 


 本当のことなど、言ってはいけない。


「里奈を悲しませたくない」


 歯の浮く様な綺麗事を漏らすと、


「馬鹿じゃねぇの。だったら普通最初から友達の男になんか手出さないだろ。自分の保身の為だろうが。ふざけてんじゃねぇよ」


 やっぱり私の本心を見抜いていた二宮くんは、嫌気が刺した様子で私を蔑んだ。


「何もしなくていいよ。俺の言うことなんか一切聞かなくて結構。だから、お前のお願いなんか聞く気ない」


 そう言い放つと、二宮くんは私たちの横を通り過ぎて行った。


 呼び止めようにも、何をすれば良いのか、何を言ったら良いのかが分からない。


 どうすることも出来なくて「どうしよう」と川田くんを見上げると、


「やっぱ、関わらなきゃ良かった。俺、帰るわ」


 川田くんは私に視線を合わせることなく、私を置いて駅の方向に歩いて行ってしまった。


 川田くんが零した後悔に、絶望感が渦巻いた。



 1人取り残され、大切な人を失った17歳の誕生日。

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